世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承

今村創平

David Adjaye Making Public Building

David Adjaye Making Public Building, Ed. Peter Allison, Thames and Hudson, 2006.


Architecture in not made with the brain

Niall Hobhouse, Architecture in not made with the brain, Architectural Association, 2006.


The Charged Void: Architecture

Alison and Peter Smithson, The Charged Void: Architecture, The Monacelli Press, 2002.


The Charged Void: Urbanism

Alison and Peter Smithson, The Charged Void: Urbanism, The Monacelli Press, 2005.

近代建築、現代建築における、イギリスの貢献を否定するものはいないだろう。18世紀にイギリスにて産業革命がおき、鉄とガラスの大量生産のシステムが、19世紀なかばにクリスタル・パレスをはじめとする近代建築の萌芽ともいえるさまざまな建造物を実現したことは、いくつもの近代建築史の冒頭に記されている。そのあと、20世紀前半の白いモダニズムの時期にこそ、大陸の影響を半周遅れで追いかけるような状態にあったものの、20世紀後半には、インディペンデント・グループ、アーキグラム、AAスクール、ハイテク建築などなど、続けざまに時代の潮流を画するムーブメントを生み出してきた。ただ、一方では、イギリス人のエキセントリック好みと、モダニズム以降の革新志向という側面からか、新世代の前の世代からの断絶は、常態化していた。例えば、アーキグラムをはじめとするロンドン・アバンギャルドとされる一連のムーブメントは、それまでの建築やその時代の否定という側面が強かったし、ハイテク建築も突如現われた未来志向との印象を与え、また昨今のジョン・ポーソンや、トニー・フレットンといった世代に見られる、ミニマルでスタイリッシュな空間は、アーキグラムの騒々しさとは対極にあると理解されているだろう。こうした振れ幅は、ひとつの国の文化といってもそこには多様性があるという言い方もできるが、しかし一見関係ないように見えながらも実はその底流で受け継がれているものがあるのである。

例えば、デヴィッド・アジャイは、自分が学生だった80年代をこのように回想している。
──建築家たちは、それぞれ自分の私的な世界にすっかり閉じこもったまま仕事をしていました。そこで私は自然と過去へ目を向け、CIAMにかかわったような建築家の仕事を見直すことで、より積極的なコンテキスト主義を発見して、どのようにものをつくるかということに関する一種の言説に現実の建築を融合させる試みを行っていったのです。今やそれは完全に時代遅れのものになってしまいましたが、当時はそれが現実の建築に取り組む唯一のアプローチだったのです★1

以前、この連載で、アジャイの住宅を集めた作品集を紹介したが★2、『David Adjaye / Making Public Building』は、住宅以外の彼の近作を集めたものとなっている。タイトルにあるPublic Buildingとは、ここでは公共建築という意味ではなく、住宅というプライヴェートなもの以外の建物のことであり、それが集合住宅であっても、商業施設であっても、街中にあって複数の人が利用する施設はパブリックなものだということだ。また、インタビューのなかにもあるように、アジャイがコンテキストを重視する建築家であることもPublic Buildingという言葉にはこめられている。「彼はセンスがいいだけではなく、コンテキストも考えている」という評価もできるが、それ以上にスタイリッシュな造形や豊かな素材といったものが、公的な場におかれることの意味を、積極的に問いかけていることを見逃してはならない。彼の発言によく見られるエモーション(感情)という語は、単にパーソナルなものではなく、街の中に必要なものであって、それを排除した近代主義は、無味乾燥な現在の街並みを作ってきたと批判しているのであろう。
スミッソンズは、アジャイが述べているCIAMの最後を見届け、続くTeam Xのリーダー的な役割を果たしていたが、先に書いたような20世紀後半のイギリスのあらゆるムーブメントのルーツともいえる存在である。スミッソンズも、以前この連載で取り上げているが★3、リバイバルとも言えるムーブメントがあり、いくつかの書籍が発刊されているので、それらをまとめて紹介しよう。

Architecture is not made with the brain / The labour of Alison and Peter Smithson』は、2003年にAAスクールで行なわれたスミッソンズに関するシンポジウムの記録である。スミッソンズへの評価、元スタッフや友人、クライアントの証言などさまざまな視点から、スミッソンズ像が述べられているが、とりわけ、サージソン・アンド・ベイツなどの若手作家がスミッソンズからどのような影響を受け、現在の彼らの設計に反映しているかのくだりが興味深い★4

The Charged Void』は、Architecture とUrbanism の各一冊となる、それぞれ分厚い本であり、スミッソンズの完全作品集となっている。この建築家カップルの半世紀を超える活動の記録は、彼ら自身の手によって1980年代のはじめに着手されたが、Architectureの編が出たのが2001年、Urbanismの編が出たのが2005年と、残念ながら彼ら自身は完成を見届けることはできなかった(アリソンは1993年没。ピーターは2003年没)。建築家のモノグラフは多数あるものの、建築家自身によるものは珍しく、評論、概説等は省かれ、多数のプロジェクトを年代順に、ある時代ごとにグループ分けして記載している。スミッソンズの全貌を知るには、またとない資料である。

スミッソンズに引き継がれたCIAMに代表される近代建築の巨匠達が、わかりやすいマニュフェストをともなっていたのに比べると、とりわけスミッソンズの後期の作業というのは、その特徴がつかみにくい。しかし、丁寧に読み込むと浮び上がってくる建築の質のようなものがそこにはあって、明快なコンセプトといったものに単純化することはできないけれども、そうした設計のコツとして重要なものに、新しい世代も気付いているといえるのではないだろうか★5

★1──ディッド・アジャイ・インタヴュー「素材は読解に似ています」(『ディーテイル・ジャパン』2006年2月号所収)
★2──本連載「住宅をめぐるさまざまな試み http://10plus1.jp/archives/2006/02/10172919.html」参照のこと。
★3──本連載「住宅という悦び http://10plus1.jp/archives/2005/02/10202545.html」参照のこと。
★4──サージソン・アンド・ベイツは「lessons Learnt from Alison and Peter Smithson」というスピーチのなかで、スミッソンズの建築の特徴および彼らへの影響として、次の6つを挙げていることを、参考までに記しておく。
・Strategy and Detail
・Conglomerate Ordering
・Ways
・Janus Face
・Ground Notations
・As Found
★5──筆者は建築家の塚本由晴氏から、スミソンズおよびイギリスの現代建築家の幾人かへの強い共感の念を何度かうかがっている。おそらく、周辺の環境に応答するコンテキスト主義のスタンスと、生活のなかのある具体的な事象から空間へとイメージを膨らませていく手つきに、肯首するものがあるのだろう。個人的な会話の内容を披露するのはよくないかもしれないが、この稿をまとめるにあたって、塚本氏の発言にインスピレーションを受けたことを明記しておいたほうがフェアにも思える。また、イギリスの動向には実感がわかないという読者にも、アトリエ・ワンにも関連があると記すことで関心を持ってもらえるのではと、期待する向きもある。

[いまむら そうへい・建築家]


200702

連載 海外出版書評|今村創平

今となっては、建築写真が存在しないということはちょっと想像しにくい西洋建築史における後衛としてのイギリス建築の困難とユニークさ独特の相貌(プロファイル)をもつ建築リーダーとアンソロジー──集められたテキストを通読する楽しみ建築家の人生と心理学膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市技術的側面から建築の発展を検証する試み移動手段と建築空間の融合について空に浮かんだ都市──ヨナ・フリードマンラーニング・フロム・ドバイ硬い地形の上に建物を据えるということ/アダプタブルな建築瑞々しい建築思考モダニズムとブルジョワの夢セオリーがとても魅力的であった季節があって、それらを再読するということレムにとって本とはなにかエピソード──オランダより意欲的な出版社がまたひとつ建築(家)を探して/ルイス・カーン光によって形を与えられた静寂西洋建築史になぜ惹かれるのか世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承祝祭の場における、都市というシリアスな対象日本に対する外部からの視線深遠なる構造素材と装飾があらたに切り開く地平アンチ・ステートメントの時代なのだろうか?このところの建築と言葉の関係はどうなっているのだろうかドイツの感受性、自然から建築へのメタモルフォーシスリテラル、まさにそのままということを巡る問いかけもっと、ずっと、極端にも遠い地平へ強大な建造物や有名な建築家とは、どのように機能するものなのか素顔のアドルフ・ロースを探して住宅をめぐるさまざまな試み手で描くということ──建築家とドローインググローバル・ネットワーク時代の建築教育グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム等身大のリベスキンド建築メディアの再構成曲げられた空間における精神分析変化し続ける浮遊都市の構築のためにカーンの静かなしかし強い言葉世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか建築の枠組みそのものを更新する試みコンピュータは、ついに、文化的段階に到達した住居という悦びアーキラボという実験建築を知的に考えることハード・コアな探求者によるパブリックな場の生成コーリン・ロウはいつも遅れて読まれる繊細さと雄大さの生み出す崇高なるランドスケープ中国の活況を伝える建築雑誌パリで建築図書を買う楽しみじょうずなレムのつかまえ方美術と建築、美術と戦争奔放な形態言語の開発に見る戸惑いと希望建築と幾何学/書物横断シー・ジェイ・リム/批評家再読ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[2]ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[1]追悼セドリック・プライス──聖なる酔っ払いの伝説ハンス・イベリングによるオランダ案内建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら「何よりも書き続けること。考え続けること。」建築を教えながら考えるレムの原点・チュミの原点新しい形を「支える」ための理論シンプル・イングランドヘイダックの思想は深く、静かに、永遠にH&deMを読む住宅の平面は自由か?ディテールについてうまく考えるオランダ人はいつもやりたい放題というわけではないラディカル・カップルズ秋の夜長とモダニズム家具デザインのお薦め本──ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ポールケアホルム知られざるしかし重要な建築家
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