アートによるまちづくり──十和田と横浜の場合

暮沢剛巳(美術批評)

アートの中心をつくる──十和田市:十和田市現代美術館

《十和田市現代美術館》
写真提供:西沢立衛建築設計事務所
青森県十和田市の官庁街通りに十和田市現代美術館がオープンしたのは昨年4月26日のこと。地方都市にはまだ珍しい本格的な現代美術の専門館であったことに加え、気鋭の若手建築家を対象としたコンペの結果選出された斬新なデザインの美術館建築も大きな話題を呼び、開館以来この美術館には多くの観客が押し寄せた。私が同館を訪れたのは6月のことで、さすがに開館当初の熱気は失せていたものの、多くの地元客がリピーターと化した半面、県外客が全体の3〜4割を占めるという関心の高さの一端をうかがい知ることができた。
その後の同館の動静が気になっていたところ、4月になって偶然地元紙の記者から電話インタヴューを受ける機会があった。後日送られてきたその記事(「東奥日報」09年5月1日)によると、同館にはその後も多くの来館者が訪れ、開館1周年を迎えた今年4月末の時点で18万人の動員を記録したという。この数値は当初の予測の4倍に達するそうで、まずは大成功といってよさそうだ。
国内外の21作家がいずれも委託によって制作した現代アート作品や西沢立衛の設計による白い解放的なデザインの美術館建築など、この美術館には多くの見どころがある。だが私は、何よりもこの美術館が十和田の再開発を念頭においていることに強く興味を惹かれたのである。地方の美術館は通常教育委員会の所轄であり、そのため地域の美術振興や地元出身の作家の作品収集を大きな目的としている。ところが、十和田市現代美術館は「官庁街通り全体を美術館と見立てる」野外芸術文化ゾーンの拠点施設として位置付けられており、初期段階から市街地の再開発へと焦点を合わせていた。そのため、高さ4メートルの巨大な女性像や花模様の馬のモニュメント、夜間に美術館を照らし出すライトアップ・プロジェクトなど、作品設置を依頼する作家は地域性を一切考慮せず、もっぱら再開発に適合するかどうかを基準として選択された。批判もあったが、1年間の反響は既に述べた通り。この大胆な方針は、これらの作品が美術館の収蔵品というよりは委託制作の野外彫刻に近い性格を持っていたから、同館が教育施設としてのmuseumではなく、まちづくりと観光に軸足を置いたArt Centerとして位置付けられていたから可能であったことだろう。
当初の予測を大幅に上回る動員に市や館の関係者も気を良くしており、十和田を現代アートの発信拠点にしたいと意気込んでいるという。一方、地元の商店街などからは、美術館に多くの人が押し寄せても、店の売り上げには結びついていないとの不満も聞かれるそうだ。市街地の活性化を掲げたプロジェクトであれば、今後は地域との連携もより一層求められることになるだろう。

アートの拠点を繋げる──横浜市:BankART

一方、美術館を建設した十和田市とはまったく異なるアプローチによって、現代アートによるまちづくりを進めているのが、今年開港150周年を迎える横浜市である。元銀行だった建物を文化施設へと転用するBankARTプロジェクトは2004年3月のスタート以来多くの反響を呼び、さまざまな展開を見せるにいたっているが、そのなかでも今回は昨秋に展開されたBankART Life II(都市に棲む)に焦点を合わせてみよう。
2008年の秋、第3回の横浜トリエンナーレが開催された。「タイムクレヴァス」をテーマに掲げた、それ自体としてはオーソドックスな色合いの国際展であったが、BankARTはそうしたなかにあってそれと同時期に、トリエンナーレとの連動によって、公共建築、歴史的建造物、産業遺構、飲食店、空き地、空き店舗を巻き込んで、街全体に現代アートを展開するプロジェクトを展開した。Life II(都市に棲む)とはそのプロジェクト名であり、横浜トリエンナーレの開催エリアと黄金町バザールの開催エリアの中間帯、すなわち馬車道、伊勢佐木町、桜木町周辺がその展開エリアとして選ばれた。
BankART事務局から出版された公式カタログに詳しいが、BankARTの施設本体を活用して行なわれた「心ある機械たち展」をはじめ、横浜市庁舎を舞台とした3人の作家によるインスタレーション、みなとみらい線馬車道駅を活用した「開港5都市モボ・モガを探せ!」などの作品展示を行ない、また対象地域の商店街にトリエンナーレと黄金町バザールの応援を呼びかけるバナーを設置するなどの活動を精力的に展開した。これらのイヴェントには賛否両論あるだろうが、BankART設立以来のコンセプトでもある「創造界隈プロジェクトのパイオニア的存在としての自覚」が強く意識されていることは確かである。
ちなみに、Life II(都市に棲む)の一環として、みかんぐみによってBankARTの拠点であるNYK倉庫の本格的なリノベーションが行なわれたが、現在開催中の「原口典之──社会と物質」展は、このスペースを利用した初の本格的な個展であると同時に、社会性の高い作品が、総面積3,000平方メートルのこの空間と化学反応を引き起こした好企画である。このようなポテンシャルの高い空間を擁するのはBankARTの強みでもあり、今後も横浜の市街地を活性化する意欲的なアートプロジェクトの展開を期待したいところだ。

左:横浜トリエンナーレ2008
中:BankART Life II(都市に棲む)
右:「原口典之──社会と物質」展

200905

特集 都市計画とアートプロジェクト


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アートによるまちづくり──十和田と横浜の場合
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