ISRU──建築/構法 未来からの眼差し

松村秀一(東京大学教授)

1. ISRUとは

宇宙開発の分野で使われてきた用語に「ISRU(In-Situ Resource Utilization)」というものがある。現地の資源を利用する方法のことである。現在地球の周りを回っている国際宇宙ステーションは、地球上でつくり込んだひとまとまりのシェルター(「モデュール」と呼ばれる)を、スペースシャトルで輸送し、軌道上で相互にドッキングすることによって構成された建築である。しかし、より遠くの有人ミッション、例えば火星に人間を送り込み、そこで何らかの活動をするためのシェルター建設を念頭に置くとなると、国際宇宙ステーションのような方式の採用は、輸送効率が悪すぎ経済的に到底成り立たないと考えられている。1グラムのものを運ぶのにさえ莫大なコストがかかるそのようなミッションにおいては、地球からできる限りものを運ばず、現地(例えば火星)で採取できる材料を用いる建設方法こそが目指されるべきだというのである。つまり、宇宙開発の分野での建築技術の進化の過程は、最も初歩的な段階として、地球で空間をつくり込んで現地に輸送する方法があり、最も進んだ段階として、現地で採取できる材料を用いる方法、即ちISRUがあるというふうに考えられている。
この話を初めて聞いた時、私は大きな刺激を受けた。20世紀までの地球上の建築技術の進化の過程と全く逆だからである。地球上の建築では、最も初歩的な段階として、土や石や木や草や獣皮等、建設地の周辺で採取できる材料を用いる方法があり、次に少し離れた場所で加工を施した部品を建設地でアセンブル方法(プレファブリケーション)が現われ、輸送技術や揚重技術が高度化した20世紀の後半になると、ひとまとまりの空間をモデュールとしてつくり込んで建設地に運んでくる方法(モデュラー・コンストラクション或いはユニット構法等と呼ばれる)が実現可能になった。

2. 20世紀的な建築技術がたどり着いた地点

こうした地球上の建築技術の現段階での到達点を象徴するものとして、超高層建築がありプレハブ住宅がある。しかも、20世紀の建築技術の進展の特徴は、何と言っても技術自体の普及の範囲の広さとスピードの速さにあり、超高層建築などは20世紀初頭にはニューヨークでしか見られなかったものが、今や世界中で夥しい本数見られるようになった。
この普及の範囲の広さとスピードの速さの不思議を理解したくて、この間21世紀に入ってからTVで放映された内外の超高層建築関連ドキュメンタリー番組の数々を見続けているのだが、設計技術や施工管理技術はもちろんのこと、材料も、それを予め加工した部品やモデュールの類も、世界中からある現場に集結してきていること、誠に驚くばかりである。現段階での超高層建築は、最早資源との関係において立地を選ばない。これが各種輸送手段と集約的な生産方式が高度に発達した20世紀を象徴する建築技術のひとつの到達点である。
しかし、この先に何があるのだろうか。

3. ザンビアの学校とSF「31世紀からふり返る未来の歴史」が示唆するもの

宇宙開発分野の建築技術の進化の過程と、その究極の目標がISRUであることを聞きかじって、私が直感的に思ったのは、地球上の建築技術も、最早これまで進んできた一本道のその先はなく、むしろ折り返してISRU的なつくり方を目指すのではないかということである。
この直感には全く根拠がないわけでもない。個人的な経験に過ぎないが、ひとつはザンビアの学校建設の現場で見て感じたこと、いまひとつは30年程前に読んだあるSFに書かれていたことが、この直感に繋がっている。
21世紀の初めだったと思うが、JICAの仕事でアフリカの4カ国の僻地に、日本政府の無償援助によって建設された或いは建設されつつある学校を視察しに行ったことがある。確かザンビアの例を見に行った時だと思う。いかにも日本のスーパーゼネコンの請負仕事らしくしっかりとしたRCラーメン構造の校舎を案内して頂いた。ただし、その校舎は平屋建てで屋根は軽量の折版葺きだった。この程度ならば何も現地に技術のないRCラーメン構造などではなく、もう少し現地でもメンテナンスのし易い構法を採用した方が良かったのではないかと思いながら敷地内を歩いていると、日本が無償援助する以前の校舎を発見した。近くの土からつくった日干し煉瓦の壁の上に、やはり近くで採集された木材から成る小屋組を載せた建物だった。築後約15年とのことだったが、外壁面や屋根面の防水が十分でなかったせいだろう、日干し煉瓦の壁は崩れていた。しかしである。その崩れた壁は風化し、そこで再び土=自然に返っていたのである(図)。ここでは資源が循環している。私は、当初の防水構法をもう少ししっかりしておけばもっともったであろうし、仮に15年でこういう状態になったとしても、再びその土を原料に日干し煉瓦の壁を築けばそれで良いのではないか、後々メンテナンスにも取壊しにも困るであろう外来のRC構法よりもこちらの方が良いのではないかと思った。そして、日本が技術協力をするとすれば、長年日本の中で培われてきた土壁の仕上げ技術に着目し、現地の材料で実現する方法を考えることに注力するのが良いだろうと考えた。

崩れつつある日干し煉瓦造の校舎(撮影筆者)

さて、SFの方は、1987年に邦訳版が刊行された『2000年から3000年まで──31世紀からふり返る未来の歴史』(パーソナルメディア)という本である。この中で建築に関わる記述が1カ所だけ出てくる。21世紀の後半にレオン・ガンツというアメリカ人が発明する「ガンツのセメンテーション構法」についてである。ガンツは、遺伝子操作したバクテリアを使ってこしらえた有機接着剤によってさまざまな粒子を凝集させることで、仕様に応じて強固な構造物等、色々な材料をつくることができる技術を発明する。そして、初めは煉瓦やブロックから始まって、最後は建物全体をまとめて建てる方法が編み出され、土のあるところならどこでも現地の材料で自在な形の建築を実現できるようになったというのである。何とも面白く示唆に富む話である。

4. 技術の方向性を示す建築を取り戻すこと

建築技術の本質はアセンブリーである。時代のさまざまな要素技術を選び、集め、組合せて、ひとつの構築物と空間を実現する、いわば編集技術兼統合技術である。であるからこそ、それは多くの要素技術に対してその進むべき方向性を示し得る。私はこれまでそう考えてきた。しかし、今日の建築にはその自覚が欠如しているように思えてならない。
例えば、防災技術。災害時の被害を極力抑えるために何をすれば良いかは、技術的にはかなりの程度わかっているのだが、それを広く行き渡らせる仕組みが欠如しており、多くの場合課題は人々の意識の変革と技術適用の経済性に集約できる。例えば、省CO2関連技術。このお題目自体建築から出てきたものではなく、建築分野では、規制や補助金等の制度に誘導される形で、先行する他産業の技術開発の成果のうち、コスト上合いそうな技術をこぞって採用しているに過ぎない。仮に1次エネルギー側で大きな技術革新が起これば役に立たないような技術の選択が多いように思える。例えば、デジタル・ファブリケーション。既に他産業での実用化が緒に就いた段階で、建築界では、遅ればせながらその適用可能性に関する議論が始まったに過ぎない。
これら今日建築技術の話題の中心になっている事柄は、多くの要素技術に対してその進むべき方向性を示すものとは思えない。それに対して、ISRUは、グローバルな資本・資源・技術の激しい動きが、多くを支配下に収めた現代社会のあり様に対して、別の社会のあり様を示唆する点に面白みがある。原始の建設方法に立ち返ろうというのではない。今ある、或いは今芽が出つつある要素技術の中から、そのコンセプトの実現に援用できるものを探し出し、21世紀型の現地資源利用の方法をつくり出すことが目指されることになるだろう。そして、それは多くの要素技術に対してその進むべき方向性を示し得ることが期待できるのではないか。
ISRUは、地球上においても、建築技術のあり方を再考させる現代的なコンセプトになり得る、と私は思っている。
最後に、この間探索している超高層建築関連ドキュメンタリー番組の中には、イエメンのシバームに林立する土でできた高層建築に関するものもあることを付け加えておきたい。

注──本稿では、部分的に下記の拙著より記述を引用している。
松村ほか『2025年の建築 七つの予言』(日経BP社、2014.9)

松村秀一(まつむら・しゅういち)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授。
主な受賞歴=「住宅生産の工業化に関する研究」2005年日本建築学会賞。
『建築生産の進め方─ストック時代の建築学入門』(市ヶ谷出版)2008年都市住宅学会賞(著作)


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