『EX-CONTAINER』著者解題

吉村靖孝
吉村靖孝『EX-CONTAINER』
吉村靖孝『EX-CONTAINER』
グラフィック社
2008

コンテナが先かグローバル化が先か
ニワトリが先か卵が先かという命題にも似て、一方が他方の原因と特定することはできないにしても、ともかく、輸送用コンテナの規格化と消費社会のグローバル化は連動した。1970年代、それまで各国各社バラバラだったコンテナの規格がISOによって整理統合されたため、以後大型コンテナ船の建造に対し、まとまった規模の資本が投下されるようになった。また同時に、大型船が接岸できるよう港を整備する必要が生じ、港の風景と海上輸送の勢力地図も大きく変わった。そしてなにより、海上輸送にかかるコストが著しく減少し、われわれの消費生活は輸出入に深く依存するようになった。もし今後インターネットの浸透により人の移動を伴う消費活動が減少するような事態になれば、逆にコンテナによる輸送量は増えるはずである。そう考えると、この傷だらけの鉄の塊=コンテナが、2000年代のリアルを支えるハードウェアとして、実に頼もしく見えるから不思議である。使い古された言い回しかもしれないけれど、たかがコンテナ、されどコンテナ、なのである。
一方、拡大に次ぐ拡大は想定外の問題を生み落としつつある。たとえば、輸送コストが極端に下がったおかげで、日本など地価が高い国の陸の上でコンテナを維持管理するより、洋上を往復させていたほうが安価に保管できるといったケースが出はじめている。それはすなわち、不動産ビジネスにとって広大な「地」でしかなかった海洋が「図」として意識される瞬間でもある。また、そこまで下がりきった輸送コストに輪をかけて製造コストが下がったために、中国から積み荷を運んだコンテナを北米から空の状態で送り返すよりも、ふたたび中国で新品コンテナを購入したほうが安いという奇妙な現象も見られるようになった。その結果として彼の地では、行き場を失った中古コンテナが堆く積み上げられているのだという。規格化によって大量輸送を実現したISOコンテナというシステムが、今、自らの膨張によって綻び始めていると言えるだろう。

コンテナを建築に転用する動き
2008年10月に上梓した拙著『EX-CONTAINER』(グラフィック社)は、「コンテナ建築」、つまり海運コンテナを建築的空間へと翻案・転用した建築やアートの作品を世界各地から集めた事例集である。これまで述べたように、コンテナの輸送量が増加し、輸送・製造コストの歪みが社会問題化するにつれ転用の事例も増え、扱い方も多種多様になってきた。そういった情勢が執筆の直接的な動機になったのだが、作品集と見た場合にも、コンテナ規格の硬直性のおかげでかえってそれぞれの作者の個性が鮮明に写し取られ、建築本らしからぬにぎやかな本になった。
しかし、そもそもなぜコンテナが建築に転用されうるのか。その理由としては、何を置いても「寸法上の近似」をあげるべきだろう。コンテナの輸送量を量る基準になるのはTEU★1といって、内寸法で幅2352×長さ5899×高さ2382mmの20ftコンテナである。この中に入ってまっさきに連想したのは、《ラ・トゥーレット修道院》(ル・コルビュジエ、1960)の僧房であった。その寸法は幅1830×長さ5920×高さ2260と本当の極小空間であるが、コンテナに内装を施したした場合には、極めて近いサイズになる。コンテナの規格寸法が決まる際には内外の両面からさまざまな条件がせめぎあって平衡に至ったのであろうが、とりわけ作業する人間の寸法が強く作用したことは想像に難くない。その意味では、偶然の一致ではなく当然の帰結というべきなのかもしれないのだが、いずれにしても、現代社会を隈なく覆う輸送網の要になる寸法が、人が暮らすための最小限の寸法と「ほぼ」一致しているのだ。この幸運な一致が、間断なき転用の種火になっていると見て間違いないだろう。

コンテナ建築の設計者は誰か
しかしそうなると逆に、あらかじめ誰かが素材も寸法も決めてしまった「ほぼ」建築を借用した建築をして個別の建築家の作品と呼べるだろうかという疑問も浮かぶ。これまでこの分野の建築が見過ごされてきた背景には、そういった縄張り意識が立ちはだかっている可能性も大いにある。しかしわれわれの遠い祖先が洞窟や木蔭に最小限の手を加えて住処としたであろうことを考えると、あらかじめ建築的な空間を携えた場所に手を加える行為は、むしろ建築の芽生えの記憶に触るかのような、根源的な行為と言うことすらできるのではなかろうか。「建築とは何か」あるいは「建築家とは何か」。ページを繰っても繰っても現われるコンテナは、執筆時まったく意図しなかった別の問いを僕自身に反芻させるきっかけにもなった。

★1──TEU:Twenty-foot Equivalent Unit

[よしむら やすたか・建築家]
1972年愛知県生。(株)吉村靖孝建築設計事務所代表取締役、関東学院大学・早稲田大学芸術学校非常勤講師。


200812


このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • パブリック・トイレのゆくえ
  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

第5回「吉阪隆正賞」授賞式/記念シンポジウム(千代田区・11/18)

第5回「吉阪隆正賞」を受賞した西沢立衛氏による記念シンポジウムが、11月18日にアテネ・フランセ文...

「構造展─構造家のデザインと思考─」構造家 佐々木睦朗 特別講演会(品川区・10/5)

建築倉庫ミュージアムで開催中の「構造展─構造家のデザインと思考─」(10月14日まで)の関連企画と...

建築レクチュアシリーズ217 槇文彦(大阪・10/4)

大阪を拠点に活動を行う2人の建築家、芦澤竜一氏と平沼孝啓氏が1組のゲスト建築家をお呼びして、年に7...

[磯崎新の謎]展(大分・9/23-11-24)

大分市が誇る建築家・磯崎新(1931~)は建築の枠を超え、思想、美術、デザインなど多岐に渡る分野で...

トークイベント「Snøhetta SMALL TALK」(港区・10/15)

世界的に注目されている北欧ノルウェー発祥の建築デザイン事務所「Snøhetta」は、ノルウェーのオ...

「磯崎新 觀海庵 縁起」(群馬・9/13-10/23)

黒い色調で統一されたシャープなフォルムが特徴的なハラ ミュージアム アーク(1988年設立・200...

シンポジウム「Village in Metropolis-都市内共同体のつくりかた」(港区・10/2)

現代社会において、私たちの多くは都市という不特定多数の人々が混在する空間の中に住んでいます。都市は...

展覧会「日本建築の自画像 探求者たちの もの語り」(香川県・9/21-12/15)

われわれがよく聞く『日本建築』とは、何なのか? そもそも、何が『日本的』なのか? 本展では『日本建...

403architecture [dajiba]が設計している時にどうしてもこだわってしまう「建築」のこと 第3回(彌田徹)(静岡県・10/11)

「建築」とは建物そのものだけを指しているわけではありません。周辺の環境や歴史的な文脈、そして概念的な...

「New Nature/ 御手洗龍展──新しい幾何学でつくられる小さな生態系としての建築」(港区・9/7-10/26)

東京都港区のプリズミックギャラリーで、建築家の御手洗龍による展覧会「New Nature / 御手洗...

ケンチクトークセッション「都市のパブリックをつくるキーワード」第4回 大西麻貴/第5回 猪熊純(港区・8/25,10/26)

illustration: Mariko FUKUOKA 建築家が公共的な建築に取り組むとき、どんな...

東京ビエンナーレ公募プロジェクト"ソーシャルダイブ"(募集・-9/23)

東京ビエンナーレでは、公募プロジェクトである"ソーシャルダイブ"に参加するアーティストを募集します...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る