素材と装飾があらたに切り開く地平

今村創平
Smart Materials And New Technologies: For the Architecture and Design Professions

D. Michelle Addington and Daniel L. Schodek, Smart Materials And New Technologies: For the Architecture and Design Professions, Architectural Pr, 2004.

Transmaterial: A Catalog of Materials That Redefine Our Physical Environment

Blaine Erickson Brownell, Transmaterial: A Catalog of Materials That Redefine Our Physical Environment, Princeton Architectural Pr, 2006.

Patterns in Design

Patterns in Design, Ed. Petra Schmidt, Art and Architecture, Birkhauser, 2006.

We Met Morris: Interviews with William Morris

We Met Morris: Interviews with William Morris, 1885-96, Ed. Tony Pinkney, Spire Books, 2005.

──ウィリアム・モリスのした仕事のうち、最も重要なものの一つは、産業革命以後の工業社会における装飾芸術の意味と役割をいちばん深いところからとらえ直したということであろう。それも実践と批評の両面においてである★1

前回ヘルツォーク&ド・ムーロンの本を取り上げたが、彼らの近作の大きな特徴となっている素材と装飾についてはごく簡単に触れるに留まった。彼らのように新しい素材の使い方と新鮮な装飾パターンが融合しているという建築はそうはなく、だからこそ彼らのクリエイティヴィティが際立つわけだが、前回の分を補完する意味でも、今回は素材と装飾に関する本を集めてみた。

Smart Materials and Technologies』は、最新の建築素材の動向を体系的にまとめた好著だ。以降にも述べるが、建築における新素材の役割の重要性は加速度的に高まっている。そうした状況のなかで、昨今の状況を整理して伝えようというこの本は、まさに時宜にかなったものであるといえよう。まとめているのは、ハーヴァード大学で教鞭を執る二人の教授で、学生との協働のリサーチによりこの本はできたようだ。「Smart Material」という言葉は聞きなれないかもしれないが、材料の世界ではすでによく使われている。その語感はうまく翻訳できないのだが、新しく、役に立ち、知的であるといったニュアンスが込められている。一時期、インテリジェント・ビルディングという言い方がはやったが、その分野では今ではスマート・ビルディングと呼んでいるというと、少し感じがつかめるかもしれない。
Transmaterial』は、建築に使われる新素材の見本帳のようなものだ。実際すでに採用されているもの、今後の応用が期待されるものなどが、カタログ形式にまとめられ、写真とともにデータや製作会社の連絡先まで掲載されている。動向を把握できるとともに、実用的ともいえよう。Transmaterialというタイトルどおり、最近の素材はこれまでの素材のカテゴリーを横断するような傾向があるようだ。例えば、光を通すコンクリートなどは、ある意味これまでの常識を覆すものであり、そのように新素材の開発には驚きをともなうことが多いのも、この分野の楽しみだといえよう★2
建築に限らず一般的にいえば、20世紀は素材開発の時代であった。そしてそのムーブメントは21世紀になってさらに加速しているともいえる。よく知られているように、近代建築の成立には、産業革命以降のコンクリート、鉄、ガラスの大量供給があり、それらが近代建築の性格を決定するほどの役割をになった。しかし、一方でこれもよく知られるように、20世紀の建築はこれらの素材に限定される傾向にあり(例えば、日本では建築基準法により構造に用いられる材料は原則、木、鉄、コンクリートに限定されるという状況が最近まで続いていた)、他業界では次々と新しい素材の開発と採用が、市場競争の面からの必須であったのに比べると、建築界における材料のあり方はまことに旧態全とした状態が続いていたということは明らかである(例えば、車やスニーカーなどを見てみれば、ひとつの製品に実にさまざまな最新の材料が採用されていることがわかるだろう)。建築は、長い時間を経ることが必要とされ、安全性からも斬新なことに反応よく振舞うことが難しいことは事実であり、そもそもスローな存在であるのは確かであろうが、それにしても現在のテクノロジーの進化を考えてみれば、デザイナーをはじめとして新しい素材への対応に今まであまりにも怠慢だったといわざるを得ないだろう。
新しい素材の採用には可能性が広がっている。単純に言って10倍の強さの構造材を採用すれば、柱の太さは10分の1になる。そうすれば建築の空間の質というものはこれまでとまったく異なるものとなるだろう。産業革命が近代建築というまったく新しい空間をもたらしたように、昨今の新素材の開発が、これまでにない質をともなった新しい空間を生み出すということは、空想ではなく現実となっている。
そもそも建築には保守的な側面があって、今までに慣れ親しんできた空間において人は落ち着きを得られることも否定できない。また、素材や装飾を変えることは、建築において本質的ではない、往々にして小手先のごまかしだという意見もあるだろう。また、スマート・マテリアルの発展により、その素材を採用することが第一義となってしまい、ヴィジュアルにも機能的にもスマート・マテリアルが支配的になってしまう可能性がある。結果、これまでのような空間を構想するといった建築家の職能は無化されてしまうかもしれない(例えば、少し話は違うかもしれないが、渋谷駅前の広告の洪水を見るにつけ、個々の建築の意匠や機能といったものは、この街のシーンにあってはまったく意味を持たない。将来、住宅の内部のすべての壁が住人とインタラクティブな関係を取り結ぶスクリーンとなった場合、住宅の内部の設計というジャンルは消えることになるだろう)。

さて、装飾のほうの話に移行するとしよう。『Patterns in Design, Art and Architecture』は、近年建築、アート、プロダクトなどなどに施されたグラフィック・パターンを集めたものである。これだけの数が集められると壮観であるが、装飾的なこれらのパターンがきわめて新鮮な印象を与えることを確認するにつけ、この潮流は現在ある厚みを持ったものとしてしばらくは展開されるだろうと思われる。テキストは少ない本なので、それよりもデザイン・ソース・ブックとしても重宝されるであろう。
もちろん装飾というものは太古の昔からあるものであり、写実が発達する前は、装飾は付加的なものというよりはむしろ本質的なものであったともいえる。であるから時代時代に装飾の意味というものはあるわけであるが、近代以降にあって装飾の今日における意味を批評的に考え続けた人物がウィリアム・モリス(1834-96)である。よく知られるようにモダニズムのイデオローグたりえたアドルフ・ロースは、装飾を野蛮なものとして糾弾した。それに先立ってモリスは、近代にあって装飾を社会に不可欠なものとして理論的に位置づけた。そのモリスの新聞等に掲載されたインタヴューを集めたのが、『We Met Morris: Interviews with William Morris, 1885-96』である。モリスというとすでに歴史上の人物の感が強いが、こうしたインタヴューの記録を読むと、彼の肉声がよく伝わってくる。晩年のものを集めたので、社会主義者としても彼の意見が多く、彼にデザイナーとしての側面を期待する人には違和感があるかもしれないが、モリスにとってデザインを社会がいかに強い結びつきを持っていたかを確認するいい機会となるだろう。
新素材や装飾を現代の感性のもとに採用すること。そしてそれがどう空間を変容させ、またひいては今の時代にどのような意味を持つのかを構想すること。そうしたことが、今まさに求められているのではないだろうか★3

★1──「モリスの装飾芸術入門」(『ウィリアム・モリス研究 小野二郎著作集1』[晶文社、1986]所収)
★2──Transmaterialの著者である、ブレイン・ブロウネルは、フルブライト奨学生として現在日本に滞在中。Transmaterialとも重なるかたちで、建築における素材の最前線といった彼の昨今の関心をまとめた記事「Alley24」が、『a+u』2006年5月号に掲載されている。
★3──新素材に関しては、『SD』1999年5月号「特集=挑発するマテリアリティ──素材の進化とデザインの可能性」が、この分野の動向を報告するものとして充実した内容であった。時代を先取りした特集であったが、その後が続かなかったことが悔やまれる。筆者が参加している現代建築思潮研究会でも2004年に、『SD』の特集で編集協力を行なった今井公太郎さんを中心に素材をテーマに取り上げ、その記録が『10+1』No.37に「物質と形式/質料・形相・変容」というタイトルでまとめられている。URL=http://www.inax.co.jp/publish/book/detail/d_125.html

[いまむら そうへい・建築家]


200610

連載 海外出版書評|今村創平

今となっては、建築写真が存在しないということはちょっと想像しにくい西洋建築史における後衛としてのイギリス建築の困難とユニークさ独特の相貌(プロファイル)をもつ建築リーダーとアンソロジー──集められたテキストを通読する楽しみ建築家の人生と心理学膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市技術的側面から建築の発展を検証する試み移動手段と建築空間の融合について空に浮かんだ都市──ヨナ・フリードマンラーニング・フロム・ドバイ硬い地形の上に建物を据えるということ/アダプタブルな建築瑞々しい建築思考モダニズムとブルジョワの夢セオリーがとても魅力的であった季節があって、それらを再読するということレムにとって本とはなにかエピソード──オランダより意欲的な出版社がまたひとつ建築(家)を探して/ルイス・カーン光によって形を与えられた静寂西洋建築史になぜ惹かれるのか世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承祝祭の場における、都市というシリアスな対象日本に対する外部からの視線深遠なる構造素材と装飾があらたに切り開く地平アンチ・ステートメントの時代なのだろうか?このところの建築と言葉の関係はどうなっているのだろうかドイツの感受性、自然から建築へのメタモルフォーシスリテラル、まさにそのままということを巡る問いかけもっと、ずっと、極端にも遠い地平へ強大な建造物や有名な建築家とは、どのように機能するものなのか素顔のアドルフ・ロースを探して住宅をめぐるさまざまな試み手で描くということ──建築家とドローインググローバル・ネットワーク時代の建築教育グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム等身大のリベスキンド建築メディアの再構成曲げられた空間における精神分析変化し続ける浮遊都市の構築のためにカーンの静かなしかし強い言葉世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか建築の枠組みそのものを更新する試みコンピュータは、ついに、文化的段階に到達した住居という悦びアーキラボという実験建築を知的に考えることハード・コアな探求者によるパブリックな場の生成コーリン・ロウはいつも遅れて読まれる繊細さと雄大さの生み出す崇高なるランドスケープ中国の活況を伝える建築雑誌パリで建築図書を買う楽しみじょうずなレムのつかまえ方美術と建築、美術と戦争奔放な形態言語の開発に見る戸惑いと希望建築と幾何学/書物横断シー・ジェイ・リム/批評家再読ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[2]ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[1]追悼セドリック・プライス──聖なる酔っ払いの伝説ハンス・イベリングによるオランダ案内建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら「何よりも書き続けること。考え続けること。」建築を教えながら考えるレムの原点・チュミの原点新しい形を「支える」ための理論シンプル・イングランドヘイダックの思想は深く、静かに、永遠にH&deMを読む住宅の平面は自由か?ディテールについてうまく考えるオランダ人はいつもやりたい放題というわけではないラディカル・カップルズ秋の夜長とモダニズム家具デザインのお薦め本──ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ポールケアホルム知られざるしかし重要な建築家
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