PHOTO ARCHIVES

66 デンマーク[2]

ヨーン・ウッツォンは第二次大戦後間もない時期に「The Innermost Being of Architecture」(in Utzon, 2002.)と題した文章のなかで、建築にとっての本質が自然の成長原理のなかにあり、その原理によって、常に移り変わる我々を取り巻く環境を表現できるという内容のことを記している。これは戦中、スウェーデンに避難していたウッツォンがデンマークに帰国後の独立直後に記したものであり、最初期から一貫して彼のスタイルの源泉が自然の姿にあって、そのバリエーションとして彼の以後の作品も見ることができるということでもある。
同時に、ウッツォンの「私は特に建築の基本的な表現──形、光、リズム、素材──の意味を見いだしたいと思っている。それはふわりと浮かぶような、光に満たされた内と外が一体となった建築である」(ARKITEKTUR DK, 1-2/1985)との言説から、《キンゴー・ハウス》などの初期のテラスハウスに見られる緩やかに地形をなぞった有機的な配置形態から、たったひとつの球から複雑に表情を変える形態を作り出した悲劇の《シドニー・オペラハウス》を経て、素っ気ない外部仕上と緩やかに弧を描く内部天井の対比によって新しいイメージを示した晩年の《バウスヴェアの教会》へと至るなかで、よりプリミティヴな光に結実する彼の思考の過程を読み取ることができる。

一方でデンマークに残された唯一のアルヴァ・アアルトの作品は、同じスカンジナヴィアの建築家でありながら、力強く躍動的な形態がデンマークの実直な建築とは表情を異にしているが、ヨーン・ウッツォンとアアルトとのあいだには、大戦中スウェーデンに避難していたヨーン・ウッツォンがその後フィンランドに渡りアアルトの元で働いていたという興味深い接点がある。ウッツォンはアアルトの有機的アプローチを下地に独自の自然原理を抽出する手法で建築を創り上げることによって、デンマークの地方性を達成できたのだろうか。偶然なのか、ほぼ同時期に竣工したウッツォンの《バウスヴェアの教会》とアアルトの《北ユトランド美術館》は規模も用途も異なるものの極めて近似した断面形を示す。まだ陽の長いデンマークの秋空のもと、幾筋もの反射光に満たされた主室に身を置きながら師弟が追い求めた光の質の違いを体験できたことはまたとない貴重な時間となった。



[撮影者:脇坂圭一(デンマーク・オーフス建築大学、東北大学大学院 都市・建築デザイン学講座)]

→ 「公開の原則と著作権について」

pic  ヨーン・ウッツォン《ヘレベックのヨーン・ウッツォン自邸》[1] [2] [3]

pic  ヨーン・ウッツォン《キンゴー・ハウス》[1] [2] [3] [4]

pic  ヨーン・ウッツォン《フレデンスボーの集合住宅》[1] [2] [3] [4] [5]

pic  ヨーン・ウッツォン《ヘアニングのスクール・タウン計画》[1] [2] [3]

pic  ヨーン・ウッツォン《バウスヴェア教会》[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

pic  エリッサ+アルヴァ・アアルト、ジャン・ジャック・バルエル《北ユトランド美術館》[1] [2] [3] [4] [5] [6]


このエントリーをはてなブックマークに追加

前の記事:67 デンマーク[3]
次の記事:65 デンマーク[1]
Photo Archives|五十嵐太郎

INFORMATIONRSS

中村好文『芸術家(アーティスト)のすまいぶり』刊行記念「アーティストの住まいぶりと暮らしぶりから学んだこと」トークイベント(渋谷区・12/3)

アーティストにとって、住まいは「生き方の姿勢が、かたちになって見えるもの」(本文より)── ホンカ...

シンポジウム「建築家・根津耕一郎の仕事」(兵庫・11/16)

1960年代から70年代を中心に、関西を拠点として数多くの建築物を設計した建築家・根津耕一郎氏のシ...

トークイベント『土壁と柿 妙喜庵 待庵 書院及び茶室待庵 保存 修理の記録』刊行記念 藤森照信×田村尚子(中央区・11/21)

『土壁と柿 妙喜庵 待庵 書院及び茶室待庵 保存 修理の記録』の刊行を記念して、建築家であり建築史...

「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」(千代田区・-2/2)

わたしたちのくらしにとって窓はほんとうに身近なもの。それは光や風を室内に取り入れながら、寒さや暑さ...

「磯崎新─水戸芸術館縁起─」(茨城・11/16-1/26)

建築家・磯崎新による美術館設計を振り返るシリーズの一環として、当館では水戸芸術館の設計コンセプトや...

展覧会「Steven Holl: Making Architecture」(品川区・11/8-1/8)

アメリカを代表する建築家、スティーブン・ホールは72歳になった現在も、ニューヨークと北京にオフィス...

シンポジウム「占領期の都市空間を考える──記憶をいかに継承するか」(兵庫・11/23)

2019年11月23日(土・祝)にシンポジウム「占領期の都市空間を考える──記憶をいかに継承するか...

戦後空間シンポジウム 04「バブル・震災・オウム教─1990年代、戦後空間の廃墟から─」(港区・11/22)

主旨: 「戦後空間シンポジウム」第 4回目のシンポジウムは戦後空間の変質に目を向け、80年代後半か...

第5回「吉阪隆正賞」授賞式/記念シンポジウム(千代田区・11/18)

第5回「吉阪隆正賞」を受賞した西沢立衛氏による記念シンポジウムが、11月18日にアテネ・フランセ文...

[磯崎新の謎]展(大分・9/23-11-24)

大分市が誇る建築家・磯崎新(1931~)は建築の枠を超え、思想、美術、デザインなど多岐に渡る分野で...

展覧会「日本建築の自画像 探求者たちの もの語り」(香川県・9/21-12/15)

われわれがよく聞く『日本建築』とは、何なのか? そもそも、何が『日本的』なのか? 本展では『日本建...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る