技術的側面から建築の発展を検証する試み

今村創平
Building: 3000 Years of Design Engineering and Construction

Bill Addis, Building: 3000 Years of Design Engineering and Construction, Phaidon, 2007.

The Strange Death of Architectural Criticism: Martin Pawley Collected Writings

Martin Pawley, The Strange Death of Architectural Criticism: Martin Pawley Collected Writings, Black Dog Pub. Ltd., 2007.

Element

Cecil Balmond, Element, Prestel Pub., 2008.

建築史というジャンルがあるが、その場合、往々にして様式、平たく言えば時代ごとのデザインのトレンドにしたがって、歴史が語られる傾向にあり、それを修正すべきだという議論はこれまでにも何度か繰り返されてきた。つまり、ゴシック様式だとか、草庵風茶室というくくりは、目に見える形によってカテゴライズしているのであって、そうではなくて、背後にある社会システムであるとか、生産の方式から、建築の発展を検証しようということである。
ビル・アディスによる『Building: 3000 Years of Design Engineering and Construction』は、3000年にわたる西洋建築の歴史を、エンジニアリングおよび構法の視点から捉えようという意欲的な本である。600ページ、図版750点という本格的なものであり、図版をひと通り眺めるだけでも、西洋建築史の裏の側面を概観できるという楽しみがある。
人が定住し建造物を作れば、そこにはなんらかの技術があると言っていいわけだが、アディスは、一人で扱える泥、木、小石ではなく、共同で作業を必要とする大きな石といった対象が生まれた時点を、建築テクノロジーの初源とみなしている。この本は、今から3000年前からを扱っているが、そのような定義によれば、それ以前にもエジプトのピラミッドといった巨大建造物はあり、ここではある程度その技術の記録が残っている時期を考察の対象としているのだろう。
建造物のエンジニアリングというと、どうも力学的な側面を思い浮かべがちであるものの、同時にいかに作り上げるのか、特に古代においてはいかに巨石を運ぶのかが、大きな課題であった。西洋建築史は、石の建物の歴史と言われるが、それは石の移動の歴史でもある。古代においては、石を運び、それを吊り上げ、楔で固定する技術が発展した。
ローマの時代となると、よく知られているようにコンクリートが使われることになり、パンテオンやコロッセオの曲面に見られるように、より彫塑的な形態になる。しかし、このあと西洋ではあまりコンクリートをうまく使っていないのはなぜだろうか。
中世は、暗黒の時代と言われ、後世からするとゴシックの教会は洗練を欠いたものとされるが、構造的な側面から見ると、フライングバットレスに代表されるようにきわめて合理的な側面を持つ。後日、ジョン・ラスキンが高く評価したように、こうした合理性が、知的には退廃していたという時期に発展したことは、歴史の面白さといえよう。
ルネサンスは、この本においても重要さと輝きがぬきんでている。なぜならば、よく知られるようにブルネレスキが、フィレンツェ大聖堂のドームの仕事を得ることができたのは、誰にも不可能と思われた巨大建造物の構法を図面によって説明することができたからだ。ルネサンスは、建築家が生まれた時代であり、また同時に建築の図面が生まれた時代でもある。これ以降、建築はその完成の姿を図面で表わすことができるようになり、またそのつくり方を図面によって指示することが可能となる★1。これは革命的なことと言っていいだろう。この本においても、この時期には、多くの建築構法の図面が図版として収録されている。レオナルド・ダ・ヴィンチが多くの機械のドローイングを残していることはよく知られているが、この時代はそうした機械の仕組みを図面化することがトレンドであり、また重要な意味を持っていたといえよう。
さて、この本が西洋建築史3000年を扱っているとすると、その過半がこうした歴史的建築についてと思われるかもしれないが、じつはページの3分の2以上は、近世以降に割かれている。それは、時代が現在に近づくほど、資料が豊富であるし、また具体的な検証ができるためであろう。実際、著者のアディスはロンドン在住の現役のエンジニアであり、近代以降は構造計算などかなり具体的な事柄にまで言及されている。
近世以降、啓蒙的な合理主義は建築の分野にも及び、また数学の発展により構造計算が一般化するようになる。例えば、車の生産と違い、一品生産の建築において、建物が竣工するまではその検証というのは正確にはできない。であるからかつては、経験から構造の可能性を判断していたわけであり、それはドローイングが描かれるようになっても、基本的には同じことであり、新しい試みは常に実験的なことであった。それが、計算により前もって構造の妥当性を検証できるようになったことは、これまた革命的なことであった。できる前に、その建物が成立することを保証できるのである。以降は、その計算の過程の精度を上げていくことにエネルギーが費やされ今日に至る。

今月は、もう一冊分厚い本を取り上げる。『The Strange Death of Architectural Criticism: Martin Pawley Collected Writings』は、イギリスの建築評論家マーティン・ポーリーの、40年にわたる執筆活動の成果のうち、100編のテキスト集めたものだ。マーティン・ポーリーは、音響エンジニアの息子として1938年イギリスに生まれ、オックスフォード、ボザール、AAスクールで建築を学ぶ。AAでの卒業作品『タイム・ハウス』は、1968年に出版されている。彼の対象はきわめて幅広いが、ロンドンにおいてアーキグラムと同世代であるし、また彼の活躍は、イギリスのハイテク建築ともパラレルであった(この本のイントロダクションは、ノーマン・フォスター)。彼はキャリアの早い時期に、バックミンスター・フラーにインタヴューをしており(この本にも収録されている)、彼の著作のひとつがフラーについてであり、それが日本で唯一翻訳されている、ポーリーの本である。であるから、この本には、デザインに関することから、ゲーリーや、ザハのことまで、多岐にわたる彼の関心が読み取れるが、その中心にあったのは技術的なことであったことは間違いないだろう。ちなみに、この評論集のタイトルは、「建築批評の奇妙な死」という、挑発的で、いくぶん物騒なものだが、これは彼が1998年にアーキテクチュアル・ジャーナルに寄稿したエッセイのタイトルである。ここでの彼の主張は、機軸としての建築批評の退潮のみならず、建築家が人の話に耳を傾けなくなったという風潮があるということのようだ。

現在、建築のフィールドで、次の動向が最も注目されている人たちのうちの一人が、構造家のセシル・バルモントであろう。『Element』は、彼の3冊目の本となるが、大きな話題となった前著『Informal』のあと、セシルは疲れを癒すために各地の田舎へと足を運んだ。この本ではそこで見た光景の写真がたくさん収められており──例えば、砂紋、葉脈、炎など──、それに重ねるように彼のスケッチが描かれている。自然から構造のインスピレーションを得るということは、それほど目新しいことではなく、例えばフライ・オットーは『自然な構造体』という本を出しているが、ここでのセシルの試みはそうしたものとは異なる。本のタイトルが、エレメントであるように、自然の様相のなかからある要素やパターンを抽出し、それをある法則へと転換するというものだ。一冊ごとに、明快なキャラクターをもつ彼の著作であるが、ここにまた明確な輪郭を持った美しい本を彼は世に送り出した。

★1──もちろん建造物のはじまりと同時に、それらを絵に描くということが行なわれたことは間違いないだろう。ここで述べているのは、今われわれが常識としているような意味で、図面が一般的に流布した時代が、この時期だということである。ただし、これは建築図面が、この時期以降は多く残されているという事実に基づいて一般的に語られていることであって、今後の研究によっては修正されることはありうる。例えば、このアディスの本の中の収められているドローイングのなかで最古のものは、紀元前1400年にパピルスに描かれた、エジプトの神殿のエレベーションである。

[いまむら そうへい・建築家]


200803

連載 海外出版書評|今村創平

今となっては、建築写真が存在しないということはちょっと想像しにくい西洋建築史における後衛としてのイギリス建築の困難とユニークさ独特の相貌(プロファイル)をもつ建築リーダーとアンソロジー──集められたテキストを通読する楽しみ建築家の人生と心理学膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市技術的側面から建築の発展を検証する試み移動手段と建築空間の融合について空に浮かんだ都市──ヨナ・フリードマンラーニング・フロム・ドバイ硬い地形の上に建物を据えるということ/アダプタブルな建築瑞々しい建築思考モダニズムとブルジョワの夢セオリーがとても魅力的であった季節があって、それらを再読するということレムにとって本とはなにかエピソード──オランダより意欲的な出版社がまたひとつ建築(家)を探して/ルイス・カーン光によって形を与えられた静寂西洋建築史になぜ惹かれるのか世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承祝祭の場における、都市というシリアスな対象日本に対する外部からの視線深遠なる構造素材と装飾があらたに切り開く地平アンチ・ステートメントの時代なのだろうか?このところの建築と言葉の関係はどうなっているのだろうかドイツの感受性、自然から建築へのメタモルフォーシスリテラル、まさにそのままということを巡る問いかけもっと、ずっと、極端にも遠い地平へ強大な建造物や有名な建築家とは、どのように機能するものなのか素顔のアドルフ・ロースを探して住宅をめぐるさまざまな試み手で描くということ──建築家とドローインググローバル・ネットワーク時代の建築教育グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム等身大のリベスキンド建築メディアの再構成曲げられた空間における精神分析変化し続ける浮遊都市の構築のためにカーンの静かなしかし強い言葉世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか建築の枠組みそのものを更新する試みコンピュータは、ついに、文化的段階に到達した住居という悦びアーキラボという実験建築を知的に考えることハード・コアな探求者によるパブリックな場の生成コーリン・ロウはいつも遅れて読まれる繊細さと雄大さの生み出す崇高なるランドスケープ中国の活況を伝える建築雑誌パリで建築図書を買う楽しみじょうずなレムのつかまえ方美術と建築、美術と戦争奔放な形態言語の開発に見る戸惑いと希望建築と幾何学/書物横断シー・ジェイ・リム/批評家再読ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[2]ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[1]追悼セドリック・プライス──聖なる酔っ払いの伝説ハンス・イベリングによるオランダ案内建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら「何よりも書き続けること。考え続けること。」建築を教えながら考えるレムの原点・チュミの原点新しい形を「支える」ための理論シンプル・イングランドヘイダックの思想は深く、静かに、永遠にH&deMを読む住宅の平面は自由か?ディテールについてうまく考えるオランダ人はいつもやりたい放題というわけではないラディカル・カップルズ秋の夜長とモダニズム家具デザインのお薦め本──ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ポールケアホルム知られざるしかし重要な建築家
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