人にものを考えさせる力(青木淳『JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004』トーク・レビュー)

松村秀一

JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004
青木淳氏[左]、松村秀一氏[右](『JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004』出版記念会会場にて)

青木淳らしさ
ぼくは自分の本が刊行されてもさほど嬉しくないのですが、青木君はぼくと東京大学の建築学科の同級生ということもあって、青木君のこの作品集を手に入れたときは非常に嬉しい気持ちになりました。といいますのは、この本をめっくっていくと、ページの一枚一枚の側面は白くみえるのですが、束になると銀色にみえて、まずここにわがままでお茶目な高飛車ともいえるような、非常に青木君らしいところが出ているように感じたからです。本の中身も青木君らしくて、本がこんなに青木君らしいのであれば、もう青木君本人はいる必要がないのではないかと思うほどです。
どこが青木君らしいのかというと、言葉であれ作品であれ、青木君のあらゆる表現に共通していることだとぼくは前から思っていたのですが、この本がある種の人にものを考えさせる力をもっているところです。ぼくは研究者で、いろいろな人やものに接する機会が多いのですが、そういう人やものに出会うことはめったにありません。でも、彼は昔からそういう力を持っていた人でした。

エトワールの住宅
いまから26年くらい前の学部3年生の設計の授業だったと思うのですが、篠原一男先生がいらっしゃって住宅の課題を出題されたことがありました。ぼくはいまでも覚えているのですが、そこで青木君が提出したものは、エトワールの住宅でした。エトワールの住宅というのは、上からみると四角い壁があって、そのなかに星形の壁が入れ子になっているという住宅で、ぼくはそれをみて、こんなものを出していいのかとすごくびっくりしたことを覚えています。その住宅は角がいっぱいあって、とても住めるような家ではなかったのですが、そのとき青木君はなにかもっともらしい説明をして、先生方にはすごく受けていました。
ぼくはそのあと友達と焼鳥屋へ飲みに行って、皆で青木君のエトワールの住宅について話したのですが、結果的に青木君の作品をきっかけにしていろいろと考えさせられることになりました。

JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004
松村秀一氏

24枚の図面
作品集のなかの保坂健二朗さんのテキストにも出てきますが、そのあとに、卒業設計がありました。東大の製図室は室内がブースに分かれていまして、ぼくのブースの隣で青木君が卒業設計をしていました。設計の初期の段階で、ぼくは青木君がなにをしているかのぞきにいきました。そうしましたら、ぼくらがプランをどうするかとかいろいろと悩んでいるなか、青木君は24個のマスをつくってそのなかに小さいスケッチを描いているのです。ぼくが「青木、なにしてるの」と聞くと、「いま図面を24枚に決めたの」と言うのです。建築の設計を図面の枚数を決めるところからはじめるなんて、いまではありうる話なのかもしれませんが、当時のぼくらには、非常に新鮮で驚かされました。
24枚の割付図の1枚目のところをみましたら、飛行機のスケッチが載っていました。飛んでいる飛行機を上からみたスケッチだったのですが、「これはなに」と聞くと青木君は「飛行機の写真」と答えました。他人の写真で図面を1枚使ってしまっていいのかと、また驚かされました。
設計の内容を聞きましたら、グリッド状の街の地図と実際の街の地図のふたつを重ね合わせたところに建物を設計しているようでした。ぼくは青木君とまったく感性が違っているので、実際にない敷地で設計していいなんて考えたこともありませんでした。当然ほかの人もそうで、彼だけ勝手に地図を重ね合わせて「ここ面白いでしょ」なんて言うんです。これはなんなんだろうと思いまして、そこでまた非常に深く考えさせられました。
この本をみていますと、設計のテーマや考え方などについて青木君がなにを考えているのだろうかと深く考えさせられます。それは、こうした青木君が学生時代からずっと持ち続けている人に考えさせる力をまた強く感じているということなのではないかと思っています。

モーツァルトとル・コルビュジエ
それから大学を卒業して青木君が磯崎事務所に入ったあとすぐに、槇事務所に入った水井という同級生と青木君と私の3人で仕事をしたことがありまして、何度か3人で飲む機会がありました。そのとき飲みながら、落ち込んだときにどうしているかという話になりました。そうしましたら、そういうときはモーツァルトを聞きながらコルビュジエの作品集をみると勇気が沸いてくると言って、ぼく以外のふたりは意見が一致して意気投合しているのです。ぼくはそんなことでは力なんて沸かないよと思ったのですが、ふたりは絶対そうなんだと言って譲りませんでした。
この本をはじめて手に取って「コンプリートワークス1」と書かれているのを目にしたときに、すでに2004年までの作品を収録してありましたので、次の「2」はいったいどうなるのだろうかと少し不思議な気持ちになりました。この辺にも青木君らしさが出ていると思うのですが、ぜひ「2」も出されて、そのときにはコルビュジエの作品集のかわりに青木淳の2冊の作品集をもつと皆が力が沸いてくるようなものになるように、今後もさらに設計に磨きをかけていただいて、ますますのご活躍を期待しています。

JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004
★----本稿は、2004年10月15日にINAX京橋ビルで行なわれた『JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004』出版記念会での松村秀一氏によるご祝辞をもとに作成したものです。
『JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004』は、全国主要書店にて好評発売中。またINAX出版のウェブサイトからもご購入いただけます。
INAX出版ウェブサイト:http://www.inax.co.jp/Culture/top/pub.html

 


200411


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