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95 山陰

山陰道は兵庫県北部から山口県北部まで続く古道である。この道とは、2005年に木下長宏(http://www.kinoshitan.com)の私塾で示された、円山応挙一派の障壁画がある兵庫県北部の亀居山大乗寺(http://www.daijyoji.or.jp/main/)を訪問したときが最初である。そのときと2007年11月、2008年5月に旅行したときの写真を紹介したい。
大乗寺では、例えば山水の間において上座と下座に居る人物の視座、動作と姿勢、つまり鑑賞者の身体がどのように振舞われるかによって画の構成が変化していることが佐々木丞平・佐々木正子『円山応舉研究』(1996)によって指摘されている。応挙本人が眼鏡絵から刺激を受けていることは周知のとおりだが、広げてみるならば、ウィリアム・フッドがFra Angelico at San Marco(Yale University Pr., 1993.)においてサンマルコ修道院で礼拝の場と修道士の姿勢によって受胎告知の空間が把握されるとしていたことや、ユベール・ダミッシュがL'origine de la perspective(Paris, 1987.)において、遠近法で描かれた絵画は動き回ることによって調和が保たれるとしていることと共鳴しているのではないか。このような、鑑賞者と障壁画の関係はこの場合、大乗寺でしか感じられず、同時に「美術館」における収納、展示の機能が私たちに突きつける問題が大乗寺に収斂されていると気付く。故にこの地点は重要である。
その大乗寺から西に進み、倉吉の三徳山三佛寺の本堂から投入堂までは修験道における森羅万象が体内に流入してくるような山道である。その隘路が身体の脆さを触発させ、リズムや情動が沸き起こってくる。したがって、投入堂をより鮮烈な存在として増幅させる要素たりえている。実際に投入堂をめぐって大岡實と堀口捨己以来、増築・新築説をめぐる議論がリピートされ続けているが、山道、投入堂の扉、縁と落床の意匠についてもっと注目すべきではないかと考えている。
出雲近くにある平田市の鰐淵寺蔵王堂は投入堂ほど長くないが、建築との「出会い」をより強く記憶させる装置としての道を備えていよう。
倉吉から西、米子の大山寺阿弥陀堂。飄然と姿をみせる投入堂と鰐淵寺蔵王堂とは逆に、まっすぐな道の奥から木の葉に隠れながら徐々に拡大される建築。私は耳がまったく聞こえないが、小石が敷き詰められた道をふみしめるたびに、足裏から筋と骨を波打つものがある。その筋肉運動とともにチラチラゆっくりとうつろう空間や諸行無常が、ドロリと引き延ばされた時間が生まれている。
倉吉から米子の途中には、倉吉市庁舎、その裏にある直角三角形のプロポーションが印象的な倉吉博物館、扇形にひろがる米子市公会堂、宇宙戦艦とみまちがうような東光園、今年本殿の特別拝観が行なわれた出雲大社、すぐ近くにある出雲大社庁の舎、古代歴史博物館と大社文化プレイス、出雲駅前のビッグハート出雲、さらに出雲大社の北までいけば日御碕神社、出雲日御碕灯台と北空がひろがり続ける山陰道がのびている。旅の終わり、ビックハート出雲のスタッフが、「職場から直接夕陽がみえるのが幸せなんです。」と指差した先をみると道は夕陽に向かってまだ続いていた。



[撮影者:木下知威(横浜国立大学大学院)]

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