2月末の少し寒いロンドンから

大島哲蔵

John Allan, Lubetkin: Architecture and the Tradition of Progress, RIBA Publications Ltd, 1992.

Jean Nouvel: V Praze in Prague, 2000.

Richard Neutra's Windshield House, Yale Univ Pr, 2001.

Robert Kronenburg, Spirit of the machine: Technology as an Inspiration in Architecture, Wiley-Academy Editions, 2001.

Francis Tibbalds, Making People-Friendly Towns: Improving the Public Environment in Towns and Cities

Robert Smithon: The Collected Writings, Univ. of California Press

Conway Lloyd Morgan, Jean Nouvel: The Elements of Architecture, Universe Books, 1998.

Annie Bell, John Pawson, Living and Eating, Ebury Press, 2001.

今年は1月の始めから半ばにかけて、厳しい寒さのヨーロッパ(アムステルダムからウィーン、そしてリュブリアナからトリエステを経てローマまで)を体験したため、イギリスはさぞかし骨身にこたえるだろうと思っていたら、日本より少し寒いくらいで一息ついている。

ロンドンで建築書を見ようと思うと、たいていの人がRIBA(66, Portland street)とAAスクール(34−36, Bedford square)に併設されたブックショップに足を運ぶことになる。両者は歩いて15分くらいの距離なので、簡単にかけもちすることができる。まず老舗のRIBAの方はAAの地下にあるトライアングル・ブックショップの5倍ほどの売場面積で、しかも1Fのコーナーを占め比較的ゆったりと選書することができる。RIBA自身も出版をてがけるが地味な実用書が中心で、興味を引かれるのがいまだに1992年に出た『John Allan: Lubetkin』(¥18,000)という状態である。でも最近出た『Owen Williams』(¥7,500)は構造技師系の意欲的な設計が展開され、この流れが今日のハイテク建築の隆盛につながっていることは衆目の一致するところだろう。売場が広いのを生かして、歴史や建造技法、アートやランドスケープに力を入れているが、その方針が当っている感じはなく、まだ模索中という品揃えである。イギリスは擬古典様式の力が近代建築の順調な発展を阻害したため、その時期の佳作を発掘して出版にもち込むという方式が成り立たず、輸入本が優位を占めているのは仕方のないところだろう。

そんな中で売れていそうなのは『Jean Nouvel: V Praze in Prague』(¥6,500)とか『Richard Neutra's Windshield House』(¥4,800)などで、それぞれチェコの出版社そして「President and Fellows of Harvard College」刊となっていて入手が難しそうだが、直接申し込めば送ってくれると思う(http://www.ribabookshop.com)。ちなみになぜ後者が目についたかというと住宅全体がコーディネート(例えばテーブルウェア)されていて、ローベル邸と並ぶ代表作ではないかと思われるからだ。両店で共通してアピールしていたのは『Craig Ellwood』(Laurence・King、¥10,500)やロバート・クローネンバーグの『Spirit of the Machine: Technology as an Inspiration in Architecture』(Wiley-Academy, ¥6,000)などで、理論書やサスティナブル、エコロジーや都市問題を拡充しているが、とくに言及するほどの新刊が見当たらないのはどこも同じだ。一例を挙げると『Making People-Friendly Towns: Improving the Public Environment in Towns and Cities』(¥6,300)は「タウンスケープ」の考え方を現代に応用したまでのことで、イギリスの都市では有効だとしても日本でこれをやったら「修景テーマパーク」都市になりかねない。それだったら両店とも一冊ずつしか置いていなかったが、『Robert Smithon The Collected Writings』(Univ. of California Press, ¥7,000)を買った方がましと言うものだろう。

トライアングルの方は狭いながらも違ったテイストで勝負している。棚のあちこちに事情通が喜びそうなタイトルがさり気なく偲ばせてあるところが良い。先進的な情報を提供しようというのだろうが、肝心のその内容がコンピューターを使った流体形に収束している感があって、やはりディレンマを抱えている。この学校の出版物(AA Publications)が揃っているのは順当だが、この書店自身もたまに出版を手がける。数年前にRIBAのバルキーな版とは対照的な『Lubetkin&Tecton』(¥4,000)がコンパクトなペーパーバックで出た時には、これが英国式のウィットかと思ったが、今度はブルーノ・ゼヴィの古典的な著書『Giuseppe Terragni』(¥4,800)を英訳して同じ体裁で英国の読者に問うている。好評らしいのは『ABSTRACT 00.01』(Columbia Univ., ¥5,800)とか『Bartlett Book of Ideas』(¥4,500)などのようで、後者はAAのライバル校でピーター・クックが主導していて、この出版物の編者でもあるのが興味深い。またシチュアシオニスト関連の本が集められ、学生の意識を鼓舞している様子がうかがえる。あと『Jean Nouvel』(Center Pompidou, ¥5,200)も売れているようで、そうしたタイトルは複数が並んでいる。特筆すべきは見本のみでまだ価格も記されていなかった(¥16,000くらいか?)が、デンマークの出版社から『Utzon』という本格的な作品集が展示されていたことで、彼のファンは早速アクションを起こさねばならない。ここの店長を務めている格幅の良いオジサンは物腰が柔らかく親切だ。一般書店で面白かったのは『Living and Eating』(Ebury Press, ¥7,300)でジョン・ポーソンとアニー・ベルの共著になっている。これは「ミニマル・フーズ」のレシピを紹介したものだが、ポーソンの空間や彼好みの写真のトーンを巧みに取り込んだ編集になっていて、この種の「建築の拡張」の可能性も確かにあると思った。ベルはヴォーグ誌やインディペンデントなどに多くの料理に関するレポートを寄せている女性ライターとのことで、とりあえずポーソンの「ブランド化」を促進する動きではなく、ポテンシャルの向上につながっていると判断した。

RIBAとAAは組織の性格と形式を異にするが、大きく言えば相補的な存在でもある。教育と展示、実践活動のサポート(情報管理や会合)、そして表彰制度の運営に違った角度から寄与している。ブックショップや気分の良いカフェバーの併設(直営ではなく委託経営だろう)が、今日的な社交の効用をスマートに表現している一方で、それさえも更なる脱皮を迫られている事実が、両店の様子からつぶさに感じ取られた。

[おおしま てつぞう・建築批評家]


200203

連載 海外出版書評|大島哲蔵

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