建築計画とコミュニティデザイン──小野田泰明『プレ・デザインの思想』

山崎亮(コミュニティデザイナー、studio-L 主宰)
小野田泰明『プレ・デザインの思想』
(TOTO出版、2013)

最近はあまり言われなくなったが、数年前まで「あなたがやろうとしていることは小野田さんがやっていることに近い」と言われることが多かった。だから小野田さんが何をしているのか、とても気になっていた。当時の僕は、建築設計の前提となるプログラムを住民と話し合いながら検討すべきだと考えていて、ワークショップと呼ばれる話し合いを何度も開催していた。毎回、試行錯誤の連続だったので、小野田さんがどんな方法で仕事を進めているのかが気になり、インターネットや雑誌や書籍から情報を集めては勉強していた。今回、『プレ・デザインの思想』として小野田さんの仕事や思想や方法が一冊にまとまったのはとてもうれしい。コミュニティデザインに携わる人間として、多くのヒントを得ることができる本が出版されたといえよう。

全編にわたって興味深いのだが、コミュニティデザインという視点からみて特に重要だと思うのは6章以降である。もちろん、6章以前の「行為、機能、プログラム、建築(形態)」に関する関係性の整理も明快なのだが、建築のプロセスと完成後の運営との関係性について語る6章以降は、参加型のデザインにおいて重要な点を指摘しているといえよう。

たとえば6章の「オープンな空間の可能性は、それを使う人間の志向や能力に強く依存する」(p.96)という言葉は、僕自身がランドスケープデザインからコミュニティデザインへと活動の場を移行させた理由のひとつとぴったり重なる。ランドスケープデザインが設計の対象とするオープンスペースは、その名の通り「オープンな空間」なのである。こうしたオープンスペースの可能性を高めようとすれば、オープンであるがゆえに空間の操作が限定的にならざるをえないため、結果的に利用者の志向や能力に大きく依存することになる。だからこそ、利用者のコミュニティと話し合い、志向を確認し合い、時にはオープンスペースを使いこなす能力を高めるための講座を実施したりする。同時に、運営者のコミュニティを組織化し、利用者のコミュニティと適切な関係性を構築するための支援を行なう。そのためには、利用者も運営者も、設計中から話し合いの場に参加してもらい、その意見を設計に反映させ、完成後の運営に主体的に関わる機運を高めることも重要となる。

ところが話はそう簡単ではない。小野田さんが8章で指摘するとおり、「本来であれば計画時からハードの構成と運営の仕組みの両者を同時に設計する体制が取れることが望ましいのだが、現在の日本においてそうした状況が用意されることはそう多くない」(p.118)というのが現状である。設計時から完成後の運営をイメージして発注してくれるクライアントが少ないことや、そもそも設計時には運営者が決まっていないことなど、建築のデザインとコミュニティデザインが協働する機会はかなり少ない。

以上のように考えると、小野田さんが専門とする建築計画が抱えている課題とコミュニティデザインが抱えている課題はかなり近い。それもそのはず、コミュニティデザインとは、建築計画を利用者参加型で進める際の方法論を名付けた職能だといえるからだ。11章で小野田さんが紹介しているイギリスの図書館と日本の図書館の比較は興味深い。イギリスの図書館は日本に比べて4倍の時間をかけて設計が検討され、10倍の設計料やコンサルタント料が支払われているという。その結果、総工費はイギリスのほうが安く抑えられているというのだから、プレ・デザインである建築計画がいかに重要なのかを再認識する必要がある。これほどの期間と費用が担保されるのであれば、利用者参加型で建築計画を進めるコミュニティデザインにもじっくり取り組むことができるはずだ。勇気づけられる事例である。

僕はきっと小野田さんと同じ道を歩いていたのだろう。ところがいつの間にか、その道を踏み外して少しずつ違う道を歩き始めた。建築設計の前提を整理するために住民や利用者と話し合っていたはずなのに、住民や利用者を組織化して新たな活動を生み出すことが楽しくなってきたわけだ。その結果、公園の運営、総合計画の策定、商店街の空き店舗対策、集落における特産品開発など、およそ設計とは離れた分野でコミュニティデザインを実践することになったのである。本書を通じて小野田さんの軌跡を辿ると、建築計画の道を踏み外さず、歩み続けた人が持つ深さと強さを感じる。

設計の根拠が見えなくなった時代だからこそ、建築の設計に携わる人たちに必ず読んでもらいたい本である。加えて、建築設計以外の分野で活躍する人にも読んでもらいたい本だ。特に、政治や行政に携わる人たちに読んでもらい、小野田さんが指摘するようにこの種の職能をプロジェクトに位置付ける努力を続けてもらいたい。

そして僕たちは、手にした数少ない機会を存分に活かし、建築計画やコミュニティデザインの重要性を明確に示すような仕事をひとつずつ生み出さねばならない。本書のあとがきに書かれたとおり、この仕事は「裏方向き」ではあるものの、あえて小野田さんや僕たちが表に出て、この職能の重要性を説かねばならないこともあるだろう。 本書はそのために出版されたはずだ。


やまざき・りょう
1973年生まれ。studio-L。主な著書=『コミュニティデザイン──人がつながるしくみをつくる』『ソーシャルデザイン・アトラス──社会が輝くプロジェクトとヒント』『まちへのラブレター──参加のデザインをめぐる往復書簡 』ほか。主な仕事=兵庫県立有馬富士公園パークマネジメント、島根県隠岐郡海士町第4次海士町総合振興計画「島の幸福論」「海士町をつくる24の提案」、鹿児島県鹿児島市マルヤガーデンズ、延岡駅周辺整備事業プロジェクトほか。


201311

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