ケーススタディ:長崎県福江島
──《富江図書館さんごさん》

能作淳平(建築家)

公共空間をつくる「アドホクラシー」

20世紀は全世界的な規模でおこった戦災復興と人口増加という大きな目的を達成するために、さまざまな生業を産業化することで発展をしてきたといえる。日本も例外ではなく、産業化によって喫緊の経済成長を果たしてきた。そして、産業化は消費者と生産者という二者を分けた。行政が整備する公共空間も同様に、税金によって誰もが平等に受けることができるサービスとなり、生産者としての行政と消費者としての市民という対を生んでいったともいえる。このようにバラバラにしてしまったデモクラシー的な行政と市民の関係をつなげるものとして、「アドホクラシー」という概念を参照したい。アドホクラシーとはアメリカの未来学者アルビン・トフラーが、ビューロクラシー(官僚制)の対語として提唱した概念で、臨時という意味の「ad hoc」と制度、体制の意味の「-cracy」からの造語である。その時々の状況に応じて柔軟に対処する姿勢のことを意味する。

人やものと出会うたびに変化するつくり方

ここで公共空間におけるアドホクラシー的な実践として、《富江図書館さんごさん》(2016)プロジェクトの例を見てみたい。建主は東京在住の30代の夫婦。夫の曽祖父の故郷で、自身のルーツでもある長崎県の五島列島に魅せられた二人は、福江島の富江に建つ築80年の民家を改修して、友人たちと泊まれるもうひとつの拠点をつくるところからプロジェクトは始まった。しかし、五島列島は東京からは距離があるので、普段は島の人たちが活用できる場所にしようということで、農業、水産業、建設業、そしてデザインなどを生業とする島の人びとをこのプロジェクトのメンバーとして招き、議論を重ねた。メンバーのひとりから「この街には大きな本屋も公共図書館もなくなったので、図書館がほしい」という意見が出た。たしかに島には豊かな自然があり、それを産業とするための働く場所もあるが、過疎化と高齢化が進んだ地域の税収では公共空間の維持が難しくなっている。また高齢化と後継者不足によって島特有の技術や、かつては栄えた珊瑚漁などの産業も少しずつ失われている。そこで、このプロジェクトは島のものを使って、島の図書館をつくる計画へと変化していった。

プロセスマップ[画像をクリックして拡大]
[提供=ノウサクジュンペイアーキテクツ]

そこで、島にあるもので建築をつくるために設計とリサーチを並行して行なった★1。そのため、単に間取りを考えるだけではなく、例えば、島の溶岩を使って土間を設えたり、珊瑚を使ってキッチンや浴槽をつくってみたり、島のものやそれを生業としている人と出会うたびにつくり方はどんどん変化していった。また使い始めてからの運営の仕方も変化した。友人と宿泊するスペースから始まり、図書館が加わり、そしていまではコーヒースタンドが併設されたり★2、珊瑚の端材を再利用したアクセサリーの製作も始まっている★3。このように、ひとつのことがまたひとつを生み出すきっかけになり、また新たなプロジェクトが立ち上がり、周りの人がどんどんとメンバーに加わることで、いつのまにか公共的な場所へと変わってきた。

珊瑚を利用したアクセサリー「1/35」
[製作=MMAA / 前田真理子][撮影=西部裕介]

使い手と作り手が一体となる

現在の公共施設は行政が公共サービスとして、人びとが集まれる場所を整備してきた。たしかにそれは誰もが平等に利用できるデモクラシー的な空間である。しかし、そのデモクラシーを前提にして市民参加を考えると、どうしても各々の個性を引き出すことが難しく、無個性な使い手による参加に陥りやすい。それに対して《富江図書館さんごさん》では、使い手と作り手が一体となっている。メンバーが限られている島では、各々が島のシステムの一部を担っており、自分が島に何ができるのかというボランタリーな働きに支えられており、生産者と消費者を分けるのではなく、協働するシステムが自然に構築されているからだ。このメンバーシップは無個性なデモクラシーに対して、参加者の個性によって変化するアドホクラシー的な公共空間であるといえよう。

アドホクラシーは臨時の体制であるがゆえに、すべての同意を必要としない。また失敗すればまた修正が可能なシステムだ。ある意味では行き当たりばったりの方法のように見えるが、最初から目的を決めるのではなく、トライアンドエラーを認めることができる。試作をつくりながら作り手も使い手も巻き込んでいくアドホクラシー的な実践に、これからの公共空間のあり方を見ることができるのではないだろうか。

《富江図書館さんごさん》外観[提供=ノウサクジュンペイアーキテクツ]


★1──さんごさんプロジェクトのための現場ブログ「TOMIESITE OFFICE」。現地に事務所を開設したという意味合いでブログ名に「OFFICE」をつけた。
tomiesiteoffice.tumblr.com
★2──さんごさんに併設されたコーヒースタンド「coral coffee」
★3──珊瑚の端材を再利用してアクセサリーをつくるプロジェクト「1/35」(MMAA / 前田真理子) sangosan.net/1/35

能作淳平(のうさく・じゅんぺい)
1983年生まれ。建築家。武蔵工業大学(現・東京都市大学)建築学科卒業。ノウサクジュンペイアーキテクツ。東京大学、東京芸術大学、東京都市大学非常勤講師。作品=《ハウス・イン・ニュータウン》(2014)、《あきるのシルバーハウス》(2015)、《高岡のゲストハウス》(2016)、《富江図書館さんごさん》(2016)ほか。受賞=SDレビュー2013鹿島賞、東京建築士会住宅建築賞、第15回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展審査員特別賞ほか。junpeinousaku.com/info


201710

特集 建築の公共性を問い直す


公共の概念と建築家の役割
公共建築における市民参加の系譜 ──多元的な建築を目指して
ケーススタディ:長野県塩尻市 ──《塩尻市市民交流センター えんぱーく》
ケーススタディ:岩手県陸前高田市 ──《陸前高田市立高田東中学校》
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ケーススタディ:神奈川県横浜市 ──《丘の町の寺子屋ハウス CASACO》
ケーススタディ:長崎県福江島 ──《富江図書館さんごさん》
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