〈インフォグラフィックス〉──都市と情報を可視化する

中野豪雄(グラフィックデザイナー/アートディレクター)

インフォグラフィックスの二つの役割

近年インフォグラフィックスは、複雑化していくコミュニケーション活動を背景に、さまざまなシーンで注目を集めているが、その役割は大きく分けて二つの側面があると考えられる。
ひとつは人間のさまざまな活動を支える基盤となるものである。例えば交通案内標識、ピクトグラム、地形・地理を記した地図、時刻表など公共空間で見られるものから、工業製品やウェブサイトのインターフェイスまでと幅広い。これらはいずれも正確な情報表示が求められ、人間活動に支障をきたさないようにナビゲートしていくことを意識した、客観的な操作に基づく汎用性の高い視覚表現が必要となる。
もうひとつは、社会に潜むさまざまな問題点を明らかにし、それによって新たな視点の提示や問題解決への思考を促していく役割である。情報の正確な表示というよりも、作り手の主題に合わせて伝えたい情報を選別し、受け手の能動的な読み解きを求めることに重きを置く。つまり作り手の問題意識を出発点としながらも、受け手の理解に到達するためにさまざまな視覚表現を駆使していくものである。
現在はビッグデータという概念をもとに、人間が知覚できる範疇を超えた膨大な情報が渦巻く時代である。そのような情報環境で生活する一個人にとっては情報を断片的に見るだけではなく、むしろさまざまな情報の連関性を意識しながら思考を深め、情報を読むリテラシーを育みつつも自身にとって有益な情報を選び出していくことが重要になってくる。そのための道標となるのがインフォグラフィックスであり、ある「特殊な見解」を手掛かりに、見る側が自身の問題意識に照らし合わせて社会を見ることができるのである。
本稿では前途の二つの役割のなかでも後者を中心にして建築・都市とインフォグラフィックスとの関わりを考察していきたい。過去にも建築・都市の設計者がインフォグラフィックスを活用する事例は数多く存在するが、紙幅の関係上ここで詳細を述べることは避ける。かわりに筆者のこれまでの取り組みの紹介を通じて、建築や都市を学ぶ本稿の読者がインフォグラフィックスの可能性を読み取ることを目的とする。

リサーチを設計へとつなぐツール

建築は都市や社会の問題をどのように解決できるのか。その答えを導き出すのは容易ではない。そもそも都市や社会の問題とはいかなるものかを理解することができなければ、解決策は生まれようもないからだ。そうしたなかで、建築や都市のデザインに関わる者にはリサーチを踏まえて問題そのものを発見し考察することが求められる。この「問題発見と分析のプロセス」において、インフォグラフィックスはどのような効果をもたらすのだろうか。
2012年に開催された短期集中型ワークショップ「横浜ハーバーシティ・スタディーズ」では、ディレクターを務めた建築学者 門脇耕三と社会学者 南後由和からの呼びかけで、筆者がレクチャラーとして参加することになった。そこでは、横浜湾岸エリアを対象にリサーチを通して都市を読み替え、提案へと繋げていく技術としてインフォグラフィックスを援用していくプロセスが取り込まれており、参加学生たちとさまざまな議論を交わしながら都市に潜む問題を発見していく作業を行なった。

横浜ハーバーシティ・スタディーズ2012:ワークショップの様子

例えば横浜市野毛地区を対象としてリサーチを行なったグループは、フィールドワークを通して「山手/下町」という地形に対応するかのように「住宅地/歓楽街」という区分けがなされていることを確認するが、このゾーニングとは無関係に核家族世帯が分布していることを統計データのマッピングを通じて発見した。このようなずれを「ソシオランドスケープ(社会的地形図)」と命名した数値情報を地形の高低に見立てたインフォグラフィックスで表わし、この地区に内在する問題を視覚表現を通して描いて見せたのである。さらに街灯と空き地・空き家の配置を活用し、縮退する都市の様態を作図を通してポジティブに書き換える提案が導き出されるなど、統計資料とフィールドワークによって得られた情報を掛け合わせ視覚表現を交えて整理することで、既存の都市計画や建物のビルディングタイプと、そこで行なわれるアクティビティとの不適合が次々と発見されていく体験を得ることができた。つまりここでは、リサーチと提案を媒介する装置としてインフォグラフィックスが機能していたのである。

横浜ハーバーシティ・スタディーズ2012:Aチームによる「ソシオランドスケープ」

横浜ハーバーシティ・スタディーズ2012ブックレット
(発行:関東学院大学 編集:門脇耕三、南後由和 デザイン:中野豪雄)

建築的思考の視覚化

建築は広義の意味での「社会」も射程に捉える必要がある。そのなかには多様な文脈が埋め込まれており、その多様さと向き合うという意味では情報の視覚化が担う役割は大きなものと考えられる。筆者がデザインを担当した「建築雑誌」は、建築的思考が本来持ち合わせている社会システム全体を捉える力をインフォグラフィックスを通して示そうとした試みである。
東日本大震災は、近代が作り上げてきた社会システムが時代の変化に伴って限界を迎えていることを可視化した。一極集中型社会、リスクゼロの幻想、近代復興システムの限界などが次々と顔を出し、その複雑な様相をいかに捉え解決への道筋を形成するかが建築界でも強く問われた。
筆者がアートディレクション・デザインを担当した「建築雑誌」は、こうしたさまざまな問題系が顕在化した3.11の翌年の2012年からスタートしている(任期2年と決まっているので、筆者が担当したのは2013年までの2年間である)。
当時の編集委員長・青井哲人との議論のなかで、震災翌年の2年間という歴史的に見ても重要な位置付けとなる24冊の表紙を、インフォグラフィックスでやり通すことを方針とした。これには震災によって立ち現われた社会の複雑なメカニズムを実証的なアプローチでヴィジュアルをつくり上げることで、問題系の複雑さに向き合い、本文で掲載される濃密な議論への参加を読者に促すことが可能だと考えたからである。

建築雑誌2012-2013(発行:日本建築学会)
http://jabs.aij.or.jp/backnumber/2012-2013/

また、インフォグラフィックスを作成する上で最も意識したことは主に二つある。ひとつは異なる情報の連関性を示すこと。もうひとつは情報を読む回路を増やすことである。
特集テーマに合わせて表紙をどのようなデータを用いてつくるかは編集委員との議論のなかで決定されていくが、その際に可能な限り関連する指標を多様化していくことを意識した。情報量の少ないデータを用いて単純化するのではなく、それ自体から多様な読み取りを促し、読者自らのものの見方の発見につながることを意図していたからである。
では具体的にどのようなインフォグラフィックスを作成したのか、24冊のなかからいくつかピックアップして紹介する。


「2012年2月号 特集=津波のサイエンス/エンジニアリング」

東日本大震災の津波の映像は誰もが脳裏に焼きつくショッキングな映像だったはずだ。一方で津波の不定形な運動は国内のみならず太平洋全域でも生じており、津波に対する想像力を広げるという意図で描かれたのがこのインフォグラフィックスである。波の高低差、地理的領域、時間的推移を表す3つの図を重ね合わせており、各地点ごと、または各指標ごとの比較によって津波の運動と地形との相関を読み解いていくものである。

建築雑誌2012年2月号表紙


指標ごとの図。上から「約7時間後の水面の起伏(水位変動±10cm以上の範囲)」「高さ10cm以上の波が到達した地理的領域」「波の到達時間」

「2013年3月号 特集=「近代復興」再考:これからの復興のために」

この図は1847年から2011年までの死者・行方不明者100名以上を記録した大規模災害リストである。縦軸に時間軸を取り、マッピングされている円形の大きさは被害者数を表している。グレーの円は震災による被害者数を、白い円は震災以外の災害による被害者数を表している。ここで見えることは、戦後から阪神淡路大震災までの期間に白い円形が集中していることであり、この期間に現在適用されている復興システムが形成されていることを暗示している。また、震災が多発していた時期から震災間期が訪れ、阪神淡路大震災、東日本大震災と続くバイオリズムも確認することができ、時間軸をロングレンジに捉えることで初めて見えるパターンがあることをこの図は示していると言えるだろう。

建築雑誌2013年3月号表紙

「2012年5月号 特集=建築産業は何を経験するか」

東日本大震災直後に起こった復興特需。この一時的なニーズはやがて落ち込みを見せることが予想されるなかで、建築産業は今後何を経験していくのかを考える特集である。この号の表紙で描いた図は、バブル経済崩壊から震災前夜までの20年間の推移を5つの指標とそのなかに含まれる被災三県・全国の数値から見ていくものである。
この図のなかで注目すべき点はそれぞれのグラフのピークの地点、その周囲のカーヴの形状である。例えば上3つのグラフ「建設投資額」「公共工事請負額」「新設住宅着工戸数」はバブル崩壊直後をピークに多少のアップダウンを繰り返しながらも順次下降している。一方で下2つのグラフ「建設許可業者数」「建設就業者数」はピークがほかとは多少ずれており、最小値もほかと比べて高い。ここからは読み取れることは、建設における投資額や新設住戸等のニーズが下降している状況に対して建設就業者が増えているという、需要と供給のバランスが崩れていることである。このことは、各グラフの最高値と最低値を点線で結んだラインがより鮮明に描き出している。

建築雑誌2012年5月号表紙



インフォグラフィックスの構造
上:「時間軸」「指標の並列」「指標ごとの百分率値」で組み合わせた立体座標となっている
下:最大値と最小値を線で結ぶ。この湾曲したかたちがバランスの崩れを直接的に示している

このようにして、時間や空間を鳥瞰的に拡張することでさまざまな情報のパターンの発見につながることがわかるだろう。また個々の異なる情報の比較を通して、読み取れる情報も多様になり、読者の視点に応じて解釈も増幅することも考えられる。

ひとつの建物にひとつの機能を対応させて、建物自体が固有の自立性を獲得するのが近代的な建築の発想だとしたら、縮退する現代の都市と照らし合わせたときにビルディングタイプや都市のアクティビティを限定するのは無理が生じることは明らかである。前途の横浜ハーバーシティ・スタディーズでの試みが示すとおり、都市や建物の機能を多様化していくことが求められている。
こうした考え方はインフォグラフィックスでも共通しており、情報流通量が激しさを増し、人間の知覚の限界を超えたビッグデータの利活用が注目を浴びている現代において、情報の複数性をどのように理解につなげていくかという問いは、まさにインフォグラフィックスが担うべき役割だと考えられる。
このような観点に立てば、情報を単純化するのではなく、複雑さを保ちつつも、いかに理解へと導くかを考察せねばならない。建築雑誌での実践は、客観的なデータを扱いつつも、人々の多様な思考を促していくための実験でもあった。

生活のありとあらゆるものがインターネットとつながる時代がくることが近年謳われているが、それは見方を変えるとブラックボックス化が加速する大量情報時代の到来とも言えるだろう、一方で複雑さや変化を伴う都市そのものを生活者が認識することは不可能であるが、建築を設計するものにとっては都市や社会を捉えたうえで設計を行なうという困難を乗り越えることが求められると言える。不可視な情報と不可視な都市。こうした見えないもののなかから相関性や連関性を見出し、可視化するのがインフォグラフィックスであり、それは多元的な情報を扱いながら空間として統合する建築的思考と照応関係にあると考えられる。


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ブックガイド

インフォグラフィックスに関連した図書で日本語で読める参考図書は残念ながら限られている。本来であれば過去の文献でも名著と呼ばれるものを推薦したいところだが、ここでは手に入りやすい著作を挙げ、そこで紹介されている図版や文献を手掛かりに関連図書を探っていただきたい。


永原康史『インフォグラフィックスの潮流──情報と図解の近代史』(誠文堂新光社、2016)
インフォグラフィックスの変化要因を探ることを軸にした本書は、主に海外を中心としてインフォグラフィックスの事例紹介のみならず、それが生まれた社会的背景や影響を与えた人物を含めた歴史の考察が綴られている。
このような網羅的な視点に立った文献は少なく、インフォグラフィックスの領域がどのような広がりを見せているのかを把握する上では、非常に有効な入門書と言える。
本書の特徴を挙げるとすれば主に二つある。ひとつは現代のインフォグラフィックスを「可視化」と「物語化」の二つの潮流として分けて語っていること。前者はデータヴィジュアライゼーション、後者はストーリーテリングという言葉で流通しており、その効果や役割が多様になってきていることが明確に整理されている。もうひとつはインフォグラフィックスの潮流の最前線に「デジタルデータとインターネット」「コードがつくる美意識」といった現代の技術環境を含めて語っている点である。大量情報化時代を見据えた視覚化の流れまで射程を広げる視点には、著者が長年にわたってコンピュータとグラフィックデザインの関係を考察してきたことを背景に説得力を感じる。



マニュエル・リマ『ビジュアル・コンプレキシティ──情報パターンのマッピング』(ビー・エヌ・エヌ新社、2012)
マニュエル・リマ『THE BOOK OF TREES──系統樹大全:知の世界を可視化するインフォグラフィックス』(ビー・エヌ・エヌ新社、2015)
人類が生み出してきた情報を体系化する手法を、歴史のパースペテクィブを通して探求する2冊。ツリーモデルからネットワークモデルまで、古来から伝わる分類システムと現代の情報化時代のヴィジュアライゼーションを結ぶ理論を、豊富な図版を交えて読むことができる好著である。また2冊それぞれでツリーモデルとネットワークモデルの表現パターンが分類されて解説されており、それぞれの形式がどのような情報構造をもたらすかを解説している点も特徴である。姉妹図書として2冊合わせて読むことを推薦する。


杉浦康平『時間のヒダ、空間のシワ...[時間地図]の試み 杉浦康平ダイアグラム・コレクション』(鹿島出版会、2014)
戦後日本のグラフィックデザインを牽引してきた一人、杉浦康平のインフォグラフィックス作品集。1970年代から精力的に制作してきた「時間軸変形地図」「犬地図」「味覚地図」など、身体を軸とした独創的な"主題図"は、同時代の統計データを用いて国土計画を進める"統治者の視点"への批判として見ることもできるだろう。





中野豪雄(なかの・たけお)
1977年東京生まれ。グラフィックデザイナー、アートディレクター。株式会社中野デザイン事務所代表。多摩美術大学専任講師、武蔵野美術大学非常勤講師。共著=『図解 建築プレゼンのグラフィックデザイン』。主な仕事=『建築雑誌』(日本建築学会、2012-2013)、『レム・コールハースは何を変えたのか』(鹿島出版会、2014)、『長谷川逸子 Section 1〜3』(鹿島出版会、2015)ほか。主な作品=「Transitional Topics 2011.3.11-2015.3.11」(凸版印刷、2015)ほか。


201605

特集 圏外から学ぶ都市/建築学入門


圏外から再構築される建築
〈インフォグラフィックス〉──都市と情報を可視化する
〈タクティカル・アーバニズム〉──XSからの戦術
〈マテリアル〉──物質的想像力について、あるいはシームレス化する世界の先
〈写真アーカイブズ〉────歴史を振り返り、再発見する手段
〈展示空間〉──チューニング、アーカイブ、レイアウト
〈地図〉──建築から世界地図へ
〈ファッションデザイン〉──システムをデザインすること
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