「ポストファブリケーション」とそのデザイン

吉村靖孝(建築家)+林厚見(株式会社スピーク共同代表、東京R不動産ディレクター)

建築のファブリケーション再考/床余り時代の情報の価値観

吉村靖孝──昨今の床余りや人口減少、経済の低成長を背景に、大きな意味で建築の製作や生産、ファブリケーションを考え直してみたいと思っています。
日本における住宅需要のピークはとうに過ぎています。第二次世界大戦後の自由主義的な住宅政策を追い風に、1960年代には住宅難を補うための量産があり、1970年代のプレファブリケーション技術の進歩と共に住宅産業は大きく成長しました。1980年代にはすでに成熟期に入り、以降、技術的には枯れて、大手ハウスメーカーは商品化住宅の表層のバリエーションをつくり出しています。いま、ハウスメーカーによる量産型住宅が買われている理由は、技術的に優れているからでもローコストだからでもなく、大企業がつくっていることに対する信頼からです。このあたりの話は『ひらかれる建築──「民主化」の作法』(ちくま新書、2016)など、最近の著作まで松村秀一先生が一貫して語られていることです。僕自身も、プレカット木材に合板や石膏ボードを張る在来工法は、すでに十分にプレファブ化されており、狭義のプレファブがその存在根拠を問われる状況があると認識しています。
本来なら量産効果で低価格化の見込めるプレファブ住宅は、大企業が供給するため経費も嵩んで、実際は日本の住宅の平均価格よりも高く、最近はさらにその差が大きくなる傾向にあります。工期についても、プレファブ住宅は全住宅平均より1カ月ほど短いのですが、これは建設現場での工期ですから、工場での製作期間を加えると逆転してしまうのではないかと思います。つまり、経済的にも時間的にもコストは上振れしていて、理想的な意味でのプレファブリケーション建築は存在しなかったとさえ言えるのではないかと思うのです。商品化の果てに、企業のブランドや信頼による住宅がいまも量産されていて、そのこと自体は無視できる問題ではありませんが、一方で、昨今のリノベーションやDIYの急激な普及を考えると、プレファブ住宅に満足できない課題が露呈し始めているようにも感じます。

吉村靖孝氏

林厚見──僕らが「東京R不動産」を始めた背景には、そうした住宅市場に満足できないユーザーがいました。新しい視点で一風変わった不動産を発見してサイトで紹介し、いままで6,000件近くのマッチングを行なってきました。サイトを始めてからすでに10数年が経ちます。
当初、東京R不動産は「(企画や設計の)プロジェクトをつくり出すためのメディア」という意図がありました。古い物件があった時に、それに関心がある人が現われて、うまくマッチングすればリノベーションのプロジェクトになるだろうと。ですが、実際に始めてみると違う方向に向かっていったのです。オーナーは再投資をする気がなく、原状回復も必要ないといった条件の部屋をスケルトン状態で買って自分で改装したいと思っているユーザーなどが多く集まってきたのです。その過程でわれわれも、自分たちでデザインしてしまうのでなく、ユーザーにそのまま委ねたほうが経済的にも住み手の満足度としてもいい場合があるんだということに気付かされました。そうしたニーズがある以上、われわれはあえて手を触れずに、伝え方や出会い方を含めた「流通」や価値観を変えることをテーマにしていったのです。そのほうが多様で面白い状況が起きていくし、生まれていく空間の表現の幅にも広がりを実感することができました。ユーザーに編集権を手渡していくこと、ユーザーに頭や手を使ってもらうことをポジティブに捉えられるようになったのです。サイトとは別に、企画や設計の仕事もしていましたが、僕らがやりたいことの根本は、建築としてラディカルであることや革新的であることよりも「愛着のわく楽しい空間を増やすこと」です。ユーザーの愛着があり、楽しげな空間であれば、どんなスタイルでもかっこいいと。そのようなことを明確に意識し始めたのは最初期の2005年頃でした。その後、世の中ではリノベーションは急速に一般化していきます。

林厚見氏

「ポストファブリケーション」/愛着を生むための仕組み

吉村──最近「ポストファブリケーション(Post-Fabrication、以下ポストファブ)」という言葉をよく使います。これは僕の造語なのですが、プレファブリケーションの終焉とか、さらに「その先」というような大袈裟な意味ではなく、単にプレファブリケーションの対になる言葉です。つまり、プレファブは現場に入る前に「off-site」(敷地や現場ではないところ)で物をつくるという考え方ですが、それに対して「on-site」(敷地のなか、現場、現場の工程)でつくることをポストファブ(あとでつくる)と呼ぼうとしています。
ポストファブを具体的な課題と捉えることによって、いま、建築に起こっていることや、求められていることの見通しが少し良くなるだろうと思っています。その社会的背景としては空き家の問題があります。総務省によれば、2013年時点で全国の住宅に占める空き家の割合は13.5%で、その率はいまも伸び続けています。すでに住宅は飽和状態で、十分なストックがありますから、これから新しくつくるのではなく、既存のものにあとから手を加えていく必要があります。また、技術的には、情報とモノの製作とをシームレスに繋ぐデジタルファブリケーションも、ポストファブを支える背景のひとつです。究極的には、月面にプリンターを運び、現地にあるものを使ってプリンティングによって基地をつくるということもすでに構想されています。まさにポストファブ的な事例です。
《菜園長屋》(2017)は、共用部を持った共同住宅を建てることができない旗竿敷地に設計した長屋です[fig.1]。共用部だと見なされない屋上部に開放的な菜園を設けました。住人たち自らが建築と一体化した畑を耕し、かつコミュニケーションのツールとして活用してもらうということを考えました。これも現場が終わった「あと」をユーザーに手渡すポストファブの一例です。

fig.1──《菜園長屋》[提供=吉村靖孝]

吉村──ポストファブという概念は、その意味を拡張して捉えられる可能性もあります。以前、「HouseMaker」(2014)というiOSアプリをドミニク・チェンさん、松山真也さんと共に開発しました。このアプリを使えば、エンドユーザーがiPad上で、簡易な方法によって自宅を設計できます。コストもリアルタイムでわかり、最後に注文ボタンを押すと数週間後に材料が運ばれてきて、家が建てられるということを目指したプロジェクトのβ版を東京ミッドタウンで展示しました。これも、エンドユーザーが関われる領域を広げるという意味ではポストファブ的なアプローチだと考えられます。

fig.2──ハワイ大学のワークショップの様子[提供=吉村靖孝]

吉村──この写真は、2016年にハワイ大学でワークショップをやった際に偶然見つけた、中庭でゼミをやっている学生たちの輪です[fig.2]。気持ち良さそうに見えますが、よく見ると、日なたに座っている人も木陰に座っている人もいて、快適の尺度は個人個人で違うという当たり前のことを端的に表わしています。教室のなかをエアコンや照明によっていかに温湿度、明るさをベストなコンディションに保ったとしても、結局そこは均質につくられた環境です。そこを抜け出し、自ら快適な環境を「選び取る」ことも、突き詰めて考えればポストファブと言えるのではないかと考えています。具体的に物をつくったり、手を加えなくても、ユーザーが事後的に行なう選択のすべてを包含するような意味で捉えたいのです。

僕が建築家としてやろうとしていることは、建築が完成するまでのプロセスと、完成したあとで使われるプロセス、消えてなくなるまでのプロセスをできる限りなめらかにつなげたいということです。それらの境界線をなくしたり、設計者の領域とユーザーの領域をぼかしたほうがうまくいくことがあります。林さんは愛着という言葉を使われましたが、僕もその言葉を使うことがあります。

──ポストファブは、ユーザーへの編集権の委譲ということにもマッチする概念ですね。日本では、リノベーションはすでに一般化し、マーケットも相当広がっていますし憧れる層も増えてきていますが、そうした人びとの潜在ニーズと情報はたくさんある一方で、それを実現するためのソリューション、手段はまだまだ限られています。あまりコストをかけずに内装を変えようと思ったときに建築家やデザイナーは敷居が高い、かと言ってすべてをDIYでつくるのは大変、そしてユーザーとうまくコミュニケーションができて融通が効く内装業者も少ないというわけです。具体的なイメージを持ちにくいユーザー、コミュニケーション力や提案力のない職人や業者、商品数が過剰なメーカーやプロダクトをつなぐ仕組みがあればいいだろうということでつくったのが「toolbox」です。東京R不動産は「いい空間と出会う仕組み」ですが、toolboxは「いい空間をつくる仕組み」で、より施工や生産、プロダクト側にシフトしています。まさにポストファブ的な意味で、ユーザーへの編集権の委譲を加速させる仕組みです。
僕らの問題意識には、大量生産によるノークレーム、ノーリスクを是としてつくられてきた物や空間への違和感がありました。東京R不動産を通して学んだことのひとつは、最初に「古いものは多少のキズはありますよ」とか「この物件、不便だけどよくないですか?」という具合にユルく構えていれば、お客さんは細かいクレームを出してこないということです。楽しさとリスクヘッジが両立していくのです。素材やパーツにしても、大手がつくる物とは違う質感や多様性がほしいし、それらへのアクセスも必要です。toolboxでは、少量生産のオリジナルのプロダクトやセレクトしたプロダクト、そして、部分的な内装工事のサービスも売っています。職人へのアクセスや、アイデアや知恵、事例もこれから増えていきます。例えば「可動収納棚」という商品は、自在に高さを変えられる棚を壁一面につくる工事サービスです。デザインコードがあるので、圧倒的にコミュニケーションコストを下げられますし、職人も気持ち良く仕事ができて、ユーザーも既成品の棚とは違ったオリジナルのものが手に入ります。
現在、toolboxのPVは月70万、注文件数は月1,000件強です。事業として実際に始めてみて見えてきたこともあります。やはり汎用品はコスト競争が激しいので難しいということ、鋳物は調達や手間の問題があること、部分改装だけのニーズはまだまだ多くないということなどです。先々は、デジタル技術も活用していきます。空間イメージやコストのシミュレーションができるユーザー向けのアプリケーションもつくろうと思っています。
いまの売上としては、エンドユーザーによるDIYはじつは1割ほどで、工務店向けのマンションの大規模リノベーションなどの際に発生する「施主指定」や「設計者指定」のものが5割くらいです。現場を知るわれわれがセレクトしたリノベーションの定番的なプロダクトがいっぺんに探せるため、そうした商品の売上は大きく伸びています。日本では「インテリア」と言えば家具か雑貨のことになってしまいますが、そうではない「内装」という領域へのリテラシーがいま上がりつつあるのです。建築と家具のあいだ、オーダーメイドとレディメイドのあいだ、デザイナーと職人のあいだ、といった隙間のレイヤーにこれからの可能性を感じています。そこでのプロセスを楽しみ、自ら考える、自ら関わることによる「愛着価値」が重要です。グレードと愛着は比例しません。toolboxは、ユーザーが愛着を持って空間を編集していくための道具箱であり、市場であり、プラットフォームを目指しています。

吉村──あまり大きな声で言えませんが(笑)、僕は結構toolboxのプロダクトを使っています。すべてのプロダクトを自らデザインする余裕はありませんが、でもほかのデザイナーが頑張ってデザインしたものは、正直使いづらいです。toolboxの肩の力の抜け方は、逆説的にプロも使いやすいと言えるかもしれませんね。
最初から質のバラつきやゆるさを理解してもらうことがリスクヘッジにつながるというのはすごく大きな学びです。いまは安全、いや安心までが問われ、その性能の担保をあらかじめ書類によって説明することが求められます。実際、設計以外の作業量がすごく増えてしまっています。これまで大企業が積み上げてきた安全・安心が、小さなプロジェクトにも同様に求められるようになり、結局それが社会全体の窮屈さを生み出しているのかもしれません。

──制度としてもコンプライアンスの要求が加速していて、お客さんにもその傾向があります。しかし、自由度を上げたり、人間性を担保するという意味では、ユルさを許容しないといけません。東京R不動産ではライターや写真家の専門家を雇わずに、物件を探してつなぐ仕事をする「営業」のメンバーがコラムを書いたり写真を撮ったりするので、ある意味でコスト削減になっています。結果的に、広告的な情報よりもユーザー目線に近いので、共感も得られるわけです。これもある種の人間的なユルさです。
これから大きな方向として、「建築は合理化され、内装は人間化する」と捉えています。建築のレベルでは、かつてのようなパトロンとしての施主はいなくなり、多くのビルは投資会社などがクライアントになります。経済的にも世の中のニーズとしても、ビルの外形はわかりやすく合理化された、環境的でシンプルなものになっていくでしょう。そうなると人間は反作用として、手の触れるところの質感を重視していくようになります。いまのIT系の若い人たちは、もう高級マンションよりも、意外と古材が好きだったりして、リノベーションを好みます。デジタルでドライなものだけでは満足しないのです。多くの人がいまだにライブへ足を運んでいますから。

吉村──古い日本家屋は材料が使い回せるほどに合理的な生産の原理でできていますが、内部は人間的です。生産の合理性と人間性の接合が必要ですね。

物の更新履歴と​「アドホシズム」

──toolboxを始めた頃に象徴的に感じた事例が、「toolbox コラム」で「変わり続ける家」として紹介しているものです。ボロ屋を自分たちで色々と改装しているのですが、その空間の読み替えになんとも言えない不思議さ、魅力を感じました。母屋のうしろの空き地に廃材でアトリエ小屋をつくっていたり、夫婦で本当に楽しそうにやっています。家のなかに時間の重なりがあり、それに人の心は動かされるということを実感しました。

吉村──スケルトンのなかにゼロから丸ごとインテリアをつくってしまうのとは違い、リノベーションした空間が魅力的なのは、その更新履歴がわかる状態で定着されていることです。リノベーションから学んだ履歴の可読性を、新築でも応用できないかと思って、ポストファブと共に考えているのが「アドホシズム(AD-HOC-ISM)」です。「ad hoc」とは、古いラテン語で、英語で言えば「for this」。「このために特別な」といった意味です。転じて「臨時の」「場当たり的な」といったニュアンスで使われています。チャールズ・ジェンクスとネイサン・シルバーによる『Adhocism: The Case for Improvisation』(Doubleday、1972[増補版=The MIT Press、2013])という本もあります。あらかじめ計画し尽くしてしまうのではなく、その場で即興的に物事を更新していくような考え方にフォーカスした本ですが、現代では、字義通りアドホックに更新されなくとも、ある種の美学のようなものとして建築に忍び寄ってきているのではないかと思います。
建築が成長や変化をしたり、更新されていくという考え方は、いまに始まったことではなく、特に1960年代にメタボリズムグループが「代謝」ということを主張していました。ですが、それとアドホシズムとは似て非なるものです。メタボリズムの代謝は、更新後の完成形まで見えている、想定されているところが弱点だと思います。当初のビジョンを裏切る更新を許容し、当初のルールを、ルールごと更新するのがアドホシズムです。逆に言えば、それができなければ建築の代謝はなかなか起こらないのだと思います。
設計の最中であってもアドホシズムは有効です。《フクマスベース/福増幼稚園新館》では、既成品のテント倉庫の内側に、薄い壁をつくって幼稚園にしています[figs.3,4]。壁を折り曲げてそれぞれの場所をつくるというルール設定をしていますが、既成品の屋根との関係によって高さが変化するので、部分的に強度が足りなくなるところが出てきます。そこで、壁厚を厚くして成立させるのではなく、あえて、その弱い部分に場当たり的に斜めの火打ち材を足して補強しています。つまり、リノベーションや耐震補強のように、あとから別の要素を付け足しているのです。ここでは、自由角度で対応できるジョイントも開発しました。園児たちにとっては何のために付いているかよくわからないものですし、大人なら頭に当たってしまいそうな位置に設置されていたりもしますが、ぶら下がったりする遊びが生まれたり、何かを考えるきっかけになったりと、空間と積極的に関わる拠り所になっています。整然と何事もなかったかのように仕上げることも可能でしたが、設計中のストラグルをあとから確認可能な状態で露呈しておくこと、履歴を遡れる状態で定着させておくことがユーザーにとって重要です。「決定を遅らせる」という意味でポストファブ的でもあります。

fig.3,4──《フクマスベース/福増幼稚園新館》[提供=吉村靖孝]

──物理的な更新をする時には、既存の文脈の引き継ぎや読み替えの創造性があるかどうか、それが可視化されているかどうかが魅力を左右しますね。

吉村──一方で現実的には課題もあります。建築は基本的に工事前の図面によって契約しますから、制度的には変更ができません。かつてクリストファー・アレグザンダーが《盈進学園東野高等学校》の現場でアドホックにつくろうとして、トラブル続きだったようです。それを変えたければ、契約のシステム自体を変えるとか、自分で工務店をやるしかありません。

──そうですね。建設プロセスについては、その契約形態から考え直していくべきです。大規模な建築工事を請け負うゼネコンの場合は難しいと思いますが、内装レベルであれば例えば、HandiHouse Projectという施工チームは、一旦契約をしたあとに、再度お施主さんに下請けとしてDIYの塗装の仕事を発注するというアイデアを実行していたりします。

吉村──プロは契約や責任が発生しますからアドホシズムは難しいのですが、ユーザーのほうが権限を握っていて、リスクも負えますから有利です。

──なぜユーザーがつくると「いい感じ」の空間ができるのかというのは興味深いですね。インターネットによって情報格差がなくなったということも大きく、実際僕らよりも詳しい人たちがいますし、何より自身が自分の生活を楽しむためにつくる結果、個性が魅力として見えてくるということだと思います。

吉村──そういう意味で、岡啓輔さんの《蟻鱒鳶ル》は素晴らしいです。まだ建設中ですが、完成形を描かずに70cmごとにコンクリートを打っていき、それ以前に考えたことが次のコンクリートの打ち方や造形に反映されているというアドホシズムです。建築家の自邸がおもしろいのは、建築家の能力が高いからでも、自由気ままにできるからでもなくて、自分自身が住むところをつくるという一致があるからだと思います。人のために空間をつくることがそもそも根本的に問題なのではないかという気すらしてしまいます。

ファブリケーションの行方

──プレファブに可能性がないわけではありません。大企業による過剰なもの、ブランディングや付加価値を是としたものではなく、要素を削り切って、1,000〜2,000万くらいの格安モデルを突き詰めたメーカーはシェアを広げていくと思います。

吉村──冒頭でも言いましたが、建築生産の合理性を考えたとき、住宅メーカーがどれだけ巨大になろうとも、どれだけ優秀なラインを持とうとも、在来工法には敵わないのではないかと思います。間取りを描けば、プレカットした材料を現場でアッセンブルして建築ができるわけです。高度に工業化されていて、カスタマイズもできる非常に優秀なシステムです。在来工法より合理的なものは簡単には出てこないだろうと僕は思います。究極の在来工法が、結局究極のプレファブになるかもしれません。


──将来、在来工法とデジタルファブリケーションなどの新しい技術が良いかたちでハイブリッドされていくといいですね。プレファブとポストファブもその合理性のあり様、軸が変わり続けるなかで、より高次な組み合わせへ向かっていくと思います。その時に、人間が触れるスケールに関してはいかに愛着が生まれていくかが重要になるという信念を持っています。

吉村──東京R不動産やtoolboxがあり、今後デジタルファブリケーションやそれを支援するWebサービス、AIなどが出てきて、情報の格差はさらに縮小します。ユーザーからすればファブリケーションの全体像を捉えることが容易になると言えますが、一方、設計者は職能自体を更新できなければ生き残りの可能性はありません。
日本には、一級建築士、二級建築士、木造建築士合わせて、図面にサインする権利のある人が110万人もいますが、フランスは約3万人です。日本の大学の建築学科では、エンジニア志望とアーキテクト志望が机を横に並べているという状況も世界的には特異です。一方で、在来工法はそういう状況があるからこそ可能になっていて、いまの日本の建築を支えてきたのは確かです。

──建築学科の人数は、教授たちの都合で保っているようなところもありますね。コロンビア大学では建築を出た人がウェブやゲームの業界にも行きますが、トレーニングの場としての建築教育は意義があると思います。日本では自ら新しい領域を開拓する力が弱いと思います。建築家の生き残りの可能性がないのではなく、建築家が新たな領域を開拓していないだけだと思います。
toolboxはこれまでビジネスの基盤をつくるのに精一杯でしたが、これからやっていきたいことが沢山あります。しかし人材がなかなかいません。建築のリテラシーがあって、同時にユーザー目線を持ちながらマーケティングまで含めて考えられる人が少ないのです。
僕は職人の未来にも可能性を見ています。いま、身の回りでいきいきしているのは、自分でアドホックにデザインしながら空間をつくってしまうような職人たちです。彼らは解決力や知恵を持っていて、かつ個別性も表現できます。工務店とデザイナーを兼ねてしまう彼らは、楽しい空間をどんどんつくっています。さらには自分で物件を買って価値を上げて貸したり売ったりしている。こうした方向も未来のひとつの姿だと思っています。そういえば、ルイス・バラガンは元ディベロッパーでしたね。


吉村──ルイス・バラガンはほかで稼いだお金を自らのフィールドで使っていますね。日本の設計者の多角経営はある種の必然です。そもそも地方の工務店は設計も不動産業も同時にやっていたりしますし、そうやって成立してきた職能ですから、自覚的に組み合わせていけばいいと思います。でも一方で、建築を設計したい人が設計だけで食べられないのはいかがなものかとも思うのです。

──携帯電話で言えば、ガラケーのフォルムをデザインするという仕事は過去のものになり、スマートフォンのインターフェースやアプリケーション、ソフトのデザインへ向かっていくべきです。それを「別の職業だから」と言って避けていたら面白い仕事はできないと思います。好奇心を少し広げさえすれば可能性はもっと広がるはずです。物とシステムを一緒に創造するような仕事のニーズはいま本当に沢山あります。
いまの時代、メーカーはサービス業にシフトしています。例えば、IBMはハードメーカーからシステムインテグレーターとしてのサービス業に変身しています。住宅産業はいまだにメーカーとしての旨味があるとされているようですが、ポストファブのサービスはビジネス的には巨大な海ですし、そこにこそ新しいクリエーションもあるでしょう。建築はポストファブの時間のほうが長いわけですから。ビジネスだけではなく、創造性や文化という意味でも発掘できることは沢山あると思います。
吉村さんは、プレファブとしてコンテナ規格を使ったホテル《ベイサイドマリーナホテル横浜》(2009)などにも取り組まれていました。日本だけに限った話ではなく、例えば商社などと組んで、これから豊かになっていく発展途上国の巨大なマーケットに新しい考え方のプロダクトを提供していくような世界は夢があるように思います。そこでは、ポストファブやソフト面まで含めて、建築のライフタイム的な進化や変化も組み込まれていけば面白いのではないでしょうか。

吉村──日本では意匠の再生産と既得権益の維持に関わる人々も建築家と呼ばれてしまっていますが、システムを構築する職能という意味で、林さんこそアーキテクトですよね。僕自身は、システムへの興味はあるのですが、システムを建築に適用した結果、それを建築にどう定着すべきかという部分の探求が自分自身の役割だと思っています。そして、いま、もっとも重点的に考えられるべき社会システムの変容と建築を掛け合わせたとき、ポストファブやアドホシズムという言葉が浮かび上がるのです。愛着という言葉も、もう少し広い意味で捉え直されて良いように思います。ユーザーが関与し続けられるような場所づくりの重要性は日に日に増しているように思います。建築家は契約上、建築に関わり続けることができる仕組みにいまのところなっていませんが、それでも関与を引き出すことは可能だと思っています。


[2017年4月5日、toolboxショールームにて]

吉村靖孝(よしむら・やすたか)
1972年愛知県生まれ。建築家。1995年早稲田大学理工学部建築学科卒業、1997年同大学院修士課程修了。1999〜2001年文化庁派遣芸術家在外研修員としてMVRDV在籍。2002年早稲田大学大学院博士後期課程満期退学。2005年吉村靖孝建築設計事務所設立。2013年から明治大学特任教授。

林厚見(はやし・あつみ)
1971年東京都生まれ。東京大学大学院、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。マッキンゼー&カンパニー、国内の不動産ディヴェロッパーを経て、2004年より株式会社スピーク共同代表、「東京R不動産」ディレクター。「東京R不動産」「R不動産toolbox」のマネジメントのほか、不動産や地域の開発・再生プロデュースを行なう。


201705

特集 ファブリケーションの前後左右──ネットワーク時代の生産論


「ポストファブリケーション」とそのデザイン
ファブリケーション、それは組み立てて捏造すること
デジタルファブリケーションを有効化するための5カ条
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