グローバリズムのアイコン化に抗して

五十嵐太郎(東北大学准教授・建築史)

ユニット派とは何だったか

みかんぐみ
『団地再生計画』
1970年生まれの建築家を考えるためには、やはりそのひとつ上の世代、すなわちユニット派を位置づけ、比較すべきだろう。アトリエ・ワン、みかんぐみ、クライン・ダイサム・アーキテクツらが紹介された『SD』の巻頭論文において、筆者はこう記した。
「『体制』や『権力』など、反抗すべき明確な相手がいない。......だから、身近な日常からつくりはじめること。ぎこちない日常の裂け目にリアリティを現出させること。出発点はそこにしかなかった。......特徴を一言に集約させることは不可能に近いが、一人の個性を強く主張しないという点は共通している」、と。
アトリエ・ワンは、上の世代の「先生」と呼ばれるスタンドカラーの建築家イメージとはかけ離れたカジュアルないでたちで登場した。通常、日本の都市や住宅地は悪い条件だと思われているが、それをポジティヴに読みかえるのが、彼らのやり方だ。みかんぐみは施主とじっくりと話しあい、できるだけ多くの条件を飽和させて設計を行なう。そして非作家的なデザインを提唱し、話題を呼んだ。また建築を特権化せず、家具やクルマと同じ地平に置いて考える。戦後に量産された団地を当たり前の風景とした世代ゆえに、それを批判するのではなく、残していくためのリノベーションのアイデア集も出版した。

評論家の飯島洋一は、ユニット派の建築家が強い理念をもたず、表現意欲を放棄し、フラットな社会において、小さな差異にたわむれることを批判した。だが、筆者は、これに同意できない。1960年代生まれの建築家は、都市に対して、きわめてポジティヴな態度をもっている。そして小さなことから革新は生まれてきたと考えるからだ。ユニット派は、ポストバブルのネットワーク社会で生き抜くための組織である。 続いて、筆者が「artscape」2007年1月15日号に寄稿した論考を引用しよう。

──伊東豊雄は、中崎隆司の『ゆるやかにつながる社会 建築家31人にみる新しい空間の諸相』(日刊建設通信新聞社、2006年)のオビに「無風ニッポンのサザナミケンチクカ達」というキャッチコピーを寄せている。同書のラインナップでは、藤本、石上、五十嵐、平田らも含む。辛辣とも思える伊東の言葉は、かつて槇文彦が、早川邦彦、相田武文、長谷川逸子、富永譲、石井和紘らを「平和な時代の野武士達」と命名したことを意識したものだろう。戦国時代の後の、主なき武士たち。花の1941年生まれのポストモダンの世代をさしており、当然、伊東も含まれる。・・・野武士たちは出世し、安藤忠雄や伊東は、世界各地にプロジェクトを抱え、大将というべき地位を獲得した。「平和」から「無風」へ。「野武士達」から「サザナミケンチクカ達」へ。ゆえに、さざ波の中から誰が一歩先に出て、大波を起こすことができるのか。その行方を注視したい。

なるほど、グローバリズムにおいて世界の現代建築がわかりやすいダイナミックなアイコン化に向かう状況に比べると、日本の繊細なデザインはサザナミ的ではある。

状況から原理へ

『建築文化』
2003年8月号
『住宅特集』
2007年1月号
ユニット派以降の注目すべき建築家が登場している。 『建築文化』2003年8月号の「U35のポテンシャル」特集や、『住宅特集』2007年1月号の「LIFE──新世代の空間デザイン」特集では、次世代の藤本壮介、乾久美子、吉村靖孝、五十嵐淳、中村拓志、石上純也、平田晃久、永山祐子、長谷川豪らを紹介している。いずれも筆者は寄稿し、以下の特徴を指摘した。ポップなユニット派が減り、クールな感覚の個人の建築家であること。ただし、やはり力強い空間を好まない。新世代では、海外の事務所勤務や、有名建築家との師弟関係が増えていること。そして、より本格的にコンピュータとつきあい、ウェブに積極的に関わっていることだ。また近年の卒業設計イベントやSDレビューでは、文学賞と同様、青田買いというべき若年化の傾向を促進し、1980年代生まれの大西麻貴+百田有希という最若手に対する注目度も一気に高めている。

左:藤本壮介《House N》 撮影:新建築社写真部
右:乾久美子《新八代駅モニュメント》 撮影:阿野太一

新世代の幾つかの傾向を整理しよう。
藤本壮介と石上純也は、新しい原理をつかみだそうとしている。ユニット派が個性を主張しなかったとすれば、彼らは天才肌のキャラクターをもつ。アトリエ・ワンやみかんぐみが都市の観察やフィールドワークをもとに建築を組み立てるのに対し、藤本や石上はそうした敷地や環境などの外在的な条件から説明するよりも、建築の原理そのものを先に伝えようとする。ユニット派の世代については、2001年に『空間から状況へ』という展覧会が開催されたが、今度は「状況から原理へ」である。ねじれたトポロジーの空間を原理的に追求する平田晃久にも、同じような態度が認められるだろう。

1990年代以降、建築界では、ポストモダン的な造形が流行らなくなり、モダニズムへの回帰が起きている。シンプルな形式によって明快でありながら、複雑な空間を形成する手法は、五十嵐淳、長谷川豪、西田司らにも共通している。厳格な機能主義でもなく、フィクションでもなく、ゆるやかな形式主義によって、建築を決定していく。一方、ユニット派では、そうしたコンセプトの明快さを直接には表現しない、わかりにくさもあえて意識していた。みかんぐみの非作家性は手法がブラックボックス化していたが、藤村龍至はすべての設計のプロセスを論理的に可視化することを重視している。彼が『ラウンド・アバウト・ジャーナル』というメディアやイベントを企画しつつ、社会学などの異分野との議論を巻き起こしているのは興味深い。そして批判的工学主義、郊外化や情報化などのキーワードを掲げ、理論的な言説を構築しながら、同世代の結束を強めている。
バブル経済が崩壊した後、日本では公共施設の仕事が減少した。また東京における大型の再開発ではゼネコン、大手の設計組織、海外の有名建築家が独占しており、若手建築家は狭小住宅を手がけている。彼らはインテリアやリノベーションの仕事も積極的に「建築」の文脈から評価できる作品にしようとしたり、アートの世界に越境していくのも、建築だけでは十分に活躍できない、新しい世代をとりまく社会状況の厳しさが影響しているだろう。ただし、世界でも日本が売り上げの大きなシェアを誇るブランドの店舗では、すぐれた建築家に実験的なデザインを実現する場を提供している。そして青木事務所から出てきた乾久美子、永山祐子、丸田絢子、中村竜治、隈事務所出身の中村拓志らも、商業施設を手がけ、現代的な装飾をめぐって興味深いプロジェクトを手がけた。逆に言えば、ストリート感覚の強いアトリエ・ワンやみかんぐみは、こうしたブランドの店舗にあわない。

ところで、昨年、ヴェネチアビエンナーレ国際建築展2008に日本館のコミッショナーとして参加し、フランク・O・ゲーリーやザハ・ハディドなどのアイコン建築に比べて、石上純也の創造する微細なデザインがまったく異なる位相に存在することに改めて気づかされた。それはGAギャラリーの展覧会がアイコン化した、10時30分以降の紅白歌合戦のような大物建築家をそろえるのに対し、『JA』が日本の若手を特集すると、マニエリズムというべき細やかなデザインを追求していることが明白になる。飯島洋一であれば、ユニット派以上に小さな差異のたわむれと批判するだろう。ゆえに、これではまずいと言って、海外のマーケットで理解されやすい建築に向かうべきなのか。それとも、日本的な洗練を積極的に評価すべきなのか。筆者は、アイコン化よりも日本の若手がとりくむデザインの方が、より「建築」的な可能性を秘めていると思う。それはグローバリズムに抗した流れとしても位置づけられるはずだ。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2008日本館
提供:石上純也建築設計事務所(左)、筆者(右)

200903

特集 1970年代生まれの若手建築家


グローバリズムのアイコン化に抗して
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