まなざしの現在性──都市・メディア技術・身体

吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)+南後由和(明治大学情報コミュニケーション学部専任講師)

原広司研究室での経験


南後──ここまで『都市のドラマトゥルギー』から『視覚都市の地政学』に至るまでの話をしてきましたが、ここからは少し話題を変えて、『都市のドラマドゥルギー』以前のことについてうかがいたいと思います。吉見先生は学部卒業後、原広司研究室に研究生として所属されていましたが、それはどのような経緯からだったのでしょうか。また、原研究室で学んだことのなかで、その後の社会学の研究や『都市のドラマトゥルギー』につながっていった部分はあったのでしょうか。


吉見──大学に入ったのが1976年で、もともと理系でしたが、如月小春さんや演劇の影響がとても大きく、演劇で考えていたことを都市のなかで考えたくて文転したのです。1970年代後半は、唐十郎さんや寺山修司さん、佐藤信さんらによるテントの芝居などをよく見ていました。紅テントにしても、黒テントにしても、芝居は都市の異界のような場所でやられていましたし、私にとっては演劇と都市は一体のものです。ただ、如月さんには敵わないなと思っていて、大学に残る道を選びました。原広司先生は駒場に教えに来られていて、授業のあとに僕が質問すると、面白がってくださり、ちょっとその後、喫茶店に行ったりして、いろんなお話をするなかで、ものすごく魅力的な先生だなと思うようになりました。それで、「そんなに都市に興味があるなら、1年くらい建築の連中と一緒に飯を食ってみたらどうだ」と言われ、原研の研究生になりました。建築のことはよくわかりませんでしたが、建築家の竹山聖さんや宇野求さんがいて、小嶋一浩さんは後輩でした。私は割とすぐにどこでも馴染みやすいタイプなので、建築の連中とよく遊んでいましたね。それでも、私は自分では建築的思考はしませんが、建築のみなさんが何をどう考えるのかとか、自分の思考との違いはわかるようになりました。 当時は、ちょうど原研究室が世界各地の集落調査を終えたときで、成果をまとめていました。調査に参加できなかったのは残念でしたが、もし実際に行っていたら社会学に戻って来られなかったかもしれません。原先生が設計された建築は、京都駅を含め、どれも本当に集落調査からの大きな影響を感じます。
演劇とのつながりで言えば、やはり建築は舞台装置であり、僕はドラマや上演そのものに関心があったのですね。それなので、社会学に戻り、その後の著書でも多少建築空間について書いていますが、フォーカスしているのはパフォーマンス、出来事です。劇場や舞台は不可欠ではありますが、ドラマがどう成立しているかということへの関心が強く、出来事の社会学をやっていると考えています。やがて、東京大学新聞研究所で職を得て、それが情報学環へとつながっていきます。博覧会への関心も、それが都市のなかでメディアに媒介されるドラマであるからです。


南後──『都市のドラマトゥルギー』と同じ1987年に、原さんの『空間〈機能から様相へ〉』(岩波書店)と『集落への旅』(岩波書店)が刊行されています。原さんの言う「様相」は、吉見先生の言う出来事やプレテクストに通じる点があるように思います。原さんの空間論には、エルンスト・カッシーラーによる関係性の概念(関数概念)などから組み立てられている側面があり、そのあたりの原さんの問題関心と吉見先生の出来事に関する問題関心が交差していたのではないかと推察していたのですが。



吉見──やはり、根本は集落だと思いますね。原先生が考えられることは、何というか論理的な組み立てというよりも、天才的にパフォーマティブなんですね。もうずっとあとのことですが、日本には剛速球やカーブを投げられる建築家はいるけれども、スライダーを投げられる建築家がいないと話されていたことがありますね。これ、南後さんわかりますか? 私にはわからないですね。それで、先生、わかりませんと言ったら、CDプレーヤーを持って来られて、なんだか雷の落ちるような音楽を聴かせるんです。「音が落ちるだろう」って。スライダーの建築というのは、空間が落ちることだそうです。しかし、地震じゃないんだから、空間は普通、落ちない。というか、落ちたら、本当に危ないですよ(笑)。それで、ますますわからなくなってくるのですが、とにかく、原先生的には、空間は、走ったり、曲がったり、落ちたりするんですね。そのような動的な空間、つまり動きを伴った空間を、いろいろな数学的な式を使って表現してこられたような気がします。つまり、私は空間で身体が演じていると思うのですが、原先生的に考えると、空間そのものが演じていくことになるのだと思います。


201609

特集 都市・映像・まなざしの地政学


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