「ポケモンGO」が拓いたかもしれない公園の可能性とはなんでしょうか?

石川初(登録ランドスケープアーキテクト、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科/環境情報学部教授)
UK: Pokémon GO - Get Up and Go!

ポケモンGOの日本でのリリース直後、プレイヤーでぎっしりと混雑している光景がニュースなどに取り上げられて話題を呼んだ世田谷区の世田谷公園に、11月の初旬にあらためて行ってみた。平日の昼間というタイミングのせいでもあったのだろうが、世田谷公園はとても静かで落ち着いていて、遊んでいる子どもも少なく、ベンチで日向ぼっこしている老人やベビーカーを押した若い母親がまばらに行き来していた。見渡したところ、ポケモンGOはおろかスマホを覗き込んでいる人も見当たらないほどだったが、中央の広場の隅にあった貼り紙に、少しだけ痕跡があった。いわく、

スマートフォン利用の皆さまへ
スマートフォン用ゲーム「ポケモンGO」などの「歩きスマホ」により、他の公園利用者にぶつかるなど迷惑行為が頻発し、苦情が殺到しています。
スマートフォン操作は、通行の支障にならないところで立ち止まって行ってください。
ポケモンGOのプレイを目的とした、ミニSL施設やスポーツ施設、管理施設への立ち入りは禁止します。 ごみやタバコの吸殻は、お持ち帰り下さい。


淡々と書かれているが「苦情が殺到」というあたりにただならぬものを感じる文章ではある[fig.1]。 たしかに、当時の世田谷公園の様子を写した映像はちょっとした見ものだった。およそ、そんなふうな混雑をしなさそうな、いかにも住宅地のなかの公園といった趣きの広場や通路が、人気のお祭りの会場のように混んでいた。加えて、その光景をいささか異様にしていたのは、群衆がみんな手元のスマホを覗き込んでゲームに興じている様子だった。

fig.1──スマートフォン利用者への注意喚起


私がSNSで世田谷公園の写真を目にして驚いたことは、公園の新しい使い方なんてまだまだあるものなんだなということと、今日、人が集まってくるようなイベントは、従来のようなわかりやすいかたちではなく、一見意味がわからない、理不尽なあらわれ方をすることがあるということだ。

私自身は普段からスマホのゲームはほとんどしないのだが、ポケモンGOはリリース直後にiPhoneにインストールしてしばらく遊んだ。世代的に、ポケモン自体にはそれほど思い入れはなかったのだが、起動して画面に表示された地図にちょっとときめいた。デジタル地図よりも、15年以上昔にeTrexなどのGPS受信機を起動したときのことを思い出した。

世田谷公園ほどの「名所」にはならなかったが、私の地元にもいくつか、昼間から人が集まる街角があり、数十人の人々が無言でスマホを覗き込みながら立ったりうろうろ歩いたりする不思議な、奇妙な光景がしばらく見られた。

世田谷公園の光景が異様に映ったのは、公園という施設の土地利用と、ポケモンGOのプレイヤーのふるまいとのあいだに脈絡がなかったからである。噴水も木陰も、園路や広場のデザインも、公園が提供している施設はどれひとつとして、ゲームのために世田谷公園に殺到した人たちがそこに来る理由ではなかった。どう見てもそこは若い人たちが昼も夜も大勢集まってくるような場所ではなかったし、集まった人たちはお互いに話をするでもなく、黙々とスマホに向かっていた。世田谷公園は、公園の文脈と関係のない事情を抱えた人たちがいきなり降ってくるという目にあったのだ★1

ただ、ポケモンGOも実空間の地面のルールをまったく無視してつくられたわけではない。ポケモンGOには「ジム」や「ポケストップ」といったポイントがあるが、それらは、それ以前にリリースされていた位置情報ゲーム、Ingressの「ポータル」を継承したと言われている。「ポータル」は、地域のランドマーク的な施設や場所を、ユーザーが申請して登録するというシステムで設けられていた。「ポケストップ」が多く設置されていた世田谷公園はもともとランドマークとして認知され、人が集まりやすい、居やすい場所だったのである。

何よりもゲームの背景画面が、ポケモンGOがあくまで地上のルールに依拠していることをよく表わしている。プレイヤーに外へ出て歩くことを促しているこの画面は「地図」だが、地図は言うまでもなく地上の制度を写し取ったグラフィックである。この地図には、地面全体がグラデーションのかかった緑色に塗られ、薄く輪郭だけを描いた建物が置かれている。そこに、道路が濃いグレーで描かれている。道路は背景から浮かび上がるように強調的に縁取られていて、強い遠近法が施されている。地面は平坦で、霞む地平線まで見渡せる。基本的にプレイヤーが移動することができるのは道路だけである。フラットな緑の地面に細長い道がどこまでも敷かれている様子は、踏み込めない湿原に木道が歩ける範囲を示している尾瀬ヶ原の風景みたいである。ポケモンGO的に見たこの世界は「道路網」なのである。しかし、実際に遊んでみるとよくわかるが、このあっさりとストイックな地図は、街を歩き回るための地図としては充分である。私たちが街を歩くとき、目的の施設に入ること以外には、道路以外の場所に踏み込むことはまずない。街は道路と、道路以外の「誰かの土地」でできていて、公園などの例外を除けば、私たちは基本的に道路以外には踏み込めない。都市の土地利用区分とはそういうものだ。

そして、公園はまさに、道路以外に誰もが気軽に踏み込める、例外的な敷地である。本来的に公園はポケモンGOの群衆を受け入れるべく用意された施設のはずなのだ。

公園はその趣旨からして、都市が許容できない「その他のアクティビティ」をすべて受け入れ、引き受けることを期待されて設置されている。少なくとも建前としてはそうである。公園はデフォルトで「全部オッケー」である。そのうえで、すべての人が平等に公園を享受するために障害となる事項が出た時、それを例外的に禁止する。公園の運用はそれを建前としている。ほぼすべての公園に、ボール遊び禁止とか、犬の散歩禁止とか、花火禁止などと、個別の禁止事項が記された看板が立てられているのはそのためだ。公園の禁止事項は原則的に「ローカル・ルール」なのである。




世田谷区のウェブサイト内、区立公園に関するお知らせが掲示されるページには「『ポケモンGO』に関する対応について」という記事が掲げられている。リリース直後の2016年7月、世田谷公園に殺到するプレイヤーの写真がニュースに流れたころ、ここには、

世田谷公園内が「ポケモンGO」をプレーする方で混雑し、昼夜問わず様々なトラブルが発生しております。 現在、世田谷区では、「ポケモンGO」の配信会社に事態を改善するよう要請しております。また、園内では注意喚起の掲示や、チラシの配布により利用者のマナー改善を求めております。


という文章が掲示されていた。2016年12月現在、そのページの記述は、

世田谷公園内で発生していた「ポケモンGO」をプレーする方などによる混雑については、現在緩和しつつあります。今後も配信状況の変化を注視しつつ、「ポケモンGO」をプレーする方を含めた公園利用者が快適に公園を利用できるよう、歩きスマホの禁止等のマナー改善を求めていきます。


と、なんだかほっとしたような書き方の文章に変わっている。

電話で世田谷区のみどりとみず政策担当部公園緑地課の担当の方に聞いたところ、世田谷公園が「ミニリュウの巣」として有名になり、プレイヤーが殺到し始めてからすぐに、現地の公園管理事務所や区の担当部署、区長へのホットラインなどに、ジョギングコースにポケモンGOのプレイヤーが入り込んでくるためにぶつかって危ない、自由に散歩もできない、コンビニの弁当のゴミが散乱している、違法駐車があるなど、一日数十件の苦情が来るようになったという。

利用者が不特定多数である公園は普段から利用者の苦情を受けやすい施設である。世田谷公園は、普段から公園の近隣住民からの落ち葉の清掃の要望やゴミの苦情、自転車や喫煙、ボール遊び、犬の散歩など、さまざまなクレームや要望がコンスタントに区に届くとのことだが、「ここまでの集中は経験がなかった」そうである。

他の利用者からの「苦情の通報」によって行政が動くというのはいかにも公園にありがちなことだ。区の対応は素早く、数日後にはNiantic(ナイアンティック)社に配信内容を修正する要望を出したが、先方からの回答は1週間後、それも自動配信の機械的な返信だったという。その後、何ら具体的な回答がないまま、数週間後に配信状況が変わって巣が消え、殺到していたプレイヤーは潮が引くようにいなくなってしまった。そして、世田谷公園には「歩きスマホ禁止」というローカル・ルールがひとつ増えたわけである。

公園側の弁護を少しすると、実際に訪れてみるとわかるが、世田谷公園は全体が原っぱであるような緑地公園ではなく、ジョギングコースやプールやテニスコート、それに子どもたちが木登りや焚き火ができるプレーパークなど、さまざまな施設が詰め込まれた都市公園である。ポケモンGOは世田谷公園に対して地図が粗雑だったのだ。

とはいえ、ゲームプレイヤーが引き上げてしまうかたちで騒ぎが収束したのはちょっと残念だなと思う。ポケモンGOプレイヤーの来襲は、公園には久しぶりの「耐久テスト」だった。現地でゲームプレイヤーと普段からの公園利用者が軋轢を起こした末に、公園のなかにポケモンGO用のルートがつくられるとか、公園の利用を時間で区切って、夜間や早朝などに「ポケモンGOフリーアワー」を設けるとか、そういう工夫が生まれたりしたら面白かったのに。いっそ、建築やランドスケープの学生の課題とかコンペのテーマにしてもいいかもしれない。「既存の施設の文脈から乖離したアクティビティを許容し、重層する多様な使い方を可能にする公園デザインの提案」というような。



★1──社会学者の鈴木謙介は、現実の空間に対してなんらかの関与をする情報空間の作用を、その情報空間の意味が実空間から独立している度合いに応じて「空間の解像度を上げる」「空間に新たな意味を付加する」「空間の意味を上書きする」と分類した(鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ 〈多孔化〉した現実のなかで』NHKブックス、2013)。世田谷公園で見られた光景は、プレイヤーの殺到の目的が「そこが世田谷公園だから」という理由ではまったくないところが、まさに空間の「意味の上書き」だった。


石川初(いしかわ・はじめ)
1964年生まれ。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科/環境情報学部教授。著書=『ランドスケール・ブック──地上へのまなざし』(LIXIL出版、2012)。共著=『READINGS〈2〉ランドスケープ批評宣言』(LIXIL出版、2002、2006[増補改訂版])『今和次郎「日本の民家」再訪』(平凡社、2012)ほか。


201701

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