佐々木睦朗 構造デザインの射程
──せんだいメディアテークからの20年

伊東豊雄(建築家)+小野田泰明(建築計画者)+小西泰孝(構造家)+佐々木睦朗(構造家)
モデレーター=難波和彦(建築家)

[レクチャー3]小野田泰明
建築計画的観点から見た《せんだいメディアテーク》

fig.14──『プレ・デザインの思想
──建築計画実践の11箇条』
(TOTO出版、2013)

小野田泰明──これまで私は建築計画者として、建築家に雇われてコンサルタントをしたり、共同設計者として建築家と実際の建築デザインに関わってきました。こうした設計の前段を整える仕事のことをプレ・デザインと呼ぶのですが、一般的にはあまり知られていないので最近、『プレ・デザインの思想』(TOTO出版、2013)という本にまとめています[fig.14]。《メディアテーク》のプロジェクトは私がプレ・デザインの仕事に本格的に携わる初めての機会でした。


小野田──1994年6月にこの企画の最初の打ち合わせが大学であり、翌年3月に公開コンペが開催されました。そのあいだに阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きている。まさに激動の時代でした。当時の仙台市ではゼネコンスキャンダルがあり、市への悪評を解消する意図も兼ねてオープンコンペとする旨が決まりました。当初は区民図書館・市民ギャラリー・映像メディアセンター・バリアフリー情報提供施設の4つの施設を合築するという企画でしたが、ある日これらが「アート」と「メディア」の両極的な要素が異なる度合いで配分されたものであることに気がつきました。そこでアートをアーカイブすると情報になり、逆に情報を編集すればアートになるというダイヤグラムを案出したのです[fig.15]。さらに、そのサイクルを加速させるエンジンとしてワークショップという機能とそれを表出するための場として都市広場を組み込んでいます。本日の会場であるオープンスクエアは、それらが具現化されたものです。


fig.15──《メディアテーク》の初期ダイヤグラム

小野田──1995年3月のコンペでは、磯崎さんのほか、月尾嘉男さん、菅野實さん、藤森照信さんに審査を引き受けていただき、市民にもすべての応募案を公開しました。結果はご存知の通り、伊東さんの案が最優秀案となりました。コンペ後には地元新聞にバッシングされたり、お偉方に呼び出されたりしました。けれども竣工後は一転して、各方面から好評価をいただいております。この経験は完成する前に建築の良さを伝えることは容易でないことを教えてくれています。
新しい建築をつくるためにはその使い方を同時に開発することも必要です。阿部仁史さんと立ち上げた「卒業設計日本一決定戦」はそうしたキラーコンテンツの一例です。2007年の日本一決定戦の審査時では、オープンスクエアに多数の学生が詰めかけ、壮観な光景でした。ある公共の事物について人々が語り合う場所は、自然発生的に起こるのではなく、ある特性を有した空間が用意されなければ具現化しない──《メディアテーク》のそのようなあり方は、ユルゲン・ハーバーマスの唱えた公共圏理論にも通じています。公共圏は行政機構や経済市場、プライベートな部分(=親密圏)に圧迫されて小さくなりがちなものですが、それを大きく跳ね返していく場が求められている。《メディアテーク》はまさに公共圏を発生させるプラットフォームだと考えています[fig.16]


fig.16──ハーバーマスの公共圏理論とメディアテーク

小野田──《メディアテーク》の設計が始まって早々に伊東さんが「壁をなくして行為だけで機能を担保できないだろうか」とおっしゃられました。いろいろと苦労を重ねた結果、実際に出来たオープンスクエアや図書館には壁がほとんどありません。しかしこれは建築計画的観点からするとセオリーから逸脱するアイディアなんです。本来は壁があるから行為が安定すると考えられているからです。そこで、壁がない空間でも本当に行為が定着するのかを確かめるため、「人間天気図」プロジェクトという研究を竣工後の《メディアテーク》で実施しました。この図は「従来型の空間」と《メディアテーク》のオープンスクエアにおける人の滞留や速度を確率的にそれぞれ示したものです[figs.17, 18]


fig.17──「従来型の空間」(T大学総合研究棟)の人間天気図
[出典=小野田泰明、西田浩二、小野寺望、氏原茂将「動き分布図を用いた空間特性の把握に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』No.619、2007.9、pp.55-60]

fig.18──《メディアテーク》の人間天気図
[出典=小野田泰明、西田浩二、小野寺望、氏原茂将「動き分布図を用いた空間特性の把握に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』No.619、2007.9、pp.55-60]

小野田──赤い部分は多くの人が速い速度で動いていた箇所で、青い部分が静止に近い動きがみられた箇所です。「従来型の空間」では廊下やホワイエのような空間が赤く、壁で囲まれた部屋のなかは青くなりがちです。目的の場所で目的の作業をしている、つまり空間が完全に機能ごとに割り当てられていることがわかります。これに対して《メディアテーク》のオープンスクエアでは多くのエリアが緑色となり、全体的に移動速度が緩やかで、なおかつ局所的に速度が遅くなる「淀み」が生まれていることがわかりました。この「淀み」が何に起因しているのか。アイマークレコーダを用いて空間内の人の視線の動きを追ってみたところ、特にチューブの縁の部分への注視が頻繁に起こっていたのです。認知の仕方を細かくみると、最初は遠くからチューブを見るときは向こうに透けている空間を見通していました。近づくとチューブを構成するピースに視線が移り、さらに近寄るとエレベータのスイッチなどの操作対象への注視が始まる。こうした人の注視のパターンの相が切り替わる距離に「淀み」が生成していると推察されます[fig.19]。もっと研究を進めていけば「淀み」を形成している原因を突き止められるかもしれない──そう思っていた矢先に東日本大震災が起こり、この研究は途中で止まってしまいました。


fig.19──チューブの認知[出典=佐藤知, 小野田泰明, 坂口大洋, 5438 新しいユニバーサルスペースにおける施設利用者の空間把握特性に関する研究, 日本建築学会大会梗概集, pp.909-910, 201108]

小野田──ここで重要なのは、伊東さんのアイディアと佐々木さんの構造デザイン、そして私たちを含め仙台市が取り組んだマネジメント、それらが密接に連携して初めてこの卓越した空間/環境が成立しているということです。台湾の高雄に行ったときに《メディアテーク》とそっくりな建物を見かけましたが、空間としてはまったくの別物でした[fig.20]。構造家やプログラマーとの丁寧なコラボレートがなければ、形態は模倣できても本質までは真似できないことを示しているひとつの例かもしれません。


fig.20──高雄市中央図書館[以上6点、提供=小野田泰明]

小野田──講演前に難波さんから「今日は佐々木先生を持ち上げる会ではなくて相対化する会にしたい」と言われたので、別の構造家による伊東さんの近作《みんなの森 ぎふメディアコスモス》(2015、以下《メディアコスモス》)について述べておきます[fig.21]。これも壁を使わずに人が動きながら場所を占めていくことを徹底した建築です。構造は金田充弘さんが担当して、「グローブ」と呼ばれる建築と家具の中間体が、人の居場所を見事につくり出しています。やはり良い建築は人の行為を触発するものだなと改めて感心した次第です。


fig.21──《みんなの森 ぎふメディアコスモス》 © 中村絵

[レクチャー4]小西泰孝
佐々木睦朗からの学び

小西泰孝──佐々木事務所OBを代表してお話しさせていただきます。私が1991年に東北工業大学に入学したあと、指導教授の川股重也先生のもとで構造の卒論を書きました。そのときは「はり制振骨組に用いる開口梁に関する実験的研究」というテーマで、地震のときに建物をどのように制御するかということについて研究しました。川股先生はもともと空間構造が専門で《国立代々木競技場(第二)》の構造設計をやっておられた方で、吊屋根構造の当時の昔話を聞きながら構造には「構造エンジニアリング」と「構造デザイン」の2つの側面があることを学んでいきました。阪神淡路大震災(1995年1月)が起こったのは卒論を提出する間際のことでした。ちょうど制振構造を研究していた最中だったこともあり、建築物が倒壊する様子を目の当たりにしてとてもショックを受けました。
メディアテークのコンペが開かれたのも、卒業とほぼ同時期の頃で、最優秀者が決まったのが3月22日でした。建築デザインに寄与しうる構造があるのだということを思い知らされたという点で、これもまた私にとって──震災とは別の意味で──驚くべき事件となりました。その後、東京へ出て日本大学大学院に進学したのですが、幸運なことに4月から佐々木事務所に入所していた大学の先輩にあたる多田脩二さんから、メディアテークのコンペに勝って大忙しということで、アルバイトに来ないかと声をかけていただいたんです。昼間は大学で研究し、夜になると佐々木事務所でアルバイトをするという生活がしばらく続き、卒業後にそのまま佐々木事務所に入ったという流れです。在籍期間(1997〜2002)のうち、最初に担当した作品は《古河総合公園飲食施設》(1998、以下《総合公園》)であり、最後の作品は《金沢21世紀美術館》(2004、以下《21世紀美術館》)でした[fig.22]


fig.22──《金沢21世紀美術館》の構造モデル図
[提供=佐々木睦朗構造計画研究所]

小西──前者は妹島和世建築設計事務所、後者はSANAAの設計で、鉄板を使った薄い屋根構造が特徴の建築です。この2作の完成に挟まれるかたちで《メディアテーク》は竣工したわけですが、ご承知の通りこのスラブも鋼板構造となっています。《総合公園》の鋼板屋根構造は、同時期に取り組まれていた《メディアテーク》でのモックアップなどによる最新技術を踏まえながら設計を進めていきました。小規模ではありますが《総合公園》は、結果的に《メディアテーク》に先立つかたちで、極限に薄いフラットな鋼板架構を実現したプロジェクトとなりました。一方、《メディアテーク》のあとに設計が始まった《21世紀美術館》は、《メディアテーク》での構造設計や現場の知見のすべてを反映した作品だといえます。水平性の高い屋根や床の架構を、分散化された繊細な部材で組み上げていくという点で、《21世紀美術館》の構造もまた《メディアテーク》と共通しています。その意味で、私は幸運にも最初から最後まで《メディアテーク》との強い結びつきをもつプロジェクトに携われたといえます。在籍した当初から佐々木さんに「勤務期間は5年、そこで力をつけろ」と言われていたので、つねに5年後の自分を見据えながら勤めておりました。2002年に事務所を設立したあと、石上純也さんの《神奈川工科大学KAIT工房》(2008、以下《KAIT工房》)の構造を担当しました[fig.23]


fig.23──《神奈川工科大学KAIT工房》の構造の3要素
[提供=小西泰孝建築構造設計]

小西──フラットな屋根架構と細い柱部材を分散する構造は、やはり《メディアテーク》と共通しています。さらに石上さんは伊東さんの事務所にいた妹島さんの弟子であり、私は佐々木さんの弟子であるという意味で、建築家と構造家の協働の系譜に位置づけられるプロジェクトでもありました。お互いに作品数が少なかったものの、すでに師匠同士の仕事を見てきたということもあり、その延長でつくることができました。こうして振り返ると、《メディアテーク》は私にとって構造設計の道に進むことを決意したときから独立後にいたるまで、つねにそばにあり続けた建築だと言えます。


201703

特集 タクティカル・アーバニズム──都市を変えるXSサイズの戦術


『Tactical Urbanism: Short-term Action for Long-term Change』イントロダクション
路上のパラソルからビッグ・ピクチャーへ──タクティカル・アーバニズムによる都市の新たなビジョンとは?
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