建築メディアの再構成
A10 No.4 JUL/ AUG 2005, A10
Log 4 Spring 2005, Anyone Corporation
Log 5 Summer 2005, Anyone Corporation
A+U Chinese Edition: Tadao Ando, Japan Architects
wettbewerbe aktuell 2005-8, wettbewerbe aktuel, 2005.
──私がこの雑誌をはじめた個人的動機として、あまりにも多くの雑誌があまりにも少しのことしか紹介していないという苛立ちがあります。同じ名前、同じプロジェクト、明らかにもっと多くのことが起きているにもかかわらず★1。
雑誌というメディアは、時代の潮流をヴィヴィッドに映しだすことを期待されているから、その雑誌そのものも、時代の変化に応じて変わり続けるという宿命を持つ。時としてもどかしいのは、われわれを取り巻く社会などがダイナミックに変貌するなかで、そうした状況をうまくすくい取って情報とし伝えてくれるメディアがあまりないことだ。新しくできた建物の情報ももちろん必要だし、それらの写真を誌面で眺めることを毎月楽しんではいるが、時々いまの状況を理解するのに適当なテキストなどないのだろうかと、膨大に発行されている雑誌の数々をめくり続けても、そうした努力は徒労に終わることが多い。
オランダの建築史家ハンス・イベリングが、今年の一月に新しい建築雑誌"A10"を創刊した★2。サブタイトルに「new European architecture」とあるように、ヨーロッパの新しい建築を隔月で紹介するものだが、世界の建築を扱う雑誌は、これまでにもたくさんあり特に目新しくもないと思われるかもしれない。しかし、"A10"では、ヨーロッパの建築という枠にとても意識的であって、またこの場合のヨーロッパには東欧が含まれることが重要である。イベリングは、現代オランダ建築の紹介者として有名となったが、招待されてヨーロッパ各地で講演をするなかで、世界ではそれほど知られていないものの、各地にとても優れた現代建築が多く存在することに驚いたのだという。そして、特にポーランドやポルトガルの建築は今後見逃せないとしている。この西欧に限らない広いヨーロッパは、すなわちEUの拡大という、かの地の状況と平行していることには注目すべきだろう。これまでの建築雑誌は、イギリスとか、フランスとか、どこかの国の雑誌という位置づけであったが、"A10"はまさにヨーロッパにおける地政の再編成を反映したものなのである。
時代の要請といえば、こちらもかつてこの連載で紹介した"Log"も、9.11以降の建築ディスクールの場として立ち上げられたことを思い出す★3。前回紹介したときには、創刊号の内容だけを紹介したが、現在5号まで出ている同誌のテキストをいくつか紹介することで、この冊子がどのような話題を扱っているかを知っていただこう。
まずは、編集長であるシンシア・デイビッドソンによる、WTCの跡地におけるSOMによる改良案などについての論考(2号)。シンシアは1号でもこのトピックを扱っているので、やはり"Log"では重要な話題なのだろう。また、シンシアは、4号で谷口吉生の新しいMOMAも訪れている。
そのシンシアが、非常に困惑したことを告白しているのは、5号にてゲスト・エディターとしてすべてを任された、R.E.ソモルとサラ・ホワイティングの編集内容についてである。基本的に、シンシアは彼らの方針が、十分に知的な議論の受け皿になっていないとしているのだが、さてこれは今後の"Log"の進む道に影響を与えるのであろうか。そのソモルはゴシップの価値について3号で書き、サラ・ホワイティングは2号にてレムのIITの建物を訪問、4号にて先にパリで大きな話題になったレ・アール跡地のコンペについて報告している。
その他、羅列すると、ジュリー・ローズによるポール・ヴィリリオへのインタヴュー(2号)。カート・フォスターによる、先の建築ビエンナーレ企画意図について(3号)★4。マルコ・デ・ミケーリによる、そのビエンナーレのレヴュー(4号)。パウラ・ヤング・リーによる映画「マトリックス」論(3号)。シルヴィア・レイヴァンによる「最新のニュー・クリティシズムについて」(3号)と「より新しい建築に向けて」(4号)。エマニュエル・プティによる「アイゼンマンのテラーニ論」について(3号)。チャールズ・ジェンクスによる「今日のイコノグラフィーについて」(3号)。パバロ・ラツォによるセシル・バルモンド論(4号)。アレハンドロ・ザエラ・ポロへのインタヴュー(3号)と、ザエラ・ポロによるフォスターの超高層ビルのレヴュー(4号)、サンフォード・クインターによる「オーガニック主義者の告白」、スタン・アレンによる「デジタル・コンプレックス」、そしてジェフリー・キプニスによるソモルらが仕掛けているプロジェクティブ・アーキテクチュアに対する論評(すべて5号)。マーク・リンダーがリテラルをテーマにした彼の新刊に関するエッセイを書き、またブレット・スティールも彼がAAスクールにて学生達との探求をまとめた大企業とのコラボに関する本に関して書いている(こちらもともに5号)。
これらは毎号20本前後あるテキストのごく一部に過ぎないが、この冊子のポテンシャルをうかがい知ることができると思う。
ドイツには、ほかの国にはないユニークで、かつ質の高い建築雑誌がいくつかある。そのうちのひとつは、長らく高い評価を受け、最近日本語版も刊行が開始された『DETAIL』誌である★5。この雑誌は、そもそも非常にドイツ的ないい意味での生真面目な性格を持っていたが、ここしばらくで英語版、スペイン語版、中国語版、日本語版などを出すなど、これもまたメディアとして新しい展開を見せているところが面白い。ついでながら、中国では、世界中のさまざまな建築雑誌の中国版が発行されているが、今年になって世界的にもトップレベルの日本の雑誌『a+u』も中国版の刊行が始まったのは、記憶に新しい★6。
また、こちらは完全にドイツ語のみで、筆者も中身が読めないままに紹介してしまうのだが、そうした言葉の問題が気にならないくらいに魅力的なのがコンペ雑誌"wettbewerbe aktuell"★7。月刊というペースにもかかわらず、毎号コンペ応募案だけで構成された誌面であり、それらのプレゼンテーションを見るだけでも楽しめるし、参考になるのだが、なによりもこれだけの数のコンペがコンスタントに行なわれているという状況そのものがとても羨ましいものだ。
★1----ハンス・イベリングからの筆者への私信より
★2----ハンス・イベリングについては、この連載の「ハンス・イベリングによるオランダ案内https://www.10plus1.jp/archives/2003/10/01162723.html」を参照のこと。また、イベリングによる最近のオランダ現代建築に関する論考としては、「脱コンセプチュアルを志向する21世紀初頭のオランダ建築」(『建築文化』2004年6月号)がある。
『A10』ウェブサイト=http://www.a10magazine.com/。
★3----「建築を知的に考えることhttps://www.10plus1.jp/archives/2004/12/10150037.html」参照。『Log』ウェブサイト=http://www.anycorp.com/l_home/home.html
★4----カート・フォスターと建築ビエンナーレについては、この連載の「世界一の建築イベントは新しい潮流を認知したのかhttps://www.10plus1.jp/archives/2005/05/10153133.html」を参照のこと。
★5----『ディーテイル・ジャパン』ウェブサイト=http://www.detailjapan.com/
★6----『a+u』中国語版ウェブサイト=http://www.japan-architect.co.jp/chinese/index.html
★7----『wettbewerbe aktuell』ウェブサイト=http://www.wettbewerbe-aktuell.de/
[いまむら そうへい・建築家]