パリで建築図書を買う楽しみ

今村創平
Dominique Perrault

Gilles de Bure, Dominique Perrault, Terrail Vilo, 2004.

News: 25 projects by Peripheriques Architects

News: 25 projects by Peripheriques Architects, Birkhauser, 2003.

Grands Ateliers

Lipsky+Rollet Architectes, Grands Ateliers, Jean Michel Place edition, 2003.

Useful - Utiles, Jacques Ferrier architect: The Poetry of Useful Things

Jacques Ferrier, Useful - Utiles, Jacques Ferrier architect: The Poetry of Useful Things, Birkhauser Boston, 2004.

ジャン・ヌーヴェルやドミニク・ペローといた国際的スターはいるものの、全般的にはフランスの現代建築というのはあまり活気がない。ロンドンやアムステルダムといった都市のような景気のよい変貌とは、まったく無縁のようであるし、イタリア化とでも呼びたくなるような、古い遺産をベースに生きていきますよといった雰囲気が濃密に感じられる。とは言うものの、新しいものを追っかける目からは少々退屈に見えるこの状況も、やはりその場に佇んでみれば、「19世紀の首都」(W. ベンヤミン)との呼び名にたがわない濃密な香りが、そこここに漂っているのが感じられるであろう。オスマン風と称される端正な街並みや、カフェや公園で思い思いにくつろぐ人々を眺めると、大都会の中にあっても豊かに時間を過ごしている人々の様子が垣間見えてうらやましい。美術館でお気に入りのドローイングを見つけ、特にあてもなくパリの街中をぶらつき、カフェのいすに腰掛け冷えた白ワインを飲みながら行きかう人々を観察する。そのようにこの街の心地よい空気にまったりと浸りきった一日の最後に、本を探しに本屋へと向かう。慣れない異国の地にあって、新たな本に出合えるのではないかという期待を胸に、本屋へと急ぐのである。

洋書を取り巻く状況は、ここ暫くでかなり様変わりした。少し前であれば、東京であってもある限られた場所でなければ、洋書の実物を手に取ることはできなかった。であるから、海外に建築を見に行くついでに、現地の本屋で新しい建築の本を物色することはかなり意味があった。しかし今では、大型書店の展開などがあり、ほとんどのターミナル駅近くのジュンク堂や紀伊國屋書店といった本屋でも、ある程度の量の建築洋書を扱うようになっている★1
しかし、それ以上に大きな変化は、アマゾン(http://www.amazon.co.jp/)をはじめとするネット書店の台頭であろう。何しろ家やオフィスにいながらにして注文ができ、宅配もされる。何より価格が書店よりも明らかに安い。唯一の問題は、もちろん実物を手にとって見れないことであるが、すでに本屋で見かけていたり、評判を聞いている本であればなんら問題ない(この連載もそうした情報提供に役立っているのであれば幸いである)。国内であってもそうだが、海外であればなおのこと、重い本を抱えて移動するというのはこれまで大きな問題だった。僕が学生の頃の十数年前など、僕も友人もみな10冊以上の、それも写真集であれば大部の本を抱え、泣きそうになりながら旅行を続けていたものである。それは、昨今ではほとんど見られない光景になった。
そして、もうひとつ付け加えるとするならば、そもそも洋書そのものが以前に較べて必要とされなくなっているふしがある。歴史や著名な建築についてであれば、すでに多くの翻訳がなされ、日本語オリジナルで書かれたものも少なくない。例えば、ル・コルビュジエについて学生が学ぼうと思えば、日本語で書かれたものだけでもその量に呆然とするであろう。つまり、専門的に研究するという理由でもない限りは、たいていのことは日本語で用が足りてしまうとも言える。では、まだ紹介されていない最新の動向はどうかと言われると、そうしたものはじつは結構ネットでも情報が行きかっているし、特に最近はリアルタイムで押さえておかなければいけない海外のトレンドというものもない無風状態なので、慌てて輸入に励まなくとも、暫くすればいいものはきちんといつかは紹介されるものである。

などなどと書いていると、ではなぜ洋書を買うのかという疑問が沸いてきてしまうが、遠回りしてしまった話を元に戻すと、旅先で本屋に入る体験そのものが楽しいということが、じつは今回言いたいことのほとんどすべてである。そして、ここではパリに行った際に是非訪れたい、建築図書を扱っている3つの書店を紹介しようと思う。

La Moniteur La Moniteur
la hune la hune
まずは、オデオン座を正面から望んでその左手にある La Moniteur。建築図書の専門店であり、2階がギャラリーとなっている。中くらいの広さの店内には本がびっしりと埋まっており、本好きはこうした空間にいるだけでなんとなく幸せな気分になってしまう。冒頭で、フランスの現代建築は活気がないとくさしたが、街の中心部にこれほど充実した建築専門書店があるということは、やはりこの街の建築文化度の高さを如実に物語っている。
次は、サン・ジェルマン・デ・プレ教会の正面の有名なカフェ、ドゥ・マゴの隣にある書店、la hune。1階が哲学や文学、2階がアートや建築という店内は、それほど広いわけではないが、良質の品揃えを誇る。サン・ジェルマン通りに面し、著名なカフェに挟まれた抜群のロケーションは、こちらの気分をいやがおうにも盛り上げてくれる。本は丁寧に並べられており、そうした本をリスペクトしている様もまた、店の品位を上げている。
最後は、ポンピドゥー・センター内にある本屋。数年前の改装により以前より広くなったと思われるが、アート関連の本を中心として建築、映画の書籍も多い。同センターで常設、企画の展覧会を観たあとに寄るのにも便利。ここの本屋とla hune はともに遅い時間まで開いているので、ほかの用事を済ませて一日の最後に訪れるにもいい(本屋は一日の最後に寄らないと、一日重い本を抱えて移動する羽目になる)★2

さて、肝心の本の紹介をすべきであろう。ごく簡単で恐縮であるが、フランスの建築家の最新刊を4冊取り上げる★3
ドミニク・ペローの本はすでにいくつも出ているが、最近のコンペ案までも含めた最新刊、『Dominique Perrault』。
最近、日本の雑誌でもたびたび取り上げられて馴染みとなってきた若手建築家集団ペリフェリックの作品集、『News: 25 projects by Peripheriques Architects』。
学校建築を中心に、徐々に仕事を増やしているフローレンス・リプスキーの代表作を取り上げた、『Grands Ateliers』。
今後公共建築を中心に活躍が期待されているジャック・フェーリエの作品集、『Useful - Utiles, Jacques Ferrier architect: The Poetry of Useful Things』。
大雑把なまとめだが、フランスの現代建築はそれほど理論的ではない。そう断言して語弊があるとすれば、彼らの建築を支えている理屈は、われわれの参照にはほとんどならない。やはり「使える」のは、彼らの造形や色彩に対するセンスである。と言ってしまうと、相変わらずの表面的な外国のコピーを助長するのかと咎められそうであるが、現時点でのフランス建築への向かい方としては、それが妥当に思えるのである。

★1──とは言うものの、洋書はほかの国内の書籍と違って返本ができないので、書店にとってはリスクをともなう商品なのである。それもあって、売れるであろうと見込めるものばかりが注文されるので、それは結局、レム・コールハースやフランク・O. ゲーリーといったいわゆる有名どころばかりが店頭に並ぶことになる。であるから無名の新人のもの、評価のわからない実験的なもの、部数を期待できない理論書などは、基本的に輸入されない。現地で本を探すということは、こうした輸入されない本を探すということでもある。
★2──各書店の住所、電話番号等は掲載しないが、それぞれ上記の説明どおり極めてわかりやすいロケーションにあるので、訪れようとして迷うことはないだろう。
★3──余談としてあげておくと、戦後の日本建築論(日本人によるものの意)を集めたアンソロジーが、この6月フランスで発売された。

[いまむら そうへい・建築家]


200407

連載 海外出版書評|今村創平

今となっては、建築写真が存在しないということはちょっと想像しにくい西洋建築史における後衛としてのイギリス建築の困難とユニークさ独特の相貌(プロファイル)をもつ建築リーダーとアンソロジー──集められたテキストを通読する楽しみ建築家の人生と心理学膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市技術的側面から建築の発展を検証する試み移動手段と建築空間の融合について空に浮かんだ都市──ヨナ・フリードマンラーニング・フロム・ドバイ硬い地形の上に建物を据えるということ/アダプタブルな建築瑞々しい建築思考モダニズムとブルジョワの夢セオリーがとても魅力的であった季節があって、それらを再読するということレムにとって本とはなにかエピソード──オランダより意欲的な出版社がまたひとつ建築(家)を探して/ルイス・カーン光によって形を与えられた静寂西洋建築史になぜ惹かれるのか世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承祝祭の場における、都市というシリアスな対象日本に対する外部からの視線深遠なる構造素材と装飾があらたに切り開く地平アンチ・ステートメントの時代なのだろうか?このところの建築と言葉の関係はどうなっているのだろうかドイツの感受性、自然から建築へのメタモルフォーシスリテラル、まさにそのままということを巡る問いかけもっと、ずっと、極端にも遠い地平へ強大な建造物や有名な建築家とは、どのように機能するものなのか素顔のアドルフ・ロースを探して住宅をめぐるさまざまな試み手で描くということ──建築家とドローインググローバル・ネットワーク時代の建築教育グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム等身大のリベスキンド建築メディアの再構成曲げられた空間における精神分析変化し続ける浮遊都市の構築のためにカーンの静かなしかし強い言葉世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか建築の枠組みそのものを更新する試みコンピュータは、ついに、文化的段階に到達した住居という悦びアーキラボという実験建築を知的に考えることハード・コアな探求者によるパブリックな場の生成コーリン・ロウはいつも遅れて読まれる繊細さと雄大さの生み出す崇高なるランドスケープ中国の活況を伝える建築雑誌パリで建築図書を買う楽しみじょうずなレムのつかまえ方美術と建築、美術と戦争奔放な形態言語の開発に見る戸惑いと希望建築と幾何学/書物横断シー・ジェイ・リム/批評家再読ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[2]ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[1]追悼セドリック・プライス──聖なる酔っ払いの伝説ハンス・イベリングによるオランダ案内建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら「何よりも書き続けること。考え続けること。」建築を教えながら考えるレムの原点・チュミの原点新しい形を「支える」ための理論シンプル・イングランドヘイダックの思想は深く、静かに、永遠にH&deMを読む住宅の平面は自由か?ディテールについてうまく考えるオランダ人はいつもやりたい放題というわけではないラディカル・カップルズ秋の夜長とモダニズム家具デザインのお薦め本──ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ポールケアホルム知られざるしかし重要な建築家
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