超「家型」建築──《Tokyo Apartment》

五十嵐太郎(建築批評、東北大学大学院工学研究科教授)
藤本壮介による《Tokyo Apartment》と初めて遭遇したのは、2006年にフランスのオルレアンを訪れ、アーキラボの日本建築展「Faire son nid dans la ville / Nested in the city 都市の中の巣」に出品された木製の模型を見たときである。あっけらかんと、大小の家型がばらばらと積んだ衝撃的な建築。なんじゃこりゃ!と驚いたのをよく覚えている。同展で紹介されたほかの作品と比べても、ずば抜けて目立っていた。一度見たら忘れられない造形だろう。むろん、ヘルツォーク&ド・ムーロンによる家型を積んだ《ヴィトラハウス》のプロジェクトや五十嵐淳による豊田市逢妻交流館のコンペ案などもある。だが、藤本は家型を積んだ集合住宅というベタな直球勝負だ(仮に思いついたとしても、提案しないかもしれない)。家型によって家型を超える建築。すかさず展示会場で、さすがにこれは実現できないのでは?と思ったのも事実である。つい、本気なの?と藤本さんと尋ねたくなるような建築だ。実際、その頃、一緒にアイデア・コンペの審査をしていたとき、彼はあえて笑いのある、馬鹿馬鹿しい案を選んでいたことが印象に残っている。《Tokyo Apartment》は、驚きとともに笑いを誘う希有な建築だ。ゆえに、今回、東京においてこのプロジェクトが本当に完成したことは、それだけですごい事件なのである。


なるほど、アーキラボで展示された初期案と実施案を比べると、敷地が半分近くになり、コンパクトになっている。不動産や資金の問題によるものだが、これに従い、家型の数もおよそ半減した。とはいえ、《Tokyo Apartment》は、家型を単位とするメタボリズム的な建築であり、そもそも増殖も削減も可能なデザインのシステムをもつ。規模は縮小したが、コンセプトを明示するのに充分なユニットの数を確保しているために、家を積むという案の本質、すなわちプロジェクトのアイデンティティはいささかも失われてはいない。想像力をかきたてる、外階段も屋根の上への階段も実現されている。《Tokyo Apartment》をじっと眺めていると、同類のユニットが街に増えていくことを待っているかのようだ。現地にて、施主の上田俊三氏からお話を聞かせていただいたが、とにかくポジティヴで前向きな人物である。彼だからこそ、この類稀なるプロジェクトが実現したのだと多いに納得させられた。

さて、小竹向原の駅を降りて、まわりの住宅地の環境を体験してから、角地に立つ《Tokyo Apartment》に到着すると、また驚かされるのだが、意外なまでに違和感がない。建築部分だけの模型を見たときは、オブジェ的な造形がきわだつが、向かいの木造アパートや公園、あるいは凡庸な屋根をもつ住宅が並ぶ風景に囲まれていると、不思議ななじみ方をしている。それぞれの家型ユニットのサイズが住宅地のヴォリューム感と合っているからだろう。西沢立衛の《森山邸》も水平方向にさまざまな直方体をばらまき、こうした調整を試みていたが、縦に積んでも、なおその効用があるのは、やはり家型ならではのデザインと言える。それにしても、現地で感心したのは、ごちゃごちゃとした東京、とくに電信柱と電線がある風景が似合う建築であること。いわゆる建築家のデザインした現代建築は、こうした要素を嫌う。だが、藤本の《Tokyo Apartment》は、それも笑って許容してしまう、おおらかさがある。

おそらく、構成が厳格で、かちっとしているのではなく、一見ランダムに配置したように感じられるからだろう。これが「東京」的なのだ。室内に入ると、天窓も含めて、各方向にさまざまな小さい開口がもうけられているが、ときとして柱やブレースが割り込んで、眺めを邪魔する。通常の建築家は、大開口から美しい景観を見せることを好むが、藤本の狙いは違う。偶然切り抜かれたような開口において、意図的に介入する手前の柱やブレースが、外の雑多な街並みや、隣の家屋の壁と重なり、まさに東京的ピクチャレスクな風景を出現させる。家型と家型のあいだから、ちらっと外が見えるのも楽しい。《武蔵野美術大学 美術館・図書館》でも、やはり開口からの見えや重なりが、デザイン上の大きなテーマになっている。なお、室内ではガラスで仕切った水まわりも特徴的だ。これは施主の提案であるが、内部においても家型のヴォリュームを崩さないデザインとして機能している。藤本の《House before House》(2008)は、《Tokyo Apartment》から家型を除き、白いキューブを散りばめたような類似した構成だが、宇都宮に位置しており、まわりの風景とはあまり関係性をもたない。いずれの空間もヒトが動物に戻るような高揚感をもたらすが、とくに後者は家型であることによって、屋根の上を登るという精神的な楽しさを与えてくれるだろう。

《House before House》 © Iwan Baan





家型はただのキューブに比べて、妻面と棟をもち、それぞれの単位の向きの違いも強調するだろう。そもそもモダニズムは、伝統的な建築がもつ家型を拒否した。しかし、ポストモダンの建築は、ロバート・ヴェンチューリをはじめとして、家型を再発見する。そしてゼロ年代には、家型の2度目の復権が起きた。ポストモダンの時代は記号や過去としての家型だったが、ゼロ年代はただの形態としてではなく、独自の空間や固有の現象を発生させるために家型を使う。これまでに藤本も幾度か、異なる手法によって用いている。例えば、北海道において、三角屋根と片流れの単位を組み合わせ、豊かなシルエットをつくる《伊達の援護寮》(2003)、屋根の傾斜を段階的に変化させた授産施設(2003)、連続する家型と平面を分節する壁の位置がずれた家族療法棟などだ。そして《Tokyo Apartment》は、家型の並べ方によって距離感を操作し、現代的かつ東京的なコミュニケーションを内包する建築をめざしている。屋根の傾斜や素材に頼ることなく、家型そのものは白く、抽象的だ。にもかかわらず、これは家型の配置と構成のルールによって、周辺の地域性を表現し、さらには「東京」という環境に対する空間的な解釈を提示している。家型は古くて新しい。その可能性を大きく開いた建築である。

《伊達の援護寮》 © Daici Ano




201008

特集 藤本壮介 近作のゆくえ


生命の渦──武蔵野美術大学 美術館・図書館
超「家型」建築──《Tokyo Apartment》
Sou Fujimoto at the 1:1, V&A, London
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