日本住宅への現代からのまなざし(「日本の現代住宅1985-2005」展評)

五十嵐太郎

ギャラリー・間の20周年を記念すべく、「日本の現代住宅1985-2005」が開催されている★1。1985年は筆者が大学に入学した年でもあり、会場を訪れると、建築の勉強を始めてから同時代的に観察した作品が並んでいる。ポストモダンの最中からスーパーフラット以降まで、123の住宅がそろうさまは壮観だ。言い方を変えれば、世界的に活躍する巨匠から若手の建築家まで、全員が同じ住宅というフィールドにおいて等価に比較できる。が、住宅こそは世界的に見ても日本が独自に洗練させた建築のジャンルであり、今回の展覧会では、その豊かなリソースを再確認できる。企画を監修した小嶋一浩によれば、家具から考えることで住空間を再構築した「《シルバーハット》以降の20年」であり、もっとも新しい作品は藤本壮介の《T house》(2005)になっている。

現在に引きよせて住宅群を見る
しかし、各年から均等に選んでいるわけではない。現在に近い90年代後半からの比重が大きいようだ。その結果、筆者にとっても、実際に訪れた経験があるなど、なじみ深い作品が多くなっている。もうひとりの監修者の千葉学が述べているように、「この展覧会は、その住宅群を、今現在の時間に引き寄せて見てみようとするもの」だからであろう。つまり、現在からのまなざしで選んでおり、古びた作品がないことを強調している。同じ枠組においてデザインを洗練させるものよりも、その土台を解体しながら、未来につながる新しい空間の形式を重視しているのだろう。ところで、『住宅特集』も1986年5月に創刊され、ちょうど20周年ということで最新号が記念特集を組んでいる。また1986年には『都市住宅』が休刊になっており、当時は建築系メディアの交代期でもあった。そうした意味において、ギャラリー・間の20周年という偶然も必然のように感じられ、住宅作品の起点が80年代半ばに設定されたことは興味深い。
展覧会では、1/30の断面模型、1/100の外観模型、1/200の敷地模型などによって、住宅を紹介している。映像や図面なども用意されているが、とりわけ目を引くのは、室内に設置された、住宅を二つに切断する58の模型のインスタレーションだろう。言うまでもなく、その利点はひとつの模型で外部と内部を見せられることだが、この20年は派手な形態や緻密な装飾、または場所性や物語性よりも、建築の構成や空間の現象に焦点があてられていたことを考えると、巧みなプレゼンテーションといえる。静かな暴力によって、切断された住宅の群。それは監修者の視点も明快にしている。
逆に言えば、外観模型がなくても、展覧会は成立したように思う。しかし、断面模型だけでは123の住宅をすべて展示するスペースがなく、全部を見せるために必要だったことも理解できる(それにしても、なぜ123なのか?)。通常の模型も置くのであれば、断面模型との違いを明確にするために、壁に埋込まず、仮想の住宅展示場のように、水平に広がるよう配置してもよかったかもしれない(やはりスペースの都合で難しいか?)。ちなみに、そうした効果は、1/800のスケールによる平面図を集積したチラシにおいて楽しむことができる(ただし、集合住宅など、一部の大きな物件は、1/2000)。

メディアとしての展覧会
今回の展覧会には、建築家の横河健から批判が寄せられている。ある編集者を介して入手した彼のテキストによれば、要点は以下の通り。「日本の現代住宅」というタイトルを冠しながら、選び方には大きな偏りがあるのではないか。ゆえに、これは選者としての「○○好み、××好み住宅展」とすべきであること。そうしないと学生に間違った理解を与えるだろう。なるほど、横河が違和感を表明するように、展覧会では、室伏次郎、阿部勤、宮崎浩、渡辺明、椎名英三、芦原太郎、中村好文、竹原義二、木原千利、大野秀敏、野沢正光、藤木隆男、榎本弘之、出江寛らの名前がない(ただし、小嶋・千葉監修によらないカタログでのみ紹介されたケースもある)。一方、「日本の現代住宅 1985-2005」展は一人一作品ではなく、複数の作品が紹介されている建築家もいる。
建築展も作品と同様、ひとつの表現形式であり、膨大な労力が注がれながら、十分なレビューがなされていない状況を考えると、こうした反響は興味深い。ただし、そもそも展覧会とは、教科書ではなく、メディアの一形式である。50年もたてば、ある程度、共通の認識をもちうるが、近い過去の場合、客観的な歴史になりにくく、誰もが納得するセレクションは難しい。個人的には、建築家が監修者なのだから、もっと偏っていても良かったように思う。例えば、村上隆の「スーパーフラット」展や「リトルボーイ」展のように、アーティストの企画展示は、特定の過去や流派にスポットを当てるからだ。そして新しいムーブメントを打ちだす。隈研吾も、カタログに収録された対談において、「もし僕がここで作品を選ぶとしたら、非作品的なものですね」と述べている。ところで、歴史的な視野を強調する展示であれば、あえて古びた作品を入れることで、各時代を感じさせることもありえるが、千葉が明言しているように、今回はそうした立場ではない。
むろん、横河の苦言は、「日本の現代住宅」という中立的なタイトルがついていることにある。小嶋のテキストを読めば、コールハースと妹島和世が示したパラダイムがとくに重視されていることが理解できる。いまどきの学生は、ある程度、メディアへのリテラシーをもっていると信じたいが(例えば、『住宅特集』と『住宅建築』の性格が違うことくらいわかっているだろう)、誤解を招く恐れも完全には否定できない。ただ、これはギャラリー・間という施設だけの問題というよりも、そもそも建築系の展示施設が日本ではまだまだ少ないことが根本にあるのではないか。今回は、国立の展示施設が「日本の現代住宅」展を開催したわけではない。あくまでも、民間のギャラリーにおいて開催されたものだ。したがって、横河が、対抗的な方向性を示す展覧会や書籍を企画すればいいと思うのだが、残念ながらそうしたメディアや場所が決して多くないのも実状である。
もちろん、東京都現代美術館のルイス・バラガン展や水戸芸術館のアーキグラム展、あるいは森美術館のアーキラボ展やKPOキリンプラザ大阪のアトリエ・ワン展のように、美術館においても建築展が開催された。しかし、それらは継続的なものではなく、たまに行なわれる例外的な企画でしかない。ゆえに、今回の展覧会とそれをめぐる反応から改めて考えさせられたのは、バブル経済の崩壊後も一貫して建築の展示場を提供してきたTOTO社の貢献が、きわめて重要なものになっているということだった。

★1──ギャラリー・間 20周年記念展 日本の現代住宅1985-2005。URL=http://www.toto.co.jp/gallerma/ex051201

[いがらし たろう:建築史、東北大学助教授]


200602


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