「歩み寄る」社会の実現に向けた一つの提言
──山崎亮『コミュニティデザイン──人がつながるしくみをつくる』

勝矢武之(日建設計)
本書はいわゆるデザイン本、「かたち」のつくり方の本ではない。むしろ形のないもののつくり方、そしてその育て方についての本である。ランドスケープデザイナーとしてキャリアをスタートした著者は、コミュニティの重要性に気づいてその創造に関わるようになり、いつしかコミュニティデザイナーとして日本中を飛び回るようになった。本書はその約10年間の記録で、デザインのマニュアル本というよりも、デザイナーの半生記に近い本であり、コミュニティを生み出す過程でのさまざまな逸話が盛り込まれている。何だ、体験本みたいなものかと思われるかもしれない。だが、この本書のスタイルそのものが、コミュニティにおいて最も重要なものが何なのかを語っているのである。つまり、コミュニティをつくる仕組みはどうあれ、それは結局人々の「生」の中からしか生まれないし、育ちえないということ、である。コミュニティは参加する人々の人生そのものであり、理論やマニュアルだけではその本質やダイナミズムを掬い取ることはできないのだ。


山崎亮
『コミュニティデザイン──人がつながるしくみをつくる』
(学芸出版社、2011)

コミュニティを「デザイン」する時代

そもそもコミュニティは人と人のつながりであり、それはデザイナーの「作品」などではない。では、なぜコミュニティは「デザイン」される必要があるのだろうか。
まずはコミュニティを巡る現状から見ていこう。本書の冒頭には「まだまだ状況は好転させられる」という言葉が掲げられている。その前向きな言葉には、希望とともに、現実の社会の抱える厳しい状況が込められている。
厳しい状況とは何か。それはこの国における人と人の「つながり」の弱体化である。100万人を超えるうつ病患者、3万人を超える自殺者、同じく3万人を超える孤独死など......この50年でこの国の無縁社会化が進行していった。そうして「つながり」が断ち切られることで、多くの人々の生の希望や生き生きとした暮らしの可能性が奪われてしまった。だが、それを「昔はよかった」と、ただ回顧的に語るのでは、問題の重要性を見失ってしまうだろう。この弱体化には、現代社会の構造的問題が隠れているからだ。
思えば20世紀はコミュニティ衰退の世紀であった。19世紀後半の産業革命、そして20世紀後半の情報革命がもたらしたのは、人が土地に結びつき、その土地の人間と醸成してきた「地縁型のコミュニティ」の弱体化であった。つまり近代化と都市化の進行に従い、地縁、血縁などにより自然発生した共同体(ゲマインシャフト)が弱まり、人々のつながりは選択意思にもとづく組織体(ゲゼルシャフト)へと移行したのである。「遠くの親戚より近くの他人」という言葉があるが、今や「近くの他人」より、メールやネットでつながっている会ったこともない遠くの人間の方に信頼感を感じてしまう時代である。情報技術の発達は、われわれのコミュニケーションを物理的制約から解放し自由にしたが、その一方で逆説的に現実世界のコミュニケーションの障壁が高くしたことも見逃せない。つまり、遠くの友人といつでも連絡が取れる現在では、親しくない隣人と、あえてつながる必要がなくなってしまったのだ。
そして、都市部で進行したコミュニティの衰退とパラレルに、地方でもコミュニティの衰退が進行していった。高齢化が進み、新たな若年層が増加しない地方のコミュニティでは、新陳代謝が起きず、メンバー間のわだかまりが蓄積され、徐々に身動きが取れなくなっていったのである。
だから、コミュニティを生み出すためには、人と人がつながる「仕組み」を新たにデザインする必要があるし、さらには人々がそこに参加し、積極的に関わっていく「やる気」(選択意思)を育てることが必要となる。そして同時に、人々が上述したようなコミュニケーションの障壁を乗り越えていくための「きっかけ」を提供する必要があるのだ。この「きっかけ」づくりと「やる気」の育成こそがデザイナーの大きな仕事であり、本書では多くのページがその部分の紹介に割かれている。

チームの「きっかけ」をつくり、「やる気」を育てる。

本書で紹介される事例は、コミュニティの地盤が何もなく、メンバーの面識がまったくないパターン(都市部に多い)と、状況が複雑に絡み合い、当事者が正確に状況を直視できていないパターン(地域に多い)の二つに大別される。このそれぞれに対し、山崎さんはさまざまな「きっかけ」を与えて雪解けを起こし、コミュニティの下地を整備していく。
まず、前者の場合は、最初にワークショップなどの形で参加者のグループを組織する。ここで重要なのが、初めて出会うメンバーの間の心理障壁を取り除き、結束した強いチームをつくることだ。その「きっかけ」として、アイスブレイク[初めて集まったメンバーの緊張を解きほぐすためのゲーム]、チームビルディング[集まったメンバー相互の信頼関係を構築してチームの結束力を高めるゲーム]、リーダーズインテグレーション[リーダーを決め、それを支える役割分担をチームの構成員が自然に理解し、実行するためのゲーム]といったチームづくりの手法が用いられる。これにより、強固なチームを生み出すとともに、互いの存在を刺激としてメンバーの「やる気」を高めていくのだ。
一方、後者の場合は、むしろまずは状況を整理するため、第三者的な透明な聞き手が必要となる。ここで力を発揮するのが、利害関係に左右されず中立を保つ力を持った学生という存在である。彼らが信頼関係を築き、中立な立場を保ったまま、当事者からさまざまな話を聞きだしていくことで、絡み合った状況を解きほぐしていく。そして学生自身がクリアな映し鏡となることで、正確な状況を当事者自身へ映し出し、本当に重要だったものを気づかせるのである。
このような過程のなかで、山崎さんは自分たちと同じ感覚を持った人をみつけ、その人たちと活動の醍醐味を共有し、持続的に活動するメンバーを少しずつ育てていく。無理に熱を加えて急いで熱したものは、いずれすぐに冷えてしまう。だから、ゆっくりと進めて「やる気」を育て、コミュニティという化学反応がはじまるまで醸成させていくのだ。
つまり、コミュニティデザインとはまず「育てる」デザインである。そこでのコミュニティデザイナーの役割とはいわば産婆のようなものだ。彼らは、コミュニティという「地域の子供」を生み出すための手助けをする。だが、産むのはあくまで参加者自身なのだ。本書のサブタイトルにあるように、「人をつなげる」のではなく、「人がつながる」のだ。そして、この産婆の仕事は、子供を取り上げるだけでは終わることはない。
コミュニティの立ち上がり時、参加者は熱意に溢れている。困難なのはこの盛り上がった活動を一時の花火ではなく、持続的な活動へと導くことだろう。山崎さんは開始から5年位したときに自分たちがいなくなるのが理想だと述べる。イベントのさなかに次の活動について議論したり、複数のグループに相関関係を持たせたりと、次の波を起こすさまざまな「仕組み」をつくることでコミュニティを持続的運動へと導き、そして自らは静かに舞台を降りていくのである。

「枠組み」を定め、「位置づけ」を整備し、「仕組み」をつくる

コミュニティデザインのもうひとつの仕事が、企画書づくりに代表されるコミュニティの仕組みづくりだ。山崎さんはコミュニティの企画書をすぐにつくり、何度も書き直すという。持続的発展のための仕組み(システム)が重要なのは言うまでもないが、コミュニティのスタート時により重要なのは、そのコミュニティの枠組み(フレーム)と位置づけ(ポジショニング)だろう。まず、社会問題を正確に把握し、それを解決できる正確な「フレーム」を設定する必要がある。そこでは状況の正確な観察と問題の整理、コンセプトの立案が必要だ。次にコミュニティの行政上の位置づけなど、社会の上で機能し、意味を持ちうる有効な「ポジショニング」を整備する。繰り返し書き直される企画書により、そのフォーカスの精度と有効性が高められていく。さらに、参加者が気持ちよく参加でき、かつ効率的に機能し、かつ持続した運動になるよう、集団の規模や関係性を整理し、コミュニティの「仕組み」を設計していく。行政や地元の間を調停しながら、この「枠組み」と「位置づけ」と「仕組み」をデザインすることが、デザイナーの仕事である。つまり、コミュニティデザイナーは活動の導き手と、システムの設計者という二つの顔を持つのだ。
ところで、なぜそれが「デザイナー」の仕事なのだろうか。それはデザイナーがコミュニケーションのツールをグラフィカルにデザインできるからではない。デザイナーが形を操るがゆえに、コミュニケーションの関係性それ自体を、ダイアグラムとして記述できるためである。このダイアグラムを書き、世界を再構成する力こそが、デザイナーの社会的な力なのである。

10,000人でできることへ

山崎さんは活動を1人、10人、100人、1,000人と、活動に関わる人の規模に応じて分けて考えている。規模が小さければすぐ行動できるが、大きくなれば行政などとの関係が問題になるからだ。規模の大小が行為の価値を決めるわけではないが、おそらく山崎さんの活動はいずれ、10,000人での取り組みという「街」のスケールへとつながっていくだろう。だが、10,000人という規模はもはや個人的つながりの延長を超える規模だ。そこでは、より大きな精神的な絆が必要になっていくだろう。伊藤香織さんや武田重昭さんが提唱する「シビックプライド」はその一例である。シビックプライドもまた、コミュニケーションデザインに基づく概念であり、都市スケールでの人々の絆を共有し育てていく試みである。


シビックプライド研究会編
『シビックプライド──都市のコミュニケーションをデザインする』
(宣伝会議、2008)

震災で失われたもの

本書のあとがきで山崎さんは、阪神・淡路大震災で建築やランドスケープという「器」が崩れ去った瓦礫の中で、協力し合いながら生きる人々の姿を見たことが、コミュニティに興味を持った理由のひとつだと語る。非常時にデザインができることを考え、『震災のためにデザインは何が可能か』という本を記している。
今後、東日本題震災の復興が進むだろう。だが、単に建物を建て直し、街をつくり直すだけでは十分ではない。人のつながりもまた守られ、再構築されねばならない。神戸の震災後3年間で起きた200件以上の孤独死。それは人のつながりが断ち切られた結果だったと山崎さんは語る。限界状況では、人々のつながりの重要性はさらに増していく。単に箱をつくるのは、人のつながりを築くより、はるかに容易な行為だ。だが、箱だけでは何も起きないという実感が、山崎さんをコミュニティ創造の活動に駆り立てている。グランドデザインや経済復興といったマクロな視点ばかりが語られがちな今、本書の提起する問題はきわめて重要である。


hakuhodo+design/studio-L
『震災のためにデザインは何が可能か』
(NTT出版、2009)

歩み寄る社会に向けての提言

本書はコミュニティについての本だ。だが、社会インフラと情報インフラが整備された現代では、人は他者と関わらなくても生きていくことができるし、いまや他者と関わることがしばしばリスクと考えられてすらいる。では、なぜ、つながりが必要なのか。つながりの弱体化は無縁社会化を加速する。人が身近な隣人との関わりあいを避け、他者への寛容性を失い、無関心となるようになれば、物理的な都市や地域の空間は確実に荒廃し、社会は小さく閉じていくだろう。山崎さんは、そんな社会に抵抗し、自らの生き方をもって人のつながりのすばらしさを体現している。彼と話せば、誰もが人と、社会とつながりたくなる。そして、そんな生き生きとした社会的な生を送ろうとするならば、互いにリスクを超え、寛容の精神を持って歩み寄る必要がある。それは社会システムデザインの問題であると同時に、個人の選択的意思と情熱の問題でもある。だから、本書は人と人のつながりに関し、理論よりもその重要性や価値を語る。楽しく充実した生活、仲間とともにある生、非常時に助け合えるつながり......、本書はそうした人と人が「歩み寄る」社会の実現に向けた一つの提言である。

かつや・たけゆき
1976年生まれ。1998年、京都大学工学部建築学科卒業。2000年、京都大学大学院修士課程修了。現在、日建設計勤務。主な作品に「木材会館」「乃村工藝本社ビル」など。


201107

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