3.11以後の建築

五十嵐太郎(建築史家、建築評論家)
山崎亮(コミュニティデザイナー)
小野田泰明(建築学者、建築計画者、東北大学大学院教授)
司会:鷲田めるろ(金沢21世紀美術館キュレーター)

二つの建築展の経緯と特徴

五十嵐──金沢21世紀美術館は開館10周年記念とのことで、二つの建築展が同時に開催されています。ちなみに、来年は現代美術の大きな展覧会が企画されているそうです。また、いまは「建築家・ガウディ×漫画家・井上雄彦」という特別展もやっていて(〜11月5日)、建築展が3つというのはすごいタイミングだと思います。この美術館自体も名建築として世界的に知られていますが、今日、館内を見て、これほど人が集まることに改めて感心しました。僕は以前この場所にあった金沢大学附属中学校に3年間通っていました。兼六園の斜向かいに学校があっても一般の人に閉ざされていましたが、開放的な美術館になるとこれほど人が来るのかといつも感じますし、稀有な建築だと思います。
キュレーターの鷲田めるろさんから依頼があり、山崎亮さんと僕がゲスト・キュレーターとして参加することになりました。公式にはそう呼んでいませんが、『ジャパン・アーキテクツ1945-2010』が第一部だとすると、この『3.11以後の建築』は第二部になります。ポンピドゥー・センターのフレデリック・ミゲルー氏による第一部の展覧会は先に開催が決まっていました。すでに展覧会をご覧になった方は感じられたと思いますが、圧倒的な量で戦後の日本の建築を総覧しています。特に図面や模型の元資料をベースにしていて、金沢21世紀美術館ではそうしたミュージアム型の展示は珍しいと思います。戦後日本の建築をこれだけの規模で見せる企画は過去にもあまりありませんでしたし、未来にもそうそうないだろうという意味で画期的です。だいぶ前からミゲルー氏が温めていた企画でしたが、第一部では2010年に切断線が引かれています。一方で、2011年に東日本大震災があり、それに伴う原発の問題も含め、いまだ問題が収束していない状況にあり、建築をめぐってさまざまなことを考え直さなければいけないタイミングです。そういう意味での建築展の企画を立ち上げてほしいという話から始まりました。山崎さんと鷲田さんとの会議のなかでは、建築家の名前を挙げていきながら、グルーピングして、現在の7つ(1.みんなの家、2.災害後に活動する、3.エネルギーを考える、4.使い手とつくる、5.地域資源を見直す、6.住まいをひらく、7.建築家の役割を広げる)のセクションに分けています。基本的に現在進行形でもあるし、動詞を使っています。
あとのディスカッションでも話題になると思いますが、やはり3.11によってオセロのように白黒がひっくり返ったという話ではありませんし、2011年以降のたった3年間のプロジェクトのみを扱っているわけでもありません。これらのテーマは1990年代後半からじわじわと進行していて、3.11によって顕在化したり、より重要視されるようになったという認識です。いまわれわれが社会の変化に対して建築や都市を考える時に、その活動が改めて重要に見えてくる先駆的なプロジェクトや、震災と関係なく、継続していたであろうプロジェクトも含まれています。

五十嵐太郎氏

第一部との関係について、自分なりに特徴を整理してみました。第二部は東日本大震災から始まっていますが、第一部も実は空襲を受けた後の大都市の圧倒的な住宅難というトピックから始まっています。前川國男さんの「プレモス」や増沢洵さんの「最小限住居」などがありますが、第二部の中には仮設住宅やアーキエイド関連の「コアハウス」などのプロジェクトがあって、パラレルに見ることもできます。ただ、第二部の大きな特徴は、結果として出てきた形のおもしろさやテクノロジーではなく、社会との関係において建築がどう成立しているかや、途中経過のプロセスを重視している点です。また、第一部では基本的に既にでき上がっているプロジェクトやある程度評価の定まっているものが多いのに対して、第二部はナマモノです。まだ終わっていないプロジェクトも沢山あり、最終的にどういう評価になるかわからないけれど紹介しようとしています。たとえば、青木淳さんや乾久美子さんたちのプロジェクトはまさにいま進行中で、現地を巻き込む設計のシステムをメインに紹介し、彼らが設計した形すら展示してありません。
一昨日、プレス用の記者会見で、「この展覧会を金沢でやる意味は何ですか」という質問がありました。第一部についても同じ質問を投げかけられていました。改めて数えてみると、第二部は東京のプロジェクトが少ないです。普通に考えると建築展では東京のプロジェクトが多くなるのですが、圧倒的に地方都市のプロジェクトが多いのです。もちろん7つのセクションの最初の二つが直接的に震災を扱っているということもありますし、山崎亮さんは関西、僕は仙台を拠点とし、東京から状況を見ているわけではないということの反映なのかもしれません。地方都市や各地域において建築のあり方を考えるという問題は「地域資源を見直す」というひとつのセクションにもなっています。
ただし、各セクションは完全にわかれているわけではなく、相互につながっていたり、循環できるものもあります。たとえば「エネルギーを考える」ことを突き詰めていくと、「地域資源を見直す」ことになったり、「使い手とつくる」ことを考えなくてはいけなかったりします。7つはきっかけとなる入口を示していますが、個別に深めていくと他のセクションと相互にリンクが見えてくる内容になっています。また、僕と山崎亮さんがそれぞれの選出について詳しくキャプションを書いています。設計する人の顔が見えるように、「この建築家はこういうことをやっている」という説明を丁寧にしています。
展示は、結構大変でしたが、各出展者ごとに効果的な見せ方を検討しました。予算と場所には制限がありましたが、それぞれの建築家の事務所などへ行って、どう見せるのが最適かを話し合って決めています。見せ方の違い自体も態度や考え方を示していて、見どころになっています。第一部は資料展示なので、図面や模型がほとんどですが、第二部では多様な見せ方があり、映像やインスタレーションもあります。ただ、本当にバラバラになってしまわないように、共通のコードとしてデザイナーの方に各部屋の壁を横断する「情報の帯」というものを提案していただきました。壁の展示は、基本的に水平に連続した枠の中にテキスト、写真、映像がはまっています。一方、第一部の展示では、黒、グレー、ノンカラー、白などの色分けによって戦後の変遷をイメージとして取り出されていました。
もうひとつの展示方法の特徴は、スツールや展示台です。トラフ建築設計事務所と被災地のものづくりのための場である「石巻工房」は、共作で「AA スツール」をつくっています。大きさを変えることで椅子にも台にもなるので、床から立ち上がっている展示台はこのトラフと石巻工房によるプロダクトを使っています。また、最後の部屋にはその巨大な「A」によるインスタレーションがあります。トラフは建築出身ですが、建築作品は少なく、むしろプロダクト、空間デザイン、舞台美術などで多様な展開をしています。若くて有能な建築家であっても、どんどん仕事が来るという時代ではなくなっていて、建築的なアイデアを他の領域へも広げています。これは建築家のサバイバルであり、「建築家の役割を広げる」という時代でもあります。
「みんなの家」は第一部と第二部をブリッジしています。陸前高田の「みんなの家」をつくった伊東豊雄さん、乾久美子さん、藤本壮介さん、平田晃久さんは全員それぞれ第一部にも出展されています。直接震災に触れているセクションは、この1と2で、広義に考えると3も入ります。「3.11以後の建築」というタイトルですが、深く関係しているのは前半です。

伊東豊雄+乾久美子+藤本壮介+平田晃久+畠山直哉《陸前高田の「みんなの家」》 Photo: HATAKEYAMA Naoya

はりゅうウッドスタジオ《縦ログ構法パネル》

震災後に展覧会の企画をいくつか手がけました。国際交流基金の『3.11──東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか』は2012年3月から現在も世界各地を巡回している展覧会で、51のプロジェクトを紹介しています。震災後の半年間という段階で得られた情報を網羅的に展示しています。これは巡回させる必要があったので、パネル展示でした。昨年は「あいちトリエンナーレ」という大きな国際展の芸術監督をやりました。美術がメインで建築の展示も入っています。ここでは原発の話がかなり入ってきました。美術を絡めると、むしろ原発に関する問題についての切り込みをしやすいですが、建築がベースだと立ち入り禁止のエリアについては、現場の、リサーチもできないし提案もしにくい。放射線の影響が強い被災地は、空間的に入れるようになっても人が帰って来ないという問題がありますし、時間的にも止まってしまったかのような周囲と違った時間が流れています。そういう意味で美術と建築の違いがあると思います。それから今年は『戦後日本住宅伝説─挑発する家・内省する家』という展覧会の監修もやりました。これは過去の資料展示がメインでしたが、16作品に限定して、それぞれをなるべく空間的に体験してもらうための仕掛けを設けました。今回の展示でも「蟻鱒鳶ル」は、男ひとりで鉄筋コンクリートのビルをつくっている様子を実寸に伸ばした巨大な写真で紹介していますが、空間をイメージできるように工夫しています。今回の展示は、共通のコードを設けながらも、各出展者と議論して多様な展示にしています。

岡啓輔《蟻鱒鳶ル》 Photo: TAKANO Ryudai


201412

特集 金沢21世紀美術館「ジャパン・アーキテクツ」


3.11以後の建築
このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • パブリック・トイレのゆくえ
  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

「記憶の光跡展」関連イベント(港区・9/28、9/29-10/3)

2018年5月に岐阜県養老町で開催され、2日間で1000人を越える来場者を記録した教育委員会主催アー...

建築情報学会キックオフ準備会議第4回(渋谷区・10/5)

「建築情報学」は、旧来の建築学の学問的カテゴリに捉われることなく、建築内外の知見を架橋すること...

Making the City Playable 2018 コンファレンス(千代田区・9/28)

英国のメディアセンター、ウォーターシェッドが2012年に立ち上げた、「遊び」を通して都市と人が出...

LIXIL出版 中途採用のお知らせ

10+1websiteを運営するLIXIL出版では、 建築・デザインに関する書籍の編集スタッフを募...

石川初×大山顕「地上学への誘い」『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い』刊行記念(世田谷区・9/20)

LIXIL出版より発売中の『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い──歩くこと、見つけること、...

NPO建築とアートの道場 2018年秋-1レクチャーシリーズ「建築家の生態を探る」(文京区・9/1-10/13)

gallery IHAの2018年秋-1レクチャーシリーズは、『建築家の生態を探る』と題して、成瀬友...

リノベーション・スタジオ展示会「カプセルタワーのメタボリズム(新陳代謝)2018」(中央区・8/27-9/1)

東京理科大学工学部建築学科4年の設計製図演習「建築・都市設計」では、現代の社会で建築が取り組むべき...

ミサワホームAプロジェクト シンポジウム「時間がよびさます建築」(京都府・9/26)

今回のシンポジウムは、今年度村野藤吾賞を獲得した平田晃久さんと、昨年、青森の八戸美術館と一昨年京都...

地域社会圏」と「現代総有」─個人・社会・空間をつなぐ新しい考え方─(千代田区・9/1)

人口減少と少子高齢化、東京への一極集中に代表される都市部と地方の格差拡大、グローバル化が進む中で...

「建築」への眼差し -現代写真と建築の位相-(品川区・8/4-10/8)

ニセフォール・ニエプスによって撮影された歴史上初の写真が作業場の窓から見える納屋と鳩小屋の映像であ...

UNBUILT: Lost or Suspended(品川区・8/4-10/8)

建築の歴史はある意味で「敗者の歴史」である。計画取り止めやコンペ敗北の時点から"過去"になることで...

川田知志「Open Room」(大阪府・9/2-10/13)

「壁画」を主軸とするインスタレーション制作によって、視覚芸術と都市空間との関わりを提示する美術家・...

WIKITOPIA INTERNATIONAL COMPETITION(公募・-9/24)

Wikitopiaプロジェクトは、先進的な情報通信技術を活用することで、オンライン百科事典Wiki...

秋野不矩美術館開館20周年記念特別展「藤森照信展」(静岡県・8/4-9/17)

秋野不矩美術館開館20周年を記念し、当館を始め多数の建築設計を手掛けている建築家・建築史家、藤森...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る