刊行記念対談:石川初『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い──歩くこと、見つけること、育てること』

石川初(ランドスケープアーキテクト)+大山顕(フォトグラファー/ライター)

石川初──本日はお足元が悪いなか、こんなにたくさんの方にお集まりいただいてありがとうございます。たくさんの皆さんのお世話になりながら、ようやく出版することができました。今日は大山さんと一緒に、普段とは違う視点から面白い議論ができればと思います。

石川初『思考としてのランドスケープ
地上学への誘い──
歩くこと、見つけること、育てること』

最初に、今日は刊行記念ということで、『思想としてのランドスケープ 地上学への誘い──歩くこと、見つけること、育てること』の内容について喋ります。タイトルが長いので、僕の研究室では略して『思ラ本』と呼んでいます。はじめに、第1章で書いている神山町の「FAB-G」とそれに絡めて最近考えていることを紹介します。その後、今日お迎えした大山さんにもお話をしていただきます。第6章「土木への接近」では、僕が念願だった「大山顕」論を書きました。

大山顕──僕が今日死んだら、この『思ラ本』に書いてあることが、今後僕の人間像として認知されることになりますね(笑)。

石川──大山さんの思想はこういうふうに読むべきだ、ということを書かなくてはいけないと10年以上思い続けていて、今回ようやく本に掲載することができてよかったです。

大山──僕は郊外論などの分野で、団地を面白がっている奴がいるがあれはどうなんだと批判を受けているところがあるんですね。団地をずっと扱っていると、ノスタルジー好きと思われるか、ただ面白がってやっているだけと思われるかのどちらかなんですよ。そうじゃないんだけどなと思っていたところ、石川さんがこの『思ラ本』で指摘してくれたんです。団地というのはあくまで入口であって、じつはその先にもっと普遍的な事象がある。だけどその入口にしては団地というコンテンツが面白すぎたので、みんな入り口で楽しんでいるだけなのです。第6章「土木への接近」に関して言うと、土木性ってある意味でものづくりの根幹だと思うんですよ。その根幹にも『思ラ本』は触れているんじゃないかと思います。

FAB-Gの仕事がつくる風景

石川初氏

石川──ありがとうございます。ではさっそく内容に入りたいと思います。第1章に書いている「FAB-G」をちゃんと印刷して世に出したということが、私としては快挙なんです。これはFAB-Gと出会った徳島県神山町の風景です[fig.1]

fig.1──神山町の農村部
撮影=石川初

神山町は、四国山地によく見られる、急峻な山の上のほうに人が長く住んでいた地域です。吉野川の支流の鮎喰川という川の流域がそのまま町域になっています。徳島空港から車で時間くらいの、まあ山間の田舎です。最も多い時の人口は2万人以上だったのですが、現在は5,000人ほどがお住まいです。ここに最近、古くからの友だちのひとりがご夫婦で移住して、町を次世代につなげるためのいろいろな事業を担っています。そのご縁で声をかけてもらって、研究室の学生たちと一緒に訪れたのが、神山町を知ったきっかけです。

こういう急傾斜地に棚田や段畑があり、自然石積みの擁壁が重なる風景がそこかしこにあります[fig.2]。鮎喰川の上流のほうと下流のほうでは積まれた石の形や大きさが違うとか、地質図と石積みを見比べながら歩いていると、場所によって石の形や色が違うことなども観察できます。また、こんな石積みというか、手で積んだ擁壁を見つけました。これはコンクリート舗装の破片をコバ積みにした壁です。こういう「新素材」を使った石積み擁壁を、われわれは「ハイブリッド石積み」と呼んでいます[fig.3]

fig.2──神山町の急傾斜地の石積

fig.3──ハイブリッド石積み
ともに撮影=石川初

大山──僕の味方だと思っていた石川さんが「石積み」とか言い始めて、農村に行って「やっぱり自然が一番!」みたいな方向に行ってしまったのかと心配になったんだけど、コンクリートを粉砕してコバ積みにしているのが面白いと言っているのを聞いて安心しましたよ(笑)。

石川──自然石を積んだ石積みも好きですが、これも見逃せません(笑)。神山町では、コンクリートを部分的に使った石積みの風景は目立つんですよ。地元の方から、「日本の棚田百選」に選ばれなかった理由のひとつがコンクリートが目立っていたからじゃないか、と聞いて、われわれはむしろそれに憤慨したんです。これはこれで本物の日本の棚田風景だろ、と(笑)。

大山──万里の長城の石積みは近くの川から採った石でつくられていたし、神山の石積みも近くにあったコンクリートを使った。本当はこういうあり方がトラディショナルなはずなんだよね。

石川──周囲にある素材が変わっても、それを積むという行為が変わらない。むしろ、新しい材料が取り込まれているものはアクチュアルだと言えるんじゃないかと。石積み以外にそのような現場スキルが見えるものとして、例えば個人が勝手につくった小さい橋が神山町にはたくさんあります[fig.4]

fig.4──勝手につくられた小さい橋
撮影=石川初

こういう手づくりの小さな橋の工作が興味深いのです。自然石の上にモルタルで仕上げている橋や、鉄板の上にモルタルでステップをつくった橋。施設を設計する立場に立つと、素材の意味を考えてしまうのでこういう工作はできない。でも、材料についてのリテラシーは高くて、現場に臨床的FAB能力がある、そういう状況だと、素材の意味などが乗り越えられて、こういうハイブリッドなものが生まれてくるんだと思います。

FAB-Gによる「緩い分類」

石川──神山町の山間部はニホンザルによる農作物被害に悩まされています。写真はその対策としてつくられた「サル追い」[fig.5]です。

fig.5──サル追い装置
撮影=石川初

これは非常に実用的な「ししおどし」で、ものすごく良くできているんだけど、構成する部材はすべてもともと違う用途をもっていました。つまり転用でできているんですね。軸はおそらくリヤカーの軸受け部材で、音が鳴る本体の鉄板はロッカーのドアです。川の水を使っているので水道代はかからず、24時間稼働しています。このサル追いはものすごく大きい音がするので、屋根にまで乗っていた猿が音を恐れていなくなったそうです。製作者はSさんという農家のお父さんで、すごくものづくりの技に長けた方です。このように巧みな工作をするおじいさんを、敬意を込めて「FAB-G」と呼ぶことにしました。SさんはFAB-G第1号です。

大山顕氏

大山──彼らは自分がFAB-G呼ばわりされていることは知っているの?

石川──面と向かっては言ってない(笑)。いや、でも研究室でつくった『神山暮らしの風景図鑑』を差し上げたから知っているかな。FAB-G第2号のMさんの家には、枝分かれした木の二又の部分を利用したフックなど、樹形がなにかに転用されているものが多く見られます[fig.6]。またこのフックにマイカ線というビニールハウスのビニールをまとめる紐を取り付けて籠を吊るしたりします。農家の軒先では、マイカ線が転用されている場面にも多く出会います。マイカ線を見始めると、農家の軒先の観察の解像度が劇上がりします。OさんというFAB-Gは、古い電柱を転用して土留めに使ったり、軒下の柱を曲がった木に取り替えて人や軽トラックが通れるようにしたり[fig.7]、ワイヤーハンガーや釘を壁に取り付けて道具を吊るす「FAB-Gの壁」をつくっていたりと、なかなか巧みなことをやる方です。

fig.6──樹形がなにかに転用されている

fig.7──FAB-Gがつくった軒下の空間
ともに撮影=石川初

ペットボトルでスズメバチを捕まえる罠をつくっておられたりして、「これ、すごくいいですね」と感動していると、「ええやろ、でも今はこれや!」と蜂用の殺虫スプレーを出して見せてくれる(笑)。この、都会人の安直なロマンティシズムを打ち砕くFAB-Gのリアリズム(笑)。
FAB-Gの世界観というか、モノに対する姿勢は、たとえば使われている道具の素材に現れています。FAB-Gたちは杉板の桶と100均で買ったようなプラスチックの洗面器を等価に扱っています[fig.8]

fig.8──杉板の桶とプラスチックの洗面器
撮影=石川初

私たちはこういう使い方はなかなかできない。それは、モノや素材の意味を考えてしまうからです。
神山の農家にお邪魔して、庭先や軒先を拝見していると、何かの資材のようなものが束ねて置いてあるのをよく目にします。畑の隅っことか、石積みの脇とか、fig.4のように納屋の壁際とかに置いてあります。たとえば、塩ビ管と鉄筋と竹の棒と角材とが、一見無造作に重ねてあります。ここに見られるのは、「細くて長くて固い」みたいな程度の「ゆるい分類」です。
たとえば農機具や大工道具などは、形状や用途によって細かく機能的に分けられて並べられています。この「強い分類」と比べると、「ゆるい分類」のゆるさがよくわかります。
いくつかの農家を調べさせてもらったんですが、敷地内にはゾーニングがあって、特に頻繁に使われているものとあまり使われていないものがそれぞれ分布をなしています。「ゆるい分類」によって集められているものはだいたい使われていないもののゾーンに取り置かれていて、保管というより「保留」のような扱いを受けています。

大山──断捨離しちゃダメなんですね(笑)。

石川──断捨離はダメ。そして、断捨離せずに保留していたものが、何かの用事が生じた時に「再発見」されて、サル追いをつくるために用いられる。このとき、資材があまり強く分類されていると、もともとの意味が強いために、転用がしにくくなる。かといって、単に乱雑なゴミの山から有用なものを見つけるのは大変です。この、ゆるく分類された様子こそが、サル追いのような工作のクリエイティビティを支えているんじゃないかと思うんです。

FAB-Gが、たとえばホームセンターに行って、何かに使えるかもしれないという動機で資材を買ってくるということは考えにくい。FAB-Gの庭では、既製の施設や装置を補修したりするために購入されたものが、壊れたり使われなくなって、ゆるく分類されて保留される。そして何か用事ができたときや、既製品の一般性と使う人の固有の事情のギャップを埋めるときに、保留されたものたちを使うFAB-Gの能力とスキルが発揮されるということなんです。

さっきのMさんは木の枝でフックをつくるためにノコギリを持って雑木林から枝を切ってきたりするんだけど、資材を求めて雑木林に入るというより、仕事のついでにふと良さそうな木の枝を見つけて切り取ってくる、という感じなのだそうです。Mさんにとって山の雑木林は軒先と同じように、緩い分類で木材がストックされているように見えているのではないだろうか。

私たちはこのような感覚を失ってしまったのではないかと考えていたのですが、そのときに素人の手作りインテリア写真を共有するSNS「RoomClip(ルームクリップ)」との共通点を思いついたのです[fig.9]。「RoomClip」で「100均」と検索すると驚くべきバリエーションのアイデアが出てくるんですけど、ここで大事なのはホームセンターではなく100均ということです。100均って一種の雑木林なんじゃないかと思うんですね。100均の売り場の分類って、「これがなぜキッチンコーナーに並んでいるのか?」みたいな独特の緩さがありますよね。つまりそれぞれのものの意味が解除されているんですね。売っているものは全部100円なので、これが何なのかということを深く考えることもなく、何に使えるかという想像や判断を優先して眺めることができる。本来の使い途じゃない転用を前提にできるんですよね。インテリアのDIYでは女性のカリスマ・ユーチューバーがいますが、決め台詞はだいたい「これ100均で売っています」なんですよ(笑)。

fig.9──RoomClip(ルームクリップ)|部屋のインテリア実例共有サイト

大山──例えばさ、ハンガーをハンガーとして使わないんですよね。ハンガーを応用した鍋ストッカーだったり。

石川──だったら鍋ストッカーを買えばいいのに、と思ってしまいますが(笑)。

大山──そういうクリエイティビティを目の当たりにすると、100均も本当にだんだん雑木林に見えてくるね。

石川──そうなんですよ、農家の軒先や雑木林のように、あらゆる意味が一旦解除されている。例えば虫採り網があったとして、FAB-Gにとってそれは何かほかのものに見える、もしくは何かに見えるようになるまで取っておかれる。

神山町の風景を構成する「系」

石川──これはドローンで撮った神山町の写真です[fig.10]

fig.10──神山町
撮影=石川初

初めて訪れたときは、私たちみんな麗しい農村の風景に心を掴まれたんですが。何度も通って慣れてくるといろいろなものが目に入ってきます。伝統的な民家だけじゃなくて、市街地には建築雑誌に載るような現代建築や、普通のメーカー住宅や、ヨーロッパ風のデザインを施した施設もあります。いくつかの典型的なスタイルに、私たちの間で「テーマパーク」とか「新建築」「本物の正義」「先代ブルー」というような、勝手な名前をつけています。
このなかで、私たちが特に注目してきたのが、「テーマパーク」と「本物の正義」です。「テーマパーク」は、「田舎」とか「和風」とか「ヨーロッパ風」のような、お約束のイメージが記号化された意匠が施されたもので、観光施設などによく見られます。「本物の正義」というのは、造形よりも素材や形式の意味を重視し、「正統性」へのこだわりがあるものです。もとから住んでいた人たちよりも、積極的に移住してきた人たちが採用する傾向があります。

大山──「テーマパーク」と対極にあるんですね。

石川──学生のひとりが卒業研究で住民にアンケートをとったのですが、地元で生まれ育った「既住者」と、最近都市から引っ越してきた「移住者」で、風景やデザインに関する価値観に違いが見られることがわかりました。たとえば「ものを買う時に何を重視するか」という質問に対しては、既住者は性能や価格を重視するのですが、移住者は正しさやデザインを重視する。「神山町の『醜い』と思う風景は何か」という質問に対しては、既住者は畑へのゴミの不法投棄など、だらしない「行為」が醜いと考え、移住者は風景にそぐわない看板や、土木施設などを挙げる、というふうにです。少し乱暴ですが、この2つを対比的に捉えて、風景が「合理・秩序系」と「意味・記号系」の2つの層の葛藤によって成り立っていると考えるとわかりやすい、という話になりました。たとえばメーカー住宅は伝統的な民家とは対立するデザインと考えられがちですが、じつは合理的につくられているので「合理・秩序系」の層に属し、「伝統的な農村風景」の系譜なんじゃないか。[fig.11]

fig.11──神山町の風景をつくる「合理・秩序系」と「意味・記号系」
作成=石川初研究室・稲田玲奈

201811

特集 プラネタリー・アーバニゼーション──21世紀の都市学のために


プラネタリー・アーバニゼーション研究の展開
ジェントリフィケーションをめぐるプラネタリーな想像力
「広範囲の都市化」が生みだす不均等な地理──後背地、ロジスティクス、地域闘争
インタビュー:都市化の時代におけるデザインという媒介作用
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