日本に対する外部からの視線

今村創平
Katsura

Katsura, ed. Virginia Ponciroli, Electa, 2005.

Japan-ness in Architecture

Japan-ness in Architecture, Mit Pr., 2006.

Archilab 2006 Japan

Archilab 2006 Japan, HYX, 2006.

この連載は日本語で書かれていて、日本語を理解する人々向け、すなわちほぼ100%日本人向けに洋書を紹介することを目標としている。一方、洋書には日本について紹介するものが少なからずあり、それらはある一定の質と量とに達していると言える。しかし、基本的にはそうした日本紹介の本を読む機会はほとんどなく、というのも自国のことをわざわざ英語で読むという必要はないし、そもそも日本のことはわれわれにとってすでに自明だという意識がどこかにあるのだと思う。だが、日本を紹介する洋書は、必ずしも基本的な情報を伝えているだけではなく、そのある厚みのなかから和書には見られない充実した分析が含まれていることもままあり、また外からの視点で日本を見るということは、われわれの社会や文化を相対化するという一定の役割を担っていると思われる。そしてまた、とりわけある感覚なり価値観を無意識にも共有するという日本人の特性を、批判的に見るということからも、われわれがいかに記述されているのか確認することは、重要なことだろう★1

日本を代表する建築、桂離宮を多くの写真で紹介する本はこれまでにも多く出版されている。『Katsura imperial villa』はその系譜に連なる一冊といえるが、2つの点できわめて特別なものとなっている。ひとつは、磯崎新の論考「カツラ──その両義的な空間」★2から始まり、ブルーノ・タウト、ヴァルター・グロピウス、丹下健三、フランチェス・ダル・コーらによる桂離宮に関する論考が集められている。建築家によって、時代によって、桂離宮がどのように読解されていたのかをトレースすることができる。もうひとつは、宮内庁京都事務所が保管している桂離宮の実測図が約200点収められていることだ。これら実測図の制作は1982年から進められたものであり、桂離宮に関する正式な図面が、はじめて公開されたといっていいのだろう★3

Japan-ness in Architecture』は、磯崎新の『建築における「日本的なもの」』の英訳版。日本版のあとがきにあるように、ほぼ同時期に日米で刊行されるよう編まれたものだ。この本には、20年にわたる磯崎の日本建築に関する論考が集められ、伊勢、重源、桂に関する章と、それらを横断するような同書のタイトルにもなっている章とで構成されている。磯崎得意の滔々と注がれる知識と、それらが時として大胆に結び付けられることによるダイナミズム。私も門外漢であるから、想像ではあるが、おそらく生真面目な研究者からすれば乱暴とも言える仮説の立て方が、あるスケールの大きなヴィジョンを生み出し、そうした構想に触れることはとてもスリリングである。歴史という、無味乾燥になりがちな、そしてノスタルジックなフィールドが、一人の建築家によってかくもダイナミックな光景となったことを楽しまない手はない。

この秋、フランスの小都市オルレアンにて'Archilab 2006 Japan'という展覧会が開催された。31人(組)の日本人建築家の最新作を集めた展覧会であるが、1999年の設立以来、世界中の新しい建築潮流を紹介してきたアーキラボとしては、はじめてひとつの国にフォーカスをあてた展覧会でもある。日本の現代建築のグループ展というのは決してめずらしいものではなく、この秋にはハンガリーでも同様な試みの企画が行なわれていた。しかし、そうした展覧会に比べてこの展覧会がある成果を上げているのは、日本の現代建築に精通しているアーキラボのディレクター、マリ=アンジュ・ブレイエの存在と、鈴木明と寺田真理子をゲスト・キュレーターとして迎えていることが大きいと思う。展覧会のタイトルは、'nesting in the city'。都市の中に巣を作る鳥のように、日本の現代住宅は計画されている。そういう主旨のものだ。このような展覧会では、状況の多様性を示す必要もあると同時に、ある切り口から明快な輪郭を与える必要もある。'nesting in the city'というテーマは、数十年前、編集者植田実が『都市住宅』という雑誌にて展開した、都市の困難な状況のなかでポジティブに住宅を作るというモチーフの延長にある。しかし、今活躍している建築家たちは、ただいまのこの状況をそのまま受け入れるだけではなく、それぞれのスタンスを持って自らの建築に形を与えている。そのような段階にあることが、海外にも正確に伝われば、日本の現代建築への理解も深まるのだろう。

★1──例えばフランスの哲学者ロラン・バルトによる『表徴の帝国』(筑摩書房、1996)などは、日本を批評的に記述した好例であろう。
★2──念のために、この論考は、『建築における「日本的なもの」』(新潮社、2003)に所収されているものと同じである。また、上記のタイトルは、日本語版のものであることもお断りしておく。
★3──磯崎新は、この実測図の原本をみたときの印象を以下のように記している。この図面の重要さを確認するためにも、少し長めになるが一部引用しておく。
「いまの建築図面はクズみたいになっちまった、とこの原本をみて思った。ケント紙に墨入れしてある。昔は誰もがやった。烏口ではなくロットリングを使ったかもしれない。かつての版下屋の律儀な正確さだけを重んじた手のようでもある。それでもオートCADからプリントアウトされる今日の図面とは大違いだ。理由の説明ははぶいてしまうけれどこの原本にはまだアウラが残っている。図面そのものが芸術作品だといってもいい。20年前はそれが常道だった。」
磯崎新「桃山のオモテとウラ」(『en−taxi』NO.5(扶桑社、2004)所収。
★4──アーキラボに関しては、この連載「アーキラボという実験」参照のこと。また、『10+1』NO.38にて、筆者はマリ=アンジュ・ブレイエにロング・インタビューを行なっており、アーキラボについて詳細に説明されている。またついでながら、同展カタログ『Archilab 2006 Japan』は私も'When the space outside traverses the dwelling (邦訳:建物の内部を通り抜ける外部)'を寄稿している。

[いまむら そうへい・建築家]


200612

連載 海外出版書評|今村創平

今となっては、建築写真が存在しないということはちょっと想像しにくい西洋建築史における後衛としてのイギリス建築の困難とユニークさ独特の相貌(プロファイル)をもつ建築リーダーとアンソロジー──集められたテキストを通読する楽しみ建築家の人生と心理学膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市技術的側面から建築の発展を検証する試み移動手段と建築空間の融合について空に浮かんだ都市──ヨナ・フリードマンラーニング・フロム・ドバイ硬い地形の上に建物を据えるということ/アダプタブルな建築瑞々しい建築思考モダニズムとブルジョワの夢セオリーがとても魅力的であった季節があって、それらを再読するということレムにとって本とはなにかエピソード──オランダより意欲的な出版社がまたひとつ建築(家)を探して/ルイス・カーン光によって形を与えられた静寂西洋建築史になぜ惹かれるのか世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承祝祭の場における、都市というシリアスな対象日本に対する外部からの視線深遠なる構造素材と装飾があらたに切り開く地平アンチ・ステートメントの時代なのだろうか?このところの建築と言葉の関係はどうなっているのだろうかドイツの感受性、自然から建築へのメタモルフォーシスリテラル、まさにそのままということを巡る問いかけもっと、ずっと、極端にも遠い地平へ強大な建造物や有名な建築家とは、どのように機能するものなのか素顔のアドルフ・ロースを探して住宅をめぐるさまざまな試み手で描くということ──建築家とドローインググローバル・ネットワーク時代の建築教育グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム等身大のリベスキンド建築メディアの再構成曲げられた空間における精神分析変化し続ける浮遊都市の構築のためにカーンの静かなしかし強い言葉世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか建築の枠組みそのものを更新する試みコンピュータは、ついに、文化的段階に到達した住居という悦びアーキラボという実験建築を知的に考えることハード・コアな探求者によるパブリックな場の生成コーリン・ロウはいつも遅れて読まれる繊細さと雄大さの生み出す崇高なるランドスケープ中国の活況を伝える建築雑誌パリで建築図書を買う楽しみじょうずなレムのつかまえ方美術と建築、美術と戦争奔放な形態言語の開発に見る戸惑いと希望建築と幾何学/書物横断シー・ジェイ・リム/批評家再読ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[2]ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[1]追悼セドリック・プライス──聖なる酔っ払いの伝説ハンス・イベリングによるオランダ案内建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら「何よりも書き続けること。考え続けること。」建築を教えながら考えるレムの原点・チュミの原点新しい形を「支える」ための理論シンプル・イングランドヘイダックの思想は深く、静かに、永遠にH&deMを読む住宅の平面は自由か?ディテールについてうまく考えるオランダ人はいつもやりたい放題というわけではないラディカル・カップルズ秋の夜長とモダニズム家具デザインのお薦め本──ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ポールケアホルム知られざるしかし重要な建築家
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