「縮小」や「撤退」の都市・農村計画はこれからどのように展開していきますか?

饗庭伸(首都大学東京都市環境科学研究科准教授)

むらおさめ/撤退の農村計画/コンパクトシティ

見出しの3つの言葉は、人口減少時代において物理的に縮小していく都市や地域に対して、建築や都市・農村計画によって計画的に介入していくときの言葉である。
海道清信の『コンパクトシティ──持続可能な社会の都市像を求めて』が2001年、大西隆の『逆都市化時代──人口減少期のまちづくり』が2004年、大野秀敏の『シュリンキング・ニッポン──縮小する都市の未来戦略』が2008年、吉田友彦の『郊外の衰退と再生──シュリンキング・シティを展望する』や林直樹ほかの『撤退の農村計画──過疎地域からはじまる戦略的再編』が2010年、拙著『都市をたたむ──人口減少時代をデザインする都市計画』が2015年、人口減少時代の縮退や撤退が議論になりはじめて15年ほどの時間が経った。とりわけここ数年は国レベルの法制化が進んだ時期である。国─都道府県─市区町村という整然としたツリー構造を持つ我が国において、新しい政策は、まず先進的な市区町村で独自に取り組みが進み、それが国全体の枠組に採用され、国─都道府県の回路を通じて全国的に広がる、という流れによく乗る。都市や地域の縮小についても、先駆的な動きは15年以上前からスタートしていたが、ここ数年のあいだに立地適正化計画(都市再生特別措置法の改正)、公共施設等総合管理計画、空家等対策の推進に関する特別措置法、地域公共交通網形成計画・地域公共交通再編実施計画(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の改正)といった法の枠組みが整い、それに背中を押された、第二波ともよべる取り組みが全国で展開されており、2017年においてもそれはしばらく続くだろう。
つまり、5年前、10年前は尖った言葉であったこれらの言葉は、誰でも使う言葉になってきた。本稿ではあらためてこれらの言葉について「2017年の建築・都市を読むためのキーワード」としての方向づけをしたい。

トップダウンとボトムアップが補完し合う境地

あらためて「むらおさめ」「撤退の農村計画」「コンパクトシティ」といった言葉を中心とした近年の議論★1を読み込んでみた。議論の厳密な後先はわからないが、言葉は違えども、それぞれが対立しているのではなく、議論はほぼ同じ方向を向いているのではないだろうか。
まず人口が減るという大前提への認識は共通している。人口減少はやむをえない、そこに物理的な空間の縮小が起きることもやむをえない、そこに計画的な介入が必要である、という認識である。少し前までは、この大前提についていけず、それまでの領域を無意識に守ろうとして、縮退や撤退といった言葉に対して「中山間地の農村を守れ」と論争をしかける人はいた。しかし大前提を議論する段階は過ぎ、実行の段階の議論に移ってきているということではないだろうか。
では次に、計画的な介入のアプローチの違いについて考えてみたい。新しい政策が導入されるときに、トップダウンとボトムアップという図式的な対立性をもった2つのアプローチがあり、それも論争の争点であった。「コンパクトシティ」「撤退の農村計画」という言葉を使っている人はやや前者のアプローチを重視し、「むらおさめ」という言葉を使っている人はやや後者のアプローチを重視している。ボトムアップ派からみた他方は「一律的に縮退を押し付けて、地域の自律性を損なう人たち」であり、トップダウン派からみた他方は「木を見て森を見ない人たち」である。
しかし、この論争も消えつつある。なぜならば、2つの違いは入り口の違いだけであって、結果的には同じ方法にたどり着くからである。トップダウンと聞くと、駅前を再開発する時や、中山間地にダムをつくるときのように、地図の上で場所を決め、多数の公共性のためにそこの人々の土地を収用し、そこに重点的な公共投資をするもの、と思い浮かべる人は多い。しかし、トップダウンであっても、土地が余剰になる=収用しなくてもよい、税収が上がらない=貨幣が使えない、という大前提は共通している。権力=公共目的のために土地を収容する、貨幣=税金を重点的につぎ込むという手法を持つことができず、そこでは人々の自発的な行動をつなぎあわせるような手法しかとることができない。つまりトップダウンであろうとボトムアップであろうと手法は同じであり、どちらのアプローチから議論をスタートしても、丁寧に議論を重ねれば2つのアプローチが補完しあう境地、「森を見つつ地域の自律性を尊重する」あるいは「地域の自律性を尊重しつつ森を見る」という境地にたどり着いてしまうのである。

「普通の制度」の再編成の3つの方向性

こうした境地にたどり着いた地域において、建築や都市・農村計画には何ができるだろうか。
地域の人たちは、それぞれの住まいや地域での暮らしをうまく進める「普通の制度」を身の回りにつくり出している。庭を週に2回掃除をするといった習慣化されたもの、町内会の決まり事、家は長子が相続するといった伝統的な家族制度、寺社仏閣を中心とした宗教の制度、水利権などの生業に関わる制度など細やかな制度をつくり出し、それらの組み合わせで住まいや地域は動かされている。そしてそこにトップダウンの法によって「縮小する」という方向性が与えられたのが現在の状況である。しかし、法は権力も貨幣も伴わないので、建築や都市・農村計画にできることは、普通の制度を丁寧に読み取り、それになんらかの方向性をもたせて再編成し、トップダウンで与えられた「縮小する」という方向性に対する答えを出す、ということである。では、「普通の制度の再編成」にはどのような方向性があるのだろうか。大きく3つの方向性に整理できる。


1──「縮小」とは異なる普通の制度の再編成

ひとつ目は、「縮小」とは違う新しい目的をもって普通の制度を再編成するという方向性である。これは古くからある「まちづくり」や「むらおこし」と変わらない。政府と市場によって「限界集落」や「衰退市街地」とラベルがつけられてしまった場所には、しばしば、濃密な人間関係や低コストの不動産などが残っている。これらは経済成長期を通じて地域に蓄積された豊かなストック=貯金であり、イノベーションを起こしやすい条件と読み替えることができる。これらを使いながら、地域の資源を発見し、デザインや編集の力によってそれらの価値を再編成し、新しい仕事として組み立てなおす取り組みである。例えば、都市の中心部にある空きビルをシェアスペースに再生する、限界集落にある農家屋敷を宿泊施設に再生する、郊外にある空き家をコミュニティカフェとして再生するといった取り組みである。このように新たな目的のもとに普通の制度の再編成に成功したところが拠点となって、周辺の地域にもその効果が波及し、結果的にそれは人口減少の緩和=ミティゲーションに結びつくのである。
こうした取り組みはひとつでも増えてほしいし、工夫の余地は多くある。しかしこれだけでは片手落ちである。ごく狭域のミティゲーションに成功したとしても、人口は大きく減少傾向にあるので、それ以外のエリアでは人口減少への適応=アダプテーションが求められるからである。そこで次の2つの方向性──まだ十分な解法が得られていない──が重要になってくる。


2──戦略的な縮小・撤退

2つ目の方向性は、政府の立地適正化計画や林の『撤退の農村計画』で提唱されているような、戦略的な縮小・撤退である。都市や流域圏といった全体を見わたしつつ、力を集中させる拠点を定め、拠点を中心として普通の制度を再編成していく。立地適正化計画は市街地のなかに都市機能を集約するエリアと、住宅を誘導するエリアを定めることが計画の肝であり、都市の拠点の再編成を迫るものである。『撤退の農村計画』では河川の流域などに点在する中山間地の集落のうち、どこかを「種火集落」に定めて、そこに力を集めることを提案している。
この方向性は、やや計画論が先に立ち、その先に具体的な生活像、空間像、施設像、市街地像があまり見えていないところに現段階の限界がある。具体的な像を結ばないまま、地域の普通の制度を十分に読み切らないまま性急に拠点だけを定めてしまうことは、普通の制度とのミスマッチを起こしてしまう可能性がある。トップダウンとボトムアップのアプローチが丁寧に補完し合うことが重要である。特に、都市の拠点や種火集落の空間像、施設像、市街地像について、建築や都市・農村計画の検討がまだ不足しているところである。これまで我が国でつくられてきたさまざまなビルディングタイプを呼び出して組み合わせたところに答えが見つかるのではないだろうか。なお、筆者は施設についてはガラパゴス的に進化を遂げた我が国のコンビニの形態のなかにヒントがあり、市街地像については70年代、80年代に希求されたような、低密度なニュータウンの形態のなかにヒントがあると踏んでいる。


3──「縮小」「撤退」を目的とした普通の制度の再編成

3つ目の方向性は、「縮小」や「撤退」そのものを目的とした、普通の制度の再編成である。わかりやすく述べれば、所有者が利活用も維持管理も放棄したような小さな空き家があったとして、その200万円程度の解体費用を貯めるために、地域の自治会が最低限のリノベーションをしてアパートを経営し、200万円が貯まったら解体する、というような取り組みである。島根大学の作野広和が提唱する「むらおさめ」とは、「集落のターミナルケア」を総称した取り組みであり、そこでは、集落の文化や行事などのアーカイブ、集落にある資源の目録化などが提案されている。こうしたターミナルケアの知恵は、集落だけでなく、都市のなかの空き家や、建替えができそうにない区分所有の集合住宅などにも適用できるだろうし、終わりに向けてかかるコストや時間は比較的計算しやすいので、まだまだ考える余地がありそうだ。亡くなるのは人間ではなく、モノであるので、そこは湿っぽくなく明るく取り組めるはずである。


2017年はむらおさめ、撤退の農村計画、コンパクトシティといった言葉のもと、それらを具体化する取り組みがあちこちで進むだろう。本稿はそのいずれもが、「普通の制度の再編成」に取り組むしかない、ということを示した。これらはそれぞれが個別の仕事であり、答えは少しずつ異なるはずだ。筆者はそこで現前する多様な知恵に向き合うことに、心を躍らせている。




★1──本文中で触れた書籍以外に、筆者が本稿の執筆にあたって参考にした論文や記事は以下の通りである。
・作野広和「『限界集落』の捉え方と『むらおさめ』に関する覚え書き」(『島根地理学会誌』44号、島根地理学会、2010)
・作野広和「集落の限界化と『むらおさめ』に関する人文地理学的研究」(『人文地理学教育・研究叢書』37号、島根大学教育学部共生社会教育講座人文地理学研究所室、2010)
・林直樹、齋藤晋「講義『農村社会の衰退』と『撤退の農村計画』─力の温存という考え方─」(季刊『政策・経営研究』4号、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、2013)



饗庭伸(あいば・しん)
1971年生まれ。首都大学東京都市環境科学研究科都市システム科学域准教授。都市計画、建築。共著=『初めて学ぶ都市計画』(市ヶ谷出版社、2008)、『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』(学芸出版社、2014)『まちづくりの仕事ガイドブック──まちの未来をつくる63の働き方』(学芸出版社、2016)、『自分にあわせてまちを変えてみる力──韓国・台湾のまちづくり』(萌文社、2016)ほか。著書=『都市をたたむ──人口減少時代とデザインする都市計画』(花伝社、2015)。


Thumbnail: radcliffe dacanay / adapted / CC BY 2.0


201701

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