建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら

今村創平

K.Michael Hays, Architecture/Theory/Since 1968, MIT Press, 1998.

K.Michael Hays, Oppositions Reader, Princeton Architectural Press,1998.

Herzog & de Meuron, Prada Aoyama Tokyo, Fondazione Prada, 2003.

Jean Baudrillard and Jean Nouvel, The Singular Object of Architecture, Univ of Minnesota Pr (Trd), 2002.

Aaron Betsky, K. Michael Hays, Scanning: The Aberrant Architectures of Diller + Scofidio, Whitney Museum of American Art, 2003.

『10+1』本誌最新号(No.32)でポストモダニズムの特集が組まれると聞いているのだが、きっとそれはかのムーブメントのデザイン面ではなく、その背景にあった建築思想について見直そうというものだと推察している。よってそれに関連して、20世紀最後の数十年に行われた、建築批評を概観するアンソロジー(ともに、マイケル・ヘイズ編集、1998年刊行)を2冊紹介する。

『Architecture/ Theory/ since 1968』は、そのタイトルの通り、1968年のマンフレッド・タフーリ「建築イデオロギーの批評に向かって」から、1993年のR.E.ソモル「唯一もしくは複数の巨匠?」まで、建築の理論もしくは批評のテキスト50編弱が集められており、ヘイズは全体のイントロダクションだけではなく、各編それぞれの紹介も書いている。また、この時期に重要と思われる建築プロジェクト(ヘイダック、チュミ、リベスキンド、レムなど)12点も、それぞれ数ページを使って挿入されている。1975年から77年の間に、チュミ、アイゼンマン、レムの初期の代表的な論文が書かれていて、80年から86年にかけては、カッチャーリ、ハーバマス、フーコー、ジェームソン、ヴィリリオ、デリダといった哲学者によるテキストが集められていることから、各時期の空気というものも感じ取ることが出来る。ちなみに、この本以前の建築理論のアンソロジーとして、『Architecture Culture 1943-1968: A Documentary Anthology』(Joan Ockman編, Columbia Books of Architecture/ Rizzoli, New York, 1993)がある。

『Oppositions Reader』は、1973年から84年まで発行された『Oppositions』(26号まで)の中から代表的な論文を採録したものである。この『Oppositions』は、アイゼンマンたちが中心となって主催していたニューヨークのInstitute of Architecture and Urban Studiesの機関誌として発行されていたもので、当時の建築理論を主導していた伝説的なものである。そのあたりの詳細は、『建築の終わり』(TOTO出版、2003)の中のコラムで、日埜直彦さんが詳しく解説しているので、ここではそれを繰り返すことは避ける。お手数だがそちらを参照して欲しい。
難解な文章がこれだけ集められるとげんなりもするが、アンソロジーなので気になったところを拾い読みするというのが現実的か。もちろん意欲がある人は全部読んでもいいのだが。大学院生などが勉強会などをするには、いろいろな幅があるテキストが入っているので有用だろう。個別のテキストを読み込むもよし、全体を眺めることで時代の相対化を計るもよし。ついでながら、こうしたアンソロジーの日本の現代建築版も是非欲しいし、その英語版もあれば有意義であろう。参考までに、この2冊の中で日本の現代建築に関するものは、八束はじめ氏による長文のテキスト「都市の廃墟の建築:モダニズム以降の日本建築への批評的イントロダクション」が『Oppositions Reader』に収録されている。
蛇足ながら、上記2冊は7、800ページもある大部の本であるが、現在アマゾンで購入すると、ともに4,000円台である(ソフト・カバーの場合)。お手ごろではないか。一般的なことであるが、洋書購入について一つ書いておくと、高いと思われがちな洋書であるが、定価がないようなものなので、発売から少し待つと値段ががくっと下がることがある。例えば、レムの『S,M,L,XL』や『Projects for Prada』など、最初店頭での価格と、現在のネット上での価格は半分くらいの違いになっている。また当初ハード・カバーで出版されたものでも、暫くするとソフト・カバーでも出版されたりする(日本で、単行本で出た新刊が、一年後に文庫本になるようなもの)。カバーが異なるだけで、内容はまったく同じで数千円安い。急いで買う必要がなければ、少し時間を置いてから購入するのも手である。ただ、そうこうしているうちに、売り切れてしまって、悔しい思いをすることもあるのだが。

『Prada Aoyama Tokyo』は、最近話題のヘルツォーク・アンド・ド・ムロン(以下、H&deM)による《プラダブティック青山店》の製作の記録である。こうしたブランド・ビルをスター建築家が手がけることは最近のトレンドであるが、ブランド側のイメージ戦略との絡みもあって、建築専門誌等での発表にはいろいろと制約も多いと聞く。独創的な建物であるから、その工法やディテールにも興味が湧くのだが、上記の制約からか雑誌の最新号のページにはほとんどそうした情報はない。この本は、そうしたフラストレーションを解消してくれるもので、建築のメーキングの記録が、非常に多くのイメージによって構成されている。
《プラダブティック青山店》は、明らかに斬新であり、またよく出来ているのであるが、その評価となると戸惑いを覚える人も多いようだ。僕にはこの状況が、コルビュジェの初期の住宅からロンシャンへの移行が、人々に与えた影響に重なって思える。ロンシャンが発表されたとき、戦前の白い住宅を信奉していた多くの建築家は、コルビュジェに裏切られた気がしたと言われる。同じように、H&deMの初期のミニマルで端正な建築を好んでいた人は、最近の表現過剰なものは、違うと思うかもしれない(ジェームズ・スターリングは、ロンシャンなどは評価せず、30年代のコルビュジェのみに関心があると表明していたが)。

『The Singular Objects of Architecture』は、建築家ヌーヴェルと、哲学者ボードリヤールという、二人のジャンによる、1998年に行われた公開対談を本にまとめたものである。哲学者との対談といっても、生真面目で堅苦しいものではなく、ウイットに富むイメージ豊かなものだ。それは、ヌーベルという建築家のキャラクターによるところが大きく、彼は建築や人生について会話することを楽しめるのであろう。こうした建築家と哲学者の対談は、日本でも可能であろうが、このようにウイットに富んだものというのは、やはりフランス人でないと無理か。9.11に先立つこと3年、ボードリヤールは、後に様々なところで引き合いに出される、WTCの2本のタワーは互いに無限に反復するイメージを持つという考えを、この対談で披露している。

『Scanning: The Aberrant Architectures of Diller + Scofidio』は、今年のホイットニー美術館で開催された、ディラー・アンド・スコフィディオ(以下、D&S)の回顧展に合わせて出版された、彼らの初期から今日までの作品を網羅したヴィジュアルの美しい本である。近年は建築の実作も少しずつ手がけている彼らだが、相変わらずコンセプチュアルなプロジェクトも好調のようである。展覧会のキュレーターは、アーロン・ベツキーとマイケル・ヘイズ。本の中のインタヴューは、なんと粋なことにローリー・アンダーソンであって、D&Sの"technologizing body"という言葉に興味を持つところが、彼女らしい。

[いまむら そうへい・建築家]


200309

連載 海外出版書評|今村創平

今となっては、建築写真が存在しないということはちょっと想像しにくい西洋建築史における後衛としてのイギリス建築の困難とユニークさ独特の相貌(プロファイル)をもつ建築リーダーとアンソロジー──集められたテキストを通読する楽しみ建築家の人生と心理学膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市技術的側面から建築の発展を検証する試み移動手段と建築空間の融合について空に浮かんだ都市──ヨナ・フリードマンラーニング・フロム・ドバイ硬い地形の上に建物を据えるということ/アダプタブルな建築瑞々しい建築思考モダニズムとブルジョワの夢セオリーがとても魅力的であった季節があって、それらを再読するということレムにとって本とはなにかエピソード──オランダより意欲的な出版社がまたひとつ建築(家)を探して/ルイス・カーン光によって形を与えられた静寂西洋建築史になぜ惹かれるのか世代を超えた共感、読解により可能なゆるやかな継承祝祭の場における、都市というシリアスな対象日本に対する外部からの視線深遠なる構造素材と装飾があらたに切り開く地平アンチ・ステートメントの時代なのだろうか?このところの建築と言葉の関係はどうなっているのだろうかドイツの感受性、自然から建築へのメタモルフォーシスリテラル、まさにそのままということを巡る問いかけもっと、ずっと、極端にも遠い地平へ強大な建造物や有名な建築家とは、どのように機能するものなのか素顔のアドルフ・ロースを探して住宅をめぐるさまざまな試み手で描くということ──建築家とドローインググローバル・ネットワーク時代の建築教育グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム等身大のリベスキンド建築メディアの再構成曲げられた空間における精神分析変化し続ける浮遊都市の構築のためにカーンの静かなしかし強い言葉世界一の建築イヴェントは新しい潮流を認知したのか建築の枠組みそのものを更新する試みコンピュータは、ついに、文化的段階に到達した住居という悦びアーキラボという実験建築を知的に考えることハード・コアな探求者によるパブリックな場の生成コーリン・ロウはいつも遅れて読まれる繊細さと雄大さの生み出す崇高なるランドスケープ中国の活況を伝える建築雑誌パリで建築図書を買う楽しみじょうずなレムのつかまえ方美術と建築、美術と戦争奔放な形態言語の開発に見る戸惑いと希望建築と幾何学/書物横断シー・ジェイ・リム/批評家再読ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[2]ミース・ファン・デル・ローエを知っていますか?[1]追悼セドリック・プライス──聖なる酔っ払いの伝説ハンス・イベリングによるオランダ案内建築理論はすなわち建築文化なのか、などと難しいことに思いをめぐらせながら「何よりも書き続けること。考え続けること。」建築を教えながら考えるレムの原点・チュミの原点新しい形を「支える」ための理論シンプル・イングランドヘイダックの思想は深く、静かに、永遠にH&deMを読む住宅の平面は自由か?ディテールについてうまく考えるオランダ人はいつもやりたい放題というわけではないラディカル・カップルズ秋の夜長とモダニズム家具デザインのお薦め本──ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、ハンス・ウェグナー、ポールケアホルム知られざるしかし重要な建築家
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