ケアを暮らしの動線のなかへ、ロッジア空間を街のなかへ

金野千恵(建築家)+矢田明子(Community Nurse Company代表)

ロッジア空間の実践

金野──研究のなかで、機能の曖昧なロッジア空間は、日本でも街の風景をつくる際に有効だろうと感じていて、初めて設計したのが《向陽ロッジアハウス》(2011)という住宅でした[fig.7]。神奈川県の相模原市にある私の実家で、70代後半の母を含む家族が住んでいます。庭に向けて自然の光や風を取り入れる大きな口を開けていますが、母はそのロッジアに面した1階の和室やキッチン回りにいることが多く、近所の人が庭から入ってきて話をしたり、一緒に庭仕事をしたりしています。LDKなど既存の枠組みを超えて、生き方そのものを提案したいと考えました。一般的にはケアされる対象となるであろう高齢の母は、ここでは庭の植物たちをケアし、様々な隣人を庭やロッジアでつなげる主となっています。

fig.7──《向陽ロッジアハウス》[撮影=金野千恵]

《福祉楽団 地域ケアよしかわ》(2014)は、訪問介護の事業所ですが、同時に街へと開いてほしいという要望もあり、窓際にベンチを設けたり、住宅にはないような大きさのテーブルをつくって、床面積の2/3程度がコミュニティのためのスペースになっています[fig.8]。当初は高齢者のサロンのようになるかなと予想していましたが、実際は子どもたちが集まってきて、次第に、夜までいてひとりでご飯を食べる子どもが目につくようになりました。それを知った元民生委員のおばあちゃんの呼びかけで、今では週3日無料でご飯を出すようになっています。無料で出せるのは、周りの農家の方が窓際のベンチに野菜を置いておいてくれるからです。そのおばあちゃんたちは収益を得ていないのですが、道端で子どもたちに挨拶されるのがうれしいなど、違う生きがいを口にされています。今は子どもたちだけではなく、認知症の方や障害を持った方も来るようになって、みんなの食堂「ころあい」として親しまれています。

fig.8──《福祉楽団 地域ケアよしかわ》[撮影=金野千恵]

この提案で最初にクライアントと共有したことは、事業所の顔というか、構えについてでした。大学院の研究室で、世界の窓空間について調査していましたが、窓辺に腰掛けられることで、その場所を発展させる可能性を感じていました。《福祉楽団 地域ケアよしかわ》では、福祉の事業所としては例外的に、ガラスにフィルムも貼らずに透明のままで、いつも窓辺に腰掛ける人が居ます。小さなスペースの改修でしたが、街と関わるインターフェイスをつくった、重要なプロジェクトでした。

★──参考=東京工業大学 塚本由晴研究室 編著『WindowScape 窓のふるまい学』(フィルムアート社、2010)

矢田──とても共感します。地域のなかで挨拶をしたり互いを見守るような関係性が発生しているのであれば、コミュニティナースのあり方と同じことが起きているのだと思います。

私も建築を設計する人といろいろな話をするのですが、そうしたことを大切にしています。数年前に島根で自宅を建てたのですが、設計者には「目的がなくても成立する場所にしてほしい」とか「他人が使いやすい家にしてほしい」などという常識はずれのお願いをして、驚かれました。私もそのうち死んでしまうので、その後も勝手に使われてほしいと思っています(笑)。リビングに外から直接アクセスできるので、今は実際に近所の子どもたちが集まってくる家になっています。まさに、先ほど見せていただいたロッジア空間が理想的です。空間や場所が持つ力があれば、コミュニティナースそのものがいなくても十分なのかもしれません。

金野──今、私たちの事務所で取り組むプロジェクトでは、単一機能の建築のリクエストは少なく、その地域のことを理解して、何が必要かを一緒に考えてほしいという要望が多くあります。学校や病院などと同じように、住宅ですら核家族のための器という近代的な概念に縛られている部分がありますが、今、取り組んでいるプロジェクトは、例えば子どもが出ていく10年後のことも話しています。当然、施設建築も見直す時期に来ていて、今は高齢者の数が増えていますが、将来的には総人口と共に減少し始めます。ケアの事業者も現状のサービスがずっと続くとは思っておらず、人びとがどう助け合って生きていくかという問題に立ち戻って議論しています。建築は30年から50年スパンで持続しますから、たとえ当初の役割を終えても、継続して使い続けられるために、日頃から地域の人と共有できる空間つくることや、主な利用者ではない人も使いこなせるスキルを身につけてもらうこと、メンバーシップを広げておくことが大切だと感じています。

《ミノワ 座 ガーデン》(2016)は特別養護老人ホームの改修です[fig.9]。最初に庭から関わり始めました。長さ80mほどの塀があったのですが、それをすべて壊して、屋外に誰でも利用できる日よけやベンチによる居場所をつくっています。設計が終わった頃、近くの「津久井やまゆり園」で相模原障害者施設殺傷事件が起きました。当然、塀を壊すことへの反対意見も出ましたし、国からもカメラの設置や施錠によるセキュリティの強化のお達しがあったのですが、今やらなければというクライアントの強い意志があり、補助金もないなか、ハンマーを振って壁を壊しました。塀がなくなったことで、園庭のない保育園の子どもたちが立ち寄る場所になったり、今まで見えてなかった景色が見えてきて、日常的に挨拶をする人が増えるなど、結果的にはとても喜ばれました。

fig.9──《ミノワ 座 ガーデン》[撮影=yasuyuki takagi]

室内では逆にプライバシーを強化する方向の改修をしました。オープンな部屋のほうがケアする側からすれば見守りをしやすいのですが、自分たち自身がそこに寝るとしたらどうかという立場で考え、間仕切りや扉で個々の空間を尊重した計画です。

《幼・老・食の堂》(2017)は、品川区に建つ看護小規模多機能型居宅介護と保育所と街の食堂の複合施設です[fig.10]。事業主自身も近所に住んでいて、自らの子どもをどう育てていくか、あるいは、自分がどうやって死んでいくかまでを考えられるような、地域の拠点にしたいという切実な要望がありした。おばあさまが家政婦紹介所を始め、父親が介護事業を始め、自分の代では地域を限定したなかで、さらなる多機能な展開を考えていきたいと。子ども(幼)と高齢者(老)、さらに先ほどの《福祉楽団 地域ケアよしかわ》での経験から、「食」を通して幅広い世代がつながれる空間を考えました。

fig.10──《幼・老・食の堂》[撮影=teco]

同時に、介護するスタッフが施設に籠もってしまわないよう、外部空間が4カ所あり、それぞれが居場所を気分で選択できたり、街の人が直接入ってこられるようになっています。今、運営が始まって1年弱ですが、昼寝の時間におばあちゃんたちがテレビのボリュームを下げたり、赤ちゃんの鳴き声が聞こえると心配したりという気遣いが生まれていて、ひと昔前の大家族の大きな家のような感覚があります。前面道路の私道では、今後、流しそうめんやパブリックビューイングなども構想されています。

神奈川県の厚木にオープンしたばかりの《暮らしの保健室あつぎ》(2018)は、緑道沿いの三角地に建つ、周辺の農家の作物などを使ったジェラテリア(ジェラート屋)兼、暮らしの保健室と呼ばれる相談所です[fig.11]。クライアントは、親族が癌と告知された時、身近に相談する場所がなかったことから、いつか街のなかで気軽に心身のことを相談できるような場所をつくりたいと考えられていたそうです。構想から20年ほど経って、ようやく実現されました。ジェラートは飲み込みやすいので、人の最後期においても食べられる食べ物のひとつと言えます。地元の野菜を使って、最後まで好きなものを食べさせてあげる、という役割を担いながら、その収益を暮らしの保健室の運営に当てています。2階では薬剤師、理学療法士、看護師さんなどが訪れ、週1回、暮らしの保健室が開かれ、ジェラート目当てに来た方にも自然と関心を持ってもらえるつながりが生まれています。室内外にある長いベンチが会話しやすい仕掛けになっていて、入口前のピロティのベンチは幼稚園バスの停留所にもなっているようです。

fig.11──《暮らしの保健室あつぎ》[撮影=teco]


201812

特集 ケア領域の拡張


ケアを暮らしの動線のなかへ、ロッジア空間を街のなかへ
身体をリノベーションする──ケア空間としての障害建築
幽い光、あいだの感触
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