アーキラボ・2006・ジャポン──建築と都市の実験室としての日本

吉良森子

アーキラボ・2006・ジャポン★1のオープニングはとても盛況だった。前回2004年のNAKED CITYのキュレーターだったバート・ローツマ氏も、「1999年以来毎回アーキラボの展覧会のオープニングに来ているけれど、これほどたくさんの人が来たことはない。学生も増えているし、アーキラボの存在が定着してきているようだ」と感慨深げだった。実際展示会場にはなかなか入れず、会場の前庭には暗くなるまで入場を待つ人々であふれていた。オルレアンは、パリからそれほど遠くはないが、ちょっとさびしげでローキーな町だ。そんな町でアーキラボの会場だけが異常な人だかりで盛り上がっていて、エキジビションとともに東京の熱気と密度がやってきたような感じさえした。

展示会場は細長い会場を奥行き方向に対して垂直に細長く区切り、ビジターが「路地」を蛇行していくような構成になっている。つまり「路地」が通り抜け可能な展示ブースとなっていて、両側の壁にはパネルが、その間には模型が展示されている。距離をとって模型を見るような空間のゆとりはなく、むしろ模型に体がぶつかりそうになりながら、鼻を突き合わせて見るといった感じで、大きな模型、質感のある模型からはその作品の通りや周辺へのインパクト、質感あるいはディテールにこめられたメッセージがフィジカルに伝わってきた。ブースを通り抜けて「路地」を折り返すと、まったく異なったマイクロコスモスに取り込まれる。立ち止まるよりは歩き続けたくなるリニアルな空間構成、展示されていた多くの住宅プロジェクト並みにミニマムな展示スペースは、見る者に客観的に分析する隙を与えない。むしろ都市がそうであるように、映像的とも言える、建築の発信する瞬間的で強烈なインプレッションを連結することを意図しているように感じられた。模型にぶつからないように、人にぶつからないようにそろそろと歩いていく密度感は、実際非常に東京的だ。日本の都市建築は物理的な存在というよりは、現象として捉えることが適切ということなのかもしれない。いずれにしても、抽象的で2次元的になりがちな建築の展覧会とは対照的な展覧会だ。

BankART妻有 名ケ山写真館
ブースに至る動線は日本のアノニマスな街路を再現(街路:スチルとムービー。都心部鳥瞰:夜景と昼景)した
撮影=阿野太一、提供=建築都市ワークショップ

会場では多くの人に話しかけられ、いろいろな質問をされた。多くはフランス人建築家、ジャーナリストだったが、それだけ展覧会のインパクトが大きかったということだろう。彼らのたくさんの「なぜ?」を大きく3つに分類すると、「壁が薄く、ガラス面の大きな作品ばかりだが、エネルギーの効率、遮音性などの建築環境のデザイン、サステイナビリティに対してどう対処しているのか?」「建築家の個々の表現を抑制、調整する、都市の調和を形成する枠組みが見えてこないのはなぜか?」「極端な敷地、プログラム、極小な住空間ばかりなのはなぜか?」ということになる。

オープニングの会場風景
オープニング。中庭に集まった建築家、学生。赤いベンチは阿部仁史がワークショップでつくった「TOKO」
提供=建築都市ワークショップ

熱と音の問題に関しては、実際に日本とヨーロッパ両方で設計の仕事をしてみるとその違いに誰もが驚くと思う。ヨーロッパではこの10年間、開口部も含めた外壁、屋根の遮音・断熱性能の規定が非常に厳しくなっていて、結果として開口があまり大きくなく、やたら壁が厚く、建物の内部と外部がなるべく交錯しないのっぺりとしたシンプルな建物を基本としてデザインを考えざるおえない状況にある。だからヨーロッパの建築家はなによりもまず、日本の建築の薄さ、軽さに驚愕、感動し、そして疑問を抱く。実際に現在の状況では日本の建築家が音と熱の問題に対して責任ある決断をしているとは私は思わない。アトリエ・ワンの塚本由晴氏もオープニングの翌日、断熱・遮音の問題を「設計の一環として今後真剣に考えていかざる負えない」と言っていたが、それは避けがたい現実だと思う。しかしその結果、ヨーロッパにおいて日本の建築の特徴として認識されている、「薄い」表現が根本的に変わるとは私は思わない。レンガやコンクリートの壁を二重に重ねてその間に空気層をとることによって適切な遮音・断熱性能を獲得するのはあくまでもヨーロッパの手法であり、組石造を基本とする彼らの建造物に対する技術と感覚の伝統から生まれてきたものだ。今日においても柱梁の構造を基本とする日本の建築の伝統、小さな敷地に効率よく空間を作っていかなければならない現実を考えると、環境性能の高い日本の建築が厚ぼったい表現になっていくとは思えない。「壁」の表現は技術的にも感覚的にも文化に深く根ざしているというのが、ヨーロッパで仕事をしている私自身の実感だ。世界中の建築家・学生が世界中の最新の建築を同時にフォローしている今日においても、特に住宅のような日常性につながる表現において、依然としてヨーロッパと日本の間には、空間の伝統、技術、趣向の根本的な違いがあり、それ故に、相互にいつの時代も何らかのインスピレーションであり続けているのだと思う。

BankART妻有 名ケ山写真館
左=西沢立衛《森山邸》模型
右=ヨコミゾマコト《TEM》《NYH》《GSH》模型
提供=archilab

都市の調和、建築の枠組みを規定するシステムに関する質問は、本展覧会のコンセプトに対する直接的なリアクションと言えるだろう。「アーバンデザインが都市を操作するのではなく、建築という都市のファブリックの単体のユニットによっていかに都市に積極的に与するのか」を個々の建築作品の集積によって示すことが展覧会のコンセプトである。フランスの建築家たちが、都市のシステム、調和はどうなっているんだ、と聞いてくるのは一見展覧会の意図が伝わっていないように見える。しかし、アーバンデザインの事実的不在をスタートポイントとせざる負えない、建築という単体からしかない、公共ではなくコミュニティではなく、個人や企業のクライアントが中心である、という日本ではごく当たり前の住宅建築の状況が、果たしてどういう意味を持つのか、ということはヨーロッパの建築家にとっては実際簡単には理解しにくい。今日まで土地の所有も住宅の供給も公共が主流であり、その結果、都市計画あっての建築という状況のなかでの住宅の建築表現を基本とする彼らにとって、日本の状況がどのような建築を可能にするのか、ということは自分たちの置かれた状況を反転して見ない限りなかなか想像できないだろう。さらにその状況から都市に向き合うことがどういうことなのか、というところまではそう簡単には思い及ばないだろう。しかし、彼らは誰もが今回展示されていた多くの作品の立地、プロジェクトに対するコミットメントの仕方に少なからずショックを受けていた。ヨーロッパで仕事をするものの実感として、ヨーロッパの建築家は与えられたアーバンデザインを建築化することに責任を負わされるのと同時に、その枠組みのなかで表現者として惰性に流されやすい側面がある。それゆえに彼らは本展覧会に展示された作品から自分たちの状況にはない決然とした何かを感じとっている。そして作品の力の背後に日本の都市と建築の関係があることを嗅ぎ取っているのだと思う。

最後の質問は、もしかすると、近年日本から発信される多くの情報に対するヨーロッパの人々の一般的な反応に通ずるところがあるかもしれない。かつては伝統的あるいは保守的な側面から、日本から発信されるニュースや文化が取り上げられることが多かったのが、近年はもっぱら「極端さ」で話題にあがる。極端な少子化、極端な労働状況、引きこもり、パラサイト、オタク文化、スーパーフラットなどなど、日本は現代社会・文化の究極的な様態の実験室として捉えられつつあるのかもしれない。そしてこのような日本から発信される文化に、ヨーロッパの人々は魅了されるのと同時に戸惑いを隠せない。奇形、異常に偏執し、そこに常態の本質を見出そうとする伝統がヨーロッパ文化にはあるが、近代以降のベースはやはりノーマリティ、コミュニティ、ヒューマニティを基本とした共同体の社会・文化にある。日本人にとってはヨーロッパは個人主義で、個人の主張が強いという印象が強く、実際にコミュニケーションのレベルではどのような状況でも個人としての意見と対応が求められる。しかし、彼らのなかでは無意識に文化と共同体意識は強くつながっている。前述した社会における建築の位置づけともかかわってくるが、特に建築は共同体の枠組みにどっぷりと漬かった文化であり、一部のスーパースターの建築家を除いて、常に標準化と特殊化の緊張関係のなかで表現を模索しているヨーロッパの建築家は、本展覧会で展示された極端な富裕層やセレブレティではない「フツウ」の人々の住宅の置かれた状況、表現に敏感に反応していたようだ。果たして、極端な状況が発信されているのは、(建築メディアを含めて)メディアが求めているためなのか、日本では極端な状況こそがクリエイティヴィティが発揮される場であるからなのか、そのことは日ごろ私も不思議に思う。ぜひ何かの機会でそのことを掘り下げてみたいと思っているが、ヨーロッパの人々にとって大いなる刺激になっていることは間違いない。

★1──archilab URL=http://www.archilab.org/

[きら もりこ・建築家http://www.morikokira.nl/


200702


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