《大宮前体育館》から考える

青木淳(建築家)+菊地敦己(グラフィックデザイナー)
『JUN AOKI COMPLETE WORKS |3| 
2005-2014』(LIXIL出版、2016)
青木淳『JUN AOKI COMPLETE WORKS |3| 2005-2014』(LIXIL出版、2016)の刊行を記念し、著者である青木淳とエディトリアル・デザインを担当したグラフィックデザイナー菊地敦己とのトークイベントが行なわれました。
モノクロの写真と蛍光イエローのテキストページ、異なる本が1冊にまとめられたような印象をあたえる造本について、2人が協働し作品集にも収録されている3つの公共建築、《青森県立美術館》(2006)、《大宮前体育館》(2014)、《三次市民ホール きりり》(2014)でそれぞれが考えたことについて話していただきました。


菊地敦己氏(左)、青木淳氏(右)

青木淳──菊地敦己さんとはじめて一緒に仕事をしたのは《青森県立美術館》(2006)で、彼が館全体のヴィジュアル・アイデンティティを担当することになったので、ぼくの方からはサイン・デザインをお願いしたのですね。その後も、《大宮前体育館》(2014)、《三次市民ホール きりり》(2014)と、今回の『JUN AOKI COMPLETE WORKS |3| 2005-2014』(LIXIL出版、2016)に収録されているプロジェクトのサイン・デザインをお願いしました。どの建築も異なる方向性を持ったデザインなのですが、菊地さんは自分の「デザイン」を押しつけるというのではなく、それぞれの内容を深く見てくれて、それぞれに対応する異なる考え方とデザインの仕方を提案してくれています。
前の2冊の作品集(『青木淳 JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004』、LIXIL出版、2004、『青木淳 JUN AOKI COMPLETE WORKS |2| AOMORI MUSEUM OF ART』LIXIL出版、2006)のエディトリアル・デザインをしてくれたのは、秋山伸さんでしたが、今回のこの10年ぶりの作品集は、この10年が、菊地さんにボールを投げて、菊地さんからそのボールを返してもらうことが多い年月でしたから、今度は、サインではなく書籍というかたちで、菊地さんがどういうボールを返してくれるのか興味があってお願いすることにしました。考えてみれば、はじめて菊地さんにエディトリアルをお願いしたことになります。

作品集の設計

菊地敦己──《大宮前体育館》[fig.1]を見たことのある方は、会場にどれくらいいらっしゃいますか? おお、皆さん見ていらっしゃいますね。
《大宮前体育館》は、はじめに大まかな計画を伺って躯体工事中の現場を見に行ったのですが、正直に言うとその時はあまりピンと来なかったんです。大きな計画はすんなり理解できるのですが、デザインの肝になる部分がよく掴めなかった。でも工事が進み、内部ができはじめたときにかなりびっくりしました。これはすごいぞと。あの体験はなかなか言葉にしづらいものなのですが、この作品集の造本は、ぼくなりに《大宮前体育館》で考えたことが出発点となっています。ここ10年の青木さんの活動のなかでも《大宮前体育館》は大きなトピックだと思うので、そこから自分が感じた感触をなんとか本に仕立てたいなあという思いがありました。

[fig.1]《大宮前体育館》、撮影:阿野太一

青木──そう、《大宮前体育館》は、今回の作品集のなかで中心になっている作品のひとつですね。

菊地──《大宮前体育館》の体験については少し後でお話しするとして、まずはこの作品集について話します。
この本の構造が一番わかりやすいのは横から見たときです。横から見ると紙の種類が4種類あることがわかります。色で言うと、ベージュ、白、蛍光イエロー、グレーです。この本は、前付、写真、テキスト、データの4つの要素で構成されているのですが、それぞれの要素で、紙の種類を変え、ノンブル(ページ数)の位置も違う。通常の本づくりでは、違う要素をまとめるようにつくっていきますが、今回はそれをあえて分割した状態で進め、テキストや写真といったそれぞれの内容に適した無理のないレイアウトを別々に考えました。そして別々に設計されたものを最後に組み合わせるという方法をとっています。
撮り下ろしの写真は鈴木心さんに撮影をお願いしました。竣工写真は、阿野太一さんが撮影したものです。はじめから彩度を落とした写真で構成したいという青木さんのイメージがあって、最終的にモノクロにしています。少し特殊なインキの構成で、黒の3度刷りとマットニスで印刷しています。モノクロですから色彩はないのですが、この印刷方法によって、階調はカラー印刷よりも広く出ています。
では、写真から抜けおちた色はどこにいったのか。テキストページの用紙には表紙のブルーの補色である蛍光イエローを使っているので、本の全体の色相対比のレンジは広い。通常のカラー印刷では、色相と階調の両方が写真にあるわけですが、この本ではそれがばらばらに分割され、写真は階調に特化し、表紙と本文用紙で色相のレンジをつくっています。つまり、混在した対比関係を分割して、再構成しているのです。

青木──本来は一体になっているものがいったんばらばらにされ、それが変な、ちょっと間違っているのじゃないかなというような組み合わせ方でもう一度、まとめられている。こうした本のつくり方は、《大宮前体育館》に対する菊地さんからのクリティークということなんでしょうか?

菊地──そう言えるかもしれません。全体計画の元にそれぞれの部分をつくるのではなく、それぞれの部分をコンテンツに対して実直につくっていった結果を最終的に組み合わせています。そうすると、それぞれの部分のあいだに隙間のようなものができてくる。きれいにひとつにまとまらない、そぐわない部分がでてきます。そうしたはみだした部分がおおらかさになり、全体のイメージに還元されるんじゃないかと考えました。これは《大宮前体育館》から受けた印象を元に考えた方法です。

201606

特集 青木淳 かたちってなんだろう


《大宮前体育館》から考える
《馬見原橋》から考える
建築が町にできること
市民社会の建築家・青木淳
論理場としての建築の開放性について
このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • パブリック・トイレのゆくえ
  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

戦後空間シンポジウム03「市民・まちづくり・広場──1960-70年代の革新自治体と都市・建築のレガシー」(港区・6/29)

1960〜70年代にかけて、東京都や横浜市など革新系首長が率いる自治体が全国に登場した。これらは高...

刊行記念イベント「建築のそれからにまつわるArchitects」乾久美子×中山英之(渋谷区・6/3)

乾久美子さん、中山英之さんの建築作品集が、それぞれLIXIL出版とTOTO出版から刊行されます。同じ...

「新しい時代のはじまり」展(神奈川県・4/20-5/6)

「旧神奈川県立近代美術館 鎌倉」が「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」として生まれ変わります。 鶴岡八...

「ある編集者のユートピア──小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校」(世田谷区・4/27-6/23)

編集者にしてウィリアム・モリス研究家の小野二郎(1929-1982)が生涯を通して追い求めたテーマ...

連続講義「建築とアーカイブズを巡る論点」(武蔵野市・5/11-)

近年、開催される大規模な建築展も多く、建築や建築に関する資料への関心が高まっているように感じられま...

シンポジウム「日本の近代建築を支えた構造家たち」(新宿区・5/18)

我が国の近現代建築の発展を技術的側面から支えた構造設計手法や施工法などに関する構造資料は、これまで...

「ル・コルビュジエ 絵と家具と」(渋谷区・3/29-5/18)

20世紀に最も影響を与えた建築家、ル・コルビュジエ。建築と都市計画においてのパイオニアであり紛れな...

「わたしはどこにいる? 道標(サイン)をめぐるアートとデザイン」(富山県・3/9-5/19)

「サイン」とは、人を目的地に導く目印のこと。普段意識することは少なくても、駅や空港、商業施設、美術...

「宮本隆司 いまだ見えざるところ」(目黒区・5/14-7/15)

東京都写真美術館では、現在も国内外の美術展などで発表を続ける宮本隆司の個展を開催します。宮本隆司は...

豊田市美術館リニューアル記念イベント「谷口吉生──美術館を語る」(6/15・愛知県)

豊田市美術館のリニューアルを記念して、同美術館を設計した谷口吉生のトークイベントが開催されます。 ...

日本橋高島屋と村野藤吾(中央区・3/5-5/26)

高島屋史料館TOKYOは、1970年に創設した高島屋史料館(大阪)の分館として、重要文化財である日...

NPO建築とアートの道場 2019春レクチャーシリーズ「これからの建築を考える──表現者と建築家による対話実験」(文京区・4/27-)

これからの建築を考えてみたいと思います 確固たるビジョンがあるわけではありません ただ葛藤や矛盾は...

シンポジウム「感性×知性=建築の新たなる可能性を求めて」 (港区・5/7)

21世紀も2020年代が近づき、AI、生命科学、宇宙といった新たなイノベーションが進行し人類のサス...

建築学生ワークショップ出雲2019開催説明会、講演会(東京・5/9、京都・5/16)

2019年夏、古代より現代に受け継がれてきた、わが国を代表する神聖な場所、出雲大社周辺区域にて、小...

杉戸洋「cut and restrain」(港区・3/16-4/13)

杉戸洋による展覧会が「cut and restrain」4月16日まで小山登美夫ギャラリーで開催し...

鏡と天秤─ミクスト・マテリアル・インスタレーション─(中央区・3/12-5/11)

私たちは非日常(ハレ)と日常(ケ)の境界が曖昧な社会におり、個々が非日常(ハレ)と日常(ケ)のバラ...

- Green, Green and Tropical - 木質時代の東南アジア建築展(品川区・2/6-5/6)

建築倉庫ミュージアムでは、2月6日より「- Green, Green and Tropical -...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る