世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか

今村創平
9th International Architecture Exhibition METAMORPH: TRAJECTORIES

9th International Architecture Exhibition METAMORPH: TRAJECTORIES,
Marsilio, 2004.

9th International Architecture Exhibition METAMORPH: VECTORS

9th International Architecture Exhibition METAMORPH: VECTORS,
Marsilio, 2004.

9th International Architecture Exhibition METAMORPH: FOCUS

9th International Architecture Exhibition METAMORPH: FOCUS,
Marsilio, 2004.

少し鮮度の落ちた話題と思われるかもしれないが、今回は昨年の夏に開催された、ヴェネツィア・ビエンナーレ第9回建築展のカタログを取り上げようと思う★1
このビエンナーレでは、森川嘉一郎がプロデュースした日本館における「オタク展」が、大きな注目を浴びたことを覚えている方も多いであろう。同様にここ数回のビエンナーレでは、ビエンナーレそのものよりも、コミッショナー磯崎新が仕掛けた日本館での展示のみが、話題に上っていた★2。それも無理ないところがあって、それにはいくつかの理由をあげることができるだろう。ひとつにはビエンナーレとは謳いながらも、2年ごとに開催されるようになったのはここ数回のことであったように、運営体制が貧弱な状態が続いていた。また昨今世界中で開催されている多くの現代美術の国際展同様、世界各地の建築家が参加するというだけでそこに明快なテーマ設定などが設けられてこなかった★3。こうしたことより、かの国で大きな建築展が開催されているということは漏れ伝わってくるものの、それは一種のお祭りに過ぎないのであって、それがどういうものかと話題になることはなかったのである。

さて、昨年の建築ビエンナーレについて復習しておこう。2004年のディレクターは、スイス人の建築研究家カート・W・フォスター。フォスターは、ロサンジェルスのゲティ研究所の所長を経た後、カナダ建築センターの設立に関わり、現在はワイマール・バウハウス校の教授を務める。このようにいくつもの要職をはしごしたフォスターは、建築アカデミーの重鎮ともいえる人物であり、その彼が今回の建築ビエンナーレのディレクターを務めたということは、結構重要な意味を持つ。
そして、テーマは〈metamorph(変容)〉である。ちなみにこのところ、都市のダイナミックな変貌について扱った展覧会が続いている。2001年にTNプローブで行なわれた都市に関する連続シンポジウム「New Urban Condition」は、〈都市の変異〉とのサブタイトルがつけられていたし、それに先立ち世界を巡回し大きな話題となった「Mutations」展は、グローバル化する現代における都市の様相を扱う手つきが、昨今の都市研究のさきがけとなった、画期的なものであった。
だが、今回〈変容〉というテーマの対象とされているのは、単体の建物についてである★4。ここで、カタログの構成を見ておくとボックス入りの3分冊となっており、一番厚いものは〈TRAJECTORIES(軌道)〉と名づけられ世界の最新プロジェクトを集めており、2冊目は〈VECTORS(ベクトル)〉と名づけられ、各国の展示やその他企画展示を紹介している。この2冊は、プロジェクトの選択が恣意的でまとまりがないという難点はあるものの、世界の最新建築プロジェクトを概観するには便利なものである。
〈FOCUS(焦点)〉と名づけられた3冊目は、論考集となっているのだが、これが一番充実していると言えるのではないか。内容を想像していただくため、参考までに、各論考のタイトルと筆者を挙げておこう。

「序:建築、その影と反射」カート・W・フォスター
「変容」マリナ・ワーナー
「アート、建築、科学における構造的直感と変容的思考」マーティン・ケンプ
「パターン認識」マリオ・カプロ
「デジタル建築とコンピューターの詩学」アントイネ・ピコン
「変容する崇高」ハニ・ラシッド
「建築の内外:都市の敷居とデジタル・イマージ」エドワード・ディメンバーグ
「『雲状の半透明性、ヒスイのような』、雰囲気を伴う建築写真」ナニ・バルツァー
「アトモスフィア:物理学を超えた建築と音楽の結びつき」ゲルノ・ボエム
「巨匠の声:ハンス・シャローンとフランク・ゲーリーのコンサートホール建築についてのノート」カート・W・フォスター
「ウオルト・ディズニー・コンサートホールとその可変的主題」ジェレミー・ギルバート=ロルフ
「ピクチャレスク・メタモルフォーシス」イナキ・アバロス
「重圧下の建築:アース・アートの遺産」フィリス・アースプラング
「何か他のものに向けて:廃墟、アート、動物建築から学ぶこと」ジュアン・アントニオ・ラミレッツ
「ミュータティス・ミュータンディス:変容と暗喩:10の精密な対話」ルイス・フェルナンデス=ガリアーノ

このように、単に最近の現代建築の話題を広く扱うのではなく、明快に〈変容〉をテーマとした論考が集められているわけだが、この連載でも繰り返し指摘しているように90年代以降のムーブメントとなっているブロッブ、デジタル・アーキテクチュアを、世界最大の建築のお祭りが、イヴェント全体のテーマとして掲げたことは特筆に価すると思う。それも、建築研究の重鎮ともいえるきわめてシリアスな人物の主導によって。
これは、ブロッブなどの新しい形態の探求が、時代の本流と認知されたことを意味するのだろうか。これまでの、目新しいがローカルな運動という評価が終わり、しかし厳しい批判にもさらされるようになるのか。そうした議論のベースとしても、この分厚いカタログ3冊が、大いに役立つことは間違いないだろう。

★1──言うまでもないが、ヴェネツィアではアートのビエンナーレや映画祭が有名であり、それ以外にもダンス、音楽などのイヴェントを、ヴェネツィア・ビエンナーレ財団が取り仕切っているようである。同財団のウェブサイトはこちらhttp://www.labiennale.org/。architectureのセクションにて、昨年の建築ビエンナーレについて詳細を知ることができる。
★2──1996年の阪神大震災をテーマとした展示(参加建築家:石山修武、宮本佳明、以下同)、2000年の「少女都市」(妹島和世、西沢立衛)、2002年の漢字文化圏における建築言語の生成をテーマとした展示(岸和郎、小嶋一浩、張永和、承孝相)など、日本館の試みはいずれも高い評価を得てきた。特に1996年には、グランプリの金獅子賞を受賞している。
★3──同様に、ここ暫くの建築ビエンナーレのテーマを確認しておこう。〈未来を感知する──地震計としての建築家〉(1996年、ディレクター:ハンス・ホライン)、〈Less Aesthetics More Ethics(少ない美学、多くの倫理)〉(2000年、ディレクター:マッシミアーノ・フクサス)、〈ネクスト〉(2002年、ディレクター:デイアン・スージック)。このように、毎度テーマは掲げられているのだが、ご覧のようにどのようにも受け取られる名称を便宜的に付けているに過ぎなかったと言えよう。
★4──建築ビエンナーレが単体の建物を扱う傾向にあるのは、〈各国展示+α〉というこれまでの歴史のなかで組み立てられてきた同ビエンナーレの構成そのものによる制約があるのだろう。ちなみに、最優秀展示賞を受賞したベルギー館では、アフリカの都市キンシャサを扱った「想像上の都市」という展示を行なったが、これなどは現状の都市を客観的に記述しようというこのところのムーブメントに沿ったものである。またこれもたびたび指摘されていることだが、自国のパヴィリオンを持っていない国は、自国展示を行なうことができないという問題もある。このビエンナーレが当然のごとく西洋文化の色濃い歴史の産物であることの帰結として、中国、インドといった今世紀の中心たる国々の展示を欠くなかで、今後国際展としての成立を図るには、大きな改革が必要となるであろう。

[いまむら そうへい・建築家]


200505

連載 海外出版書評|今村創平

今となっては、建築写真が存在しないということはちょっと想像しにくい西洋建築史における後衛としてのイギリス建築の困難とユニークさ独特の相貌(プロファイル)をもつ建築リーダーとアンソロジー──集められたテキストを通読する楽しみ建築家の人生と心理学膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市技術的側面から建築の発展を検証する試み移動手段と建築空間の融合について空に浮かんだ都市──ヨナ・フリードマンラーニング・フロム・ドバイ硬い地形の上に建物を据えるということ/アダプタブルな建築瑞々しい建築思考モダニズムとブルジョワの夢セオリーがとても魅力的であった季節があって、それらを再読するということレムにとって本とはなにかエピソード──オランダより意欲的な出版社がまたひとつ建築(家)を探して/ルイス・カーン光によって形を与えられた静寂西洋建築史になぜ惹かれるのか世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承祝祭の場における、都市というシリアスな対象日本に対する外部からの視線深遠なる構造素材と装飾があらたに切り開く地平アンチ・ステートメントの時代なのだろうか?このところの建築と言葉の関係はどうなっているのだろうかドイツの感受性、自然から建築へのメタモルフォーシスリテラル、まさにそのままということを巡る問いかけもっと、ずっと、極端にも遠い地平へ強大な建造物や有名な建築家とは、どのように機能するものなのか素顔のアドルフ・ロースを探して住宅をめぐるさまざまな試み手で描くということ──建築家とドローインググローバル・ネットワーク時代の建築教育グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム等身大のリベスキンド建築メディアの再構成曲げられた空間における精神分析変化し続ける浮遊都市の構築のためにカーンの静かなしかし強い言葉世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか建築の枠組みそのものを更新する試みコンピュータは、ついに、文化的段階に到達した住居という悦びアーキラボという実験建築を知的に考えることハード・コアな探求者によるパブリックな場の生成コーリン・ロウはいつも遅れて読まれる繊細さと雄大さの生み出す崇高なるランドスケープ中国の活況を伝える建築雑誌パリで建築図書を買う楽しみじょうずなレムのつかまえ方美術と建築、美術と戦争奔放な形態言語の開発に見る戸惑いと希望建築と幾何学/書物横断シー・ジェイ・リム/批評家再読ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[2]ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[1]追悼セドリック・プライス──聖なる酔っ払いの伝説ハンス・イベリングによるオランダ案内建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら「何よりも書き続けること。考え続けること。」建築を教えながら考えるレムの原点・チュミの原点新しい形を「支える」ための理論シンプル・イングランドヘイダックの思想は深く、静かに、永遠にH&deMを読む住宅の平面は自由か?ディテールについてうまく考えるオランダ人はいつもやりたい放題というわけではないラディカル・カップルズ秋の夜長とモダニズム家具デザインのお薦め本──ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ポールケアホルム知られざるしかし重要な建築家
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