PHOTO ARCHIVES

55 ベルリン/ブルーノ・タウト

ブルーノ・タウト(1880-1938)の建築はじつに魅力的だ。なにしろ色使いが素晴らしい。壁面も窓も、あらゆる建築的要素が色彩を軸に造作され、それらは陽光に照らされながら、まるでひとつの有機体のように、常に異なった様相を見せてくれる。私は、そうした色の魔術にすっかり魅了され、機会あるごとに撮り歩いてきた。
ある日、タウトが手掛けたベルリン近郊のジードルング(集合住宅)を訪れ、夢中になってシャッターを切っていたときのことだ。私の背中めがけて、誰かが話しかけてきた。振り返ると、なんとも大柄でアラブ系の顔立ちをした男性が、腰に手を当て仁王立ちしているではないか。
これはまずい。彼の居住エリアを撮ってしまったのかも知れない。それに憤慨したのではないか。いや、ひょっとしてそもそも立ち入り禁止区域だったのか......。
そんなシナリオを予期しながら恐る恐る返答の言葉を発するとだ。彼は、驚くほど素朴な質問を私に投げかけてきた。
「さっきからずいぶんと写真を撮り歩いているようだけど、なんだってキミはこの建物にそんなに興味があるのか?」

話をよく聞くと、彼はここの住民で、「ジードルング周辺には頻りに写真を撮る人が見受けられ、しかも、どういう訳だか東洋系の若者が盛んに訪れる」、そのことを前々から疑問に思っていたそうだ。
そこで、タウトが世界的に有名な建築家であったこと、1930年代には日本で活躍していたこと、そのため日本人のファンが多いことなどをひと通り説明したところ、彼はこれまでの謎がみるみる解明していくのを感じたらしく、なんと、お宅に伺って会話の続きを楽しむことになった。天気の良い休日の昼下がり、カメラを首にぶら下げたままの私は、突如としてジードルングのテラス席の人となったのだ。
やがて、テラステーブルの上には、御夫人が焼いたという手作りケーキとコーヒーも並び、私たちはずいぶんと長い間タウト話で盛り上がった。
話の合い間、時折、庭に目をやりながら、私は「一居住者」の視点からもタウト建築を堪能した。パステルカラーで彩色された住棟壁面の折り重なるさま。木々のゆらめきによって生み出される光・陰・色彩のポリフォニー。そして小鳥たちの軽やかなさえずり。こうした、住棟を取り巻く一切合財の環境はすべてタウト作品と呼べるものであり、ここに日々暮らすことの豊かさをはっきりと実感したのだった。

東の果て日本からやって来たひとりのタウト愛好家と、20年前にドイツへ移住してきたという中東の御夫婦。まったく初対面の私たちの間を結んだのは、他ならぬ「タウト建築への思い」であった。彼らは、私の数えた限りにおいては、会話のなかで5度も「この建築は素晴らしい。特に色が良い」というフレーズを繰り返した。
タウト没後、すでに70年近くが経とうとしているが、タウト建築の放つ彩りは決して褪せることなく、こうして今もなお人々の心を繋げてくれている。

今回、タウトがベルリン周辺に遺したジードルング作品を紹介した。タウトはその生涯に、延べ1万2千戸にもおよぶ膨大な数の集合住宅群を手掛けたが、それでもなお画一化に堕することなく、住まいに温かみをもたらすことができたのは、その色彩的効果によるところが大きい。写真画像を通じて、ぜひそのあたりを味わっていただければと思う。さらに機会があれば、実際の色彩空間をも一度ゆっくり歩きながら体験していただきたい。なお、《ダーレヴィッツの自邸》については、一般の見学は不可。タウトの自著『一住宅』(中央公論美術出版、2004)に詳しいので併せて参照されたい。
また今年は、「日本におけるドイツ年(2005/2006)www.doitsu-nen.jp/」、およびタウト生誕125周年であることから、〈ブルーノ・タウトの工芸・デザイン展〉が全国巡回する予定である。ますますタウトからは目が離せない。



[撮影者:斉藤理(東京大学客員研究員・建築史)]

→ 「公開の原則と著作権について」

pic  ブルーノ・タウト《フライエショレ・ジードルング》[1] [2] [3] [4]

pic  ブルーノ・タウト《ダーレヴィッツの自邸》[1] [2] [3] [4] [5]

pic  ブルーノ・タウト《ブリッツ馬蹄形ジードルング》[1] [2] [3] [4]

pic  ブルーノ・タウト《オンケル・トムス・ヒュッテ・ジードルング》[1] [2] [3] [4] [5] [6]

pic  ブルーノ・タウト《ヴァイセンゼー・ジードルング》[1] [2] [3]

pic  ブルーノ・タウト《ファルケンべルク・ジードルング》[1] [2] [3] [4] [5]

 


このエントリーをはてなブックマークに追加

前の記事:56 フランス・ゴシック
次の記事:54 図書館
Photo Archives|五十嵐太郎

INFORMATIONRSS

「記憶の光跡展」関連イベント(港区・9/28、9/29-10/3)

2018年5月に岐阜県養老町で開催され、2日間で1000人を越える来場者を記録した教育委員会主催アー...

建築情報学会キックオフ準備会議第4回(渋谷区・10/5)

「建築情報学」は、旧来の建築学の学問的カテゴリに捉われることなく、建築内外の知見を架橋すること...

Making the City Playable 2018 コンファレンス(千代田区・9/28)

英国のメディアセンター、ウォーターシェッドが2012年に立ち上げた、「遊び」を通して都市と人が出...

LIXIL出版 中途採用のお知らせ

10+1websiteを運営するLIXIL出版では、 建築・デザインに関する書籍の編集スタッフを募...

石川初×大山顕「地上学への誘い」『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い』刊行記念(世田谷区・9/20)

LIXIL出版より発売中の『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い──歩くこと、見つけること、...

NPO建築とアートの道場 2018年秋-1レクチャーシリーズ「建築家の生態を探る」(文京区・9/1-10/13)

gallery IHAの2018年秋-1レクチャーシリーズは、『建築家の生態を探る』と題して、成瀬友...

リノベーション・スタジオ展示会「カプセルタワーのメタボリズム(新陳代謝)2018」(中央区・8/27-9/1)

東京理科大学工学部建築学科4年の設計製図演習「建築・都市設計」では、現代の社会で建築が取り組むべき...

ミサワホームAプロジェクト シンポジウム「時間がよびさます建築」(京都府・9/26)

今回のシンポジウムは、今年度村野藤吾賞を獲得した平田晃久さんと、昨年、青森の八戸美術館と一昨年京都...

地域社会圏」と「現代総有」─個人・社会・空間をつなぐ新しい考え方─(千代田区・9/1)

人口減少と少子高齢化、東京への一極集中に代表される都市部と地方の格差拡大、グローバル化が進む中で...

「建築」への眼差し -現代写真と建築の位相-(品川区・8/4-10/8)

ニセフォール・ニエプスによって撮影された歴史上初の写真が作業場の窓から見える納屋と鳩小屋の映像であ...

UNBUILT: Lost or Suspended(品川区・8/4-10/8)

建築の歴史はある意味で「敗者の歴史」である。計画取り止めやコンペ敗北の時点から"過去"になることで...

川田知志「Open Room」(大阪府・9/2-10/13)

「壁画」を主軸とするインスタレーション制作によって、視覚芸術と都市空間との関わりを提示する美術家・...

WIKITOPIA INTERNATIONAL COMPETITION(公募・-9/24)

Wikitopiaプロジェクトは、先進的な情報通信技術を活用することで、オンライン百科事典Wiki...

秋野不矩美術館開館20周年記念特別展「藤森照信展」(静岡県・8/4-9/17)

秋野不矩美術館開館20周年を記念し、当館を始め多数の建築設計を手掛けている建築家・建築史家、藤森...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る