都市を変える? 都市でつくる?──403architecture [dajiba]『建築で思考し、都市でつくる/Feedback』×モクチン企画『モクチンメソッド:都市を変える木賃アパート改修戦略』

403architecture [dajiba](彌田徹、辻琢磨、橋本健史)+モクチン企画(連勇太朗、川瀬英嗣)+藤村龍至(建築家)
fig.1──403architecture [dajiba]
『建築で思考し、都市でつくる/Feedback』(LIXIL出版、2017)
fig.2──モクチン企画
『モクチンメソッド:都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版、2017)

司会──2017年9月に初のコンセプト・ブックである『建築で思考し、都市でつくる/Feedback』(LIXIL出版)[fig.1]を出版した403architecture [dajiba]は、静岡県浜松市を拠点としながら、比較的小規模な改修プロジェクトを徒歩圏に集中して手がけるなど、場所固有の状況から設計へとフィードバックを起こし、「都市でつくる」ことに取り組んできました。対して2017年7月に同じく初の単著『モクチンメソッド:都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版)[fig.2]を上梓したモクチン企画は、木造賃貸アパート群という東京の巨大なフィールドを資源として、それらを更新していくメソッドによって「都市を変える」ことをめざしています。本日のトークイベント「都市を変える? 都市でつくる?」では、モデレーターに埼玉県鶴ヶ島市や大宮市で都市再編に向けて先駆的な取り組みを続ける藤村龍至氏を迎え、これからの時代の建築・都市のあり方について議論を進めていただきます。まずそれぞれの書籍について、著者のみなさんから解説をお願いします。

タグでプロジェクトを捉える

橋本健史──403architecture[dajiba]の橋本と申します。今日はよろしくお願いします。辻琢磨と彌田徹と3人で、静岡県浜松市を拠点に設計事務所をやっています。もともと僕らは3人とも横浜国立大学の学部の同級生なのですが、課題やコンペなどから自然と共同設計を始めました。僕と辻はY-GSAというスタジオ制の大学院に進み(当時のスタジオは、山本理顕、北山恒、飯田善彦、西沢立衛)、彌田は筑波大学の貝島桃代さんの研究室に進みました。

橋本健史氏

基本的にY-GSAのスタジオ課題や研究は、スケールの大きいビジョンを持って未来をつくっていくというもので、「建築」と「都市」という言葉を同程度に発するような場所でした。そういう環境のなかで、次第に何かもっと直接的に物をつくりたいと思うようになって、403architectureというチームを大学院在籍中につくり、主に展覧会の会場構成やインスタレーションを制作していました。

大学院を修了してからも403としての活動を続け、浜松で建築系のイベントと連動して衰退する中心市街地やシャッター商店街、増加する空き室などについてのリサーチをしたり、地元のデザイン系の大学の学生とワークショップをしたりしました。そうして徐々に浜松の状況が見えてきて、浜松でプロジェクトを起こしていくことの可能性を感じ、2011年の春から浜松を拠点に活動を始めました。

これまでの6年半ほどのあいだに50くらいのプロジェクトを設計・提案しましたが、個々のプロジェクトを越えて共通する考え方や設計アプローチなどを「タグ」と呼んで整理しています。それはすべてのプロジェクトが何かしらの連関を持っているということでもあります。そこで今回の『建築で思考し、都市でつくる/Feedback』も個々のプロジェクトを深掘りするのではなく、活動全体をタグの単位で説明する構成にしました。今日は、本書に掲載した6種類のタグのうちのいくつかを紹介したいと思います。

〈材料転用〉──材料の移動経路を設計する

橋本──まず、〈材料転用〉というタグについて説明します。このタグは最も多くのプロジェクトに紐付いているもので、廃材や余剰となった材料を、建築を構成するマテリアルとして使うこと、あるいは、ある材料・製品を想定された使い方とは違う文脈で使うことを表わしています。

たとえば《渥美の床》[fig.3]では天井を組んでいる下地材を取り外して切断し床に敷き詰め、《大門の目地》では古い店舗の床を新しい店舗に持って行き、積み上げてカウンターテーブルをつくりました。《三展の格子》は木造倉庫のロフトを解体し部材の断面ごとに整理して組み替えてつくった、美容室のなかの小さな休憩スペースです。《頭陀寺の壁》は物流で使われる木製のパレットを切断してつくった集成材のようなもので建てた小さな食料庫です。《富塚の天井》[fig.4]では海岸付近の畑で用いられる防風用のメッシュを室内外にわたり天井材として使いました。そのほかにも、《ヴェネツィアの橋》は制作過程で歪みや傷のできてしまったヴェネツィアングラスを砕き熱してピースをつくり、アーチ状に積んだガラスのベンチです。これは制作にあたって、冷却速度の管理や研磨工程などで特にヴェネツィアの技術的な蓄積が重要でしたし、人道橋の実験場のようなヴェネツィアの風景の文脈に参加していく意味もありました。

fig.3──403architecture [dajiba]《渥美の床》 写真=長谷川健太

fig.4──同、《富塚の天井》 写真=長谷川健太

〈材料転用〉というのは、材料が移動する経路自体を設計対象とすること、材料と連綿と結びついている技術や構法、産業、文化などと関わっていくことです。新築─改築─解体はそれぞれ別の行為だと見なされがちですが、ある地点から別の地点に材料が形を変えながら流動していくと考えるとそのような明確な切断はないのです。壊すこととつくることが直接的につながっていることもあるのです。

〈慣習ずれ〉──慣習を新しい文脈に接続する

橋本──次に、〈慣習ずれ〉というタグについて話します。このタグは、慣習的な構法についての考え方を少しずつずらしながら、現代的な新しい慣習を実践していくことを表わしています。

まず《渥美の床》は畳敷きだった空間をベッドを置くために床貼りに変えるプロジェクトでした。細切れの木材が敷き詰めてあるので、裸足だと絶妙な触覚を感じることができます。畳の持っているラフな質感とフローリングの硬さという慣習的な要素を混ぜ合わせたものになりました。次に《大門の目地》[fig.5]はカウンターテーブルをつくるプロジェクトでしたが、一般的には石を積んで固める湿式工法による目地という意匠を、縦に配置されたボルトに両側から木のピースを挟み込む乾式工法でつくっています。伝統的な形式の持っている安定感や落ち着きを、現代的な材料によって軽やかに更新し、それが新しい場所にふさわしい居心地をつくるのではないかという、空間におけるバランスを探す実践でした。

fig.5──403architecture [dajiba]《大門の目地》 写真=長谷川健太

《富塚の天井》では慣習的な窓の配置を批判的に操作しました。密集した住宅地では南側に庭を設けて大きな開口をつくっても隣家が迫っているので十分に機能しません。ここでは、メッシュの天井を設けることで光を拡散して直射日光が入らない場所にも光を回し、また窓も一部縮小することで、かえって開放的な使い方ができるようにしています。

《網代の列柱》[fig.6]という古い木造住宅のリノベーションのプロジェクトでは、もともと柱が露出していた真壁の仕様を維持しながら、構造用合板を入れて耐震的な補強をしつつ、外壁部の断熱性能も現代的な水準に向上させています。また、放置されることの多い真壁の柱に照明や収納用の棚などを取り付けて、積極的に使い倒せる柱として捉え直しました。外部でも同様に露出した柱を追加し、沼津垣という伝統的な竹垣を取り付けて視外部からの線をコントロールしたり、簾によって日射を遮るなどの機能的なフレキシビリティを高めています。

fig.6──403architecture [dajiba]《網代の列柱》 写真=長谷川健太

《鍵屋の基礎》という浜松市内にある洋服店のプロジェクトでは、店舗というよりはミシンのある工房を中心につくりました。もともと繊維産業が盛んだった浜松市の市街地に、小さな規模でも制作を行なう場所をもう一度召喚し、消費と生産をめぐる都市的な文脈にアプローチしようとしました。《松本の櫓》は愛知県岡崎市松本町の商店街で、もともと戦後闇市とともに栄えた現在も続く商店街の木造アーケードに櫓をつくりました。この木造アーケードは非常に古いもので、日常的に補修され続けており、街がそのための材料をストックしています。櫓はこれらの材料を用い、また施工も普段からアーケードの補修に携わっている大工さんにお願いしました。街の材料ストックや大工さんの技術と結びついているこの櫓は、地域の集会場やギャラリーとして使われています。

まとめると〈慣習ずれ〉はあくまで実践を通じて、世界そのものから学んで、それを新しいコンテクストにつないでいくということです。タブラ・ラサの状態に自由に絵を描くような想像力とは違って、現実のありえるかもしれない形やその可能性を想像することです。

〈単位反復〉──繰り返すことで枠組を発見する

橋本──最後に〈単位反復〉というタグについてです。これは、単位を設定してそれを反復していくということです。

まず《渥美の床》では小さいピースをひたすら反復しましたが、あるとき名古屋でシェアハウスをつくる人たちからこの手法を使って床をつくりたいという相談を受けました。われわれは施工方法だけ教えて、後は彼らがSNSを駆使して友達を延べ300人ほど集めて施工しました。このことからわかるように、単純な作業の反復であれば、建設に普段関わらないような人たちが参加できる余地があるのです。《頭陀寺の壁》[fig.7]では、小さな部材の反復によって、構成の問題というよりは密度の問題から開口部を考えるということを行ないました。《鍵屋の敷地》[fig.8]という浜松の中心市街地にある物販店のプロジェクトでは、出店できる面積の単位をなるべく小さくすることで、参入のハードルを下げ、なるべくいろいろな人がお店をつくることのできる仕組みをつくりました。ここでは、インテリアのデザインだけではなく、運営の仕組みこそが設計対象になっています。

fig.7──403architecture [dajiba]《頭陀寺の壁》 写真=長谷川健太

fig.8──同、《鍵屋の敷地》 写真=長谷川健太

ところで、われわれのプロジェクトは同じビルにいくつも入るということが起こっていますが、これは浜松市内に点在している「共同建築」でのプロジェクトが多いからです。共同建築というのは、共同出資によってつくられた防火帯建築のことで、建設から60年ほどが経った現在、需要が変わりうまく使えていない、権利関係が複雑である、物理的にも壁を共有しているので建て替えが困難であるなど、さまざまな問題を抱えています。そんななか、小さくても新しい試みをしたいという意欲的なクライアントからの依頼を受け、共同建築のビルに吸い込まれるようにプロジェクトが入っているわけです。小さなプロジェクトの単位を繰り返していくことによって、その都市が抱えている構造的な問題や歴史にアプローチすることができるのです。

まとめると、〈単位反復〉というのは、特定のまとまりを繰り返すことによって、新たな枠組みや文脈を見つけていくことでもあります。プロジェクトそのものがリサーチとしても機能している、実践とリサーチが完全には分離しない、という側面があるのです。


  1. タグでプロジェクトを捉える/〈材料転用〉──材料の移動経路を設計する/〈慣習ずれ〉──慣習を新しい文脈に接続する/〈単位反復〉──繰り返すことで枠組を発見する
  2. 木賃アパートから都市を変える/ミレニアム以降の「ものづくり教育」と「設計製図教育」/Y-GSAの建築家教育とSFCの起業家教育/
  3. 1分の1の設計手法/建築における方法論とビジョン/質疑応答

201712

特集 建築情報学へ


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