工学書と芸術書のうまいミキシング

大島哲蔵

Paul Virilio, A Landscape of Events, The MIT Press, 2000.

Hal foster, Richard Serra, The MIT Press, 2000.

Nicholas Baume, Sol Lewitt: Incomplete Open Cubes, The MIT Press, 2001.

Approximations: The Work of Peter Markli, The MIT Press

Mohsen Mostafavi, Structure as Space: Architecture and Engineering in the Work of Jurg Conzett, The MIT Press, 2002.

MITプレス(http://mitpress.mit.edu/)は数ある大学出版局のなかで、最も積極的に建築関連を取り上げている有り難い存在である。私が今も覚えている鮮烈なシーンとして、この出版局がリリースしたヴェンチューリの『Learning from Las Vegas』が初入荷した日の一件がある。それは1972年のとある日だったはずだが、今まで見たことのないタイプの美しい装丁で(現在入手できる縮約版のペーパーバック[3,630]とは全く別物と言ってよい)ページをめくるごとに心が踊るようで、実際それは飛ぶように売れてしまった。とにかく著者の斬新なコンセプト(写真、ドローイング、コラージュでの)が本を手に取るだけで伝わってくる不思議な「作品」に仕上がっていた。記憶をたどってみると同じようなことが何度かあり、例えばパオロ・ソレリの『Arcology』などもMITの初版で接してはじめて、その何たるかを知ることができる。

一方でMITのペーパーバックの出し方には、教えられるところが多い。まずタイミングが絶妙である。よく読まれる本は初めクロスバウンドで出版され(少し高い感じがする)、欲しいけどなーと迷っているうちに(その熱がさめないタイミングで)ペーパーが約半値でアナウンスされるから結局は買わされてしまう。その時機を逸すると、たいがいの本は内容的に古くなるからもう買わなくてもよくなるのになーと悔しい思いがするほどだ。独創的な著者のコンセプトに相応の対価を払ったうえで、専門家にそれが浸透するのを見計らって今度は一般の共有財産にするやり方が徹底している。残念ながらこんな発想をする大学系出版社は日本には存在しない。出版活動が大学での研究成果を社会化するうえで、どのような役割を担うのかという視点からシステム構築されているMITと比べると、マーケティング(需要側が何を求めているのか)がまるで欠落しているわが国のそれは、まったく官庁刊行物と同じ生気のない顔付きをしている。

もっとも本作りは別のところで担当し、流通だけをMITが面倒見ているケースも散見される。とくに芸術関連書がそうなのだが、これもその方面に早くから取り組んできた出版局の側に先見の明があったと言うべきだろう。そしてこのことはかなり重要だと思うのだが、工学書さらには科学的方法で追い切れない部分を芸術でフォローするという明確な意識があるから、この方面に積極的になれるのではないか。別の視点からすると、近年ますますアメリカの大学は付属ギャラリーを(設計も含めて)拡充しているが、しばしば指摘される「立場を超えたコミュニケーションのトゥール」としての意義のほかに、芸術的な意味発生のメカニズムに親しむことで、想像力(創造力)が高まり数値や論理の連鎖に飛躍を持ち込むことができる----と考えているフシがある。

MITが過去に出版した建築関連書は膨大で、その多くが絶版になっているから、ここでは最近のめぼしいものだけを取り上げる。まず一昨年に出版されたウィリアム・ミッチェルの『E-Topia: "Urban Life, Jim - But Not As We Know It"』がもうペーパーバック(¥2,510)になっている。この人はMITの建築・都市系学部長で、前著の『City of Bits』は日本でも歓迎された。今度の本も建築−都市の観点からIT革命後の生活像を論じた興味深い内容である。学者として目下進行中のディジタルネットワーク社会を論じるというより、彼自身やその周辺が現実にそれのシステム構築しているところに説得性がある。またスタンフォード・アンダーソンの『Peter Behrens and a New Architecture for the Twentieth Century』(ハード ¥10,790)は、英語で読めるベーレンスの初めての本格的な出版物である。またベルナール・チュミの『Event-Cities 2』(¥6,300)は購入された人も多いことだろう。そのチュミが序文を書いているポール・ヴィヴィリオの『A Landscape of Events』(¥2,880)も面白そうだが、内容は新聞のコラムのような軽い文章である。第3章に「錯乱のニューヨーク」と題してワールド・トレードセンターの話題が提出されており、今回のテロ攻撃はある程度予想されていたことが解る。

アート関連ではリチャード・セラに関する主要論文をハル・フォスターが編んだ『Richard Serra』(¥3,590)が面白いし、『Sol Lewitt Incomplete Open Cubes』(¥4,130)もルーイットの最盛期の作品を扱っている。ペーパーバックになったタイトルで内容が濃いのは『Constantin Brancusi』(¥7,650)と『Object to be DestroyedThe Work of Gordon Matta-Clark』(¥3,950)だが、後者は装丁が素晴らしいハードバックを奨めたい(¥6,300)。故ゴードン・マッタ・クラークの廃屋の切り抜き作品については、事あるごとにその重要性を強調してきたつもりだ。これから出る新刊としては『Andy Warhol』(¥3,050)が注目され、これは前記のセラのものと同じく『オクトーバー』誌のシリーズ(October Files Series)として今後も続刊されるようだ。ウォーホル論は何を読んでもたいがい面白いのだが、それは論述対象の仕事自体と振舞い全般が精彩に溢れているからだ。

建築関連の新刊としてはAnyシリーズの最終巻『Anything』(¥6,300)がアナウンスされているが、これはいずれ日本語版が出る(NTT出版、2000年上半期)。またポール・シェーアバルトの『The Gray Cloth』(¥4,130)はドイツ語の英訳版だが、ドイツ表現派の連中が拠り所にしていたテクスト(空想小説)ということで興味深い。また『Reyner Banham : Historian of the Immediate Future』(¥7,190)はバンハムの評伝ということで、批評系の者としてはわが国でのクリティックの処遇との差に愕然とする。それから『The Boulevard Book History, Evolution, Design of Multiway Boulevards』(¥7,190)は文字どおり大通りを扱った新刊だが、こうしたジャンルを取り上げてうまくまとめるのが昔からのMITのパターンである。新しくペーパーバックになったもののなかではケネス・フランプトンの『Studies in Tectonic Culture : The Poetics of Construction in Nineteenth and Twentieth century Architecture』(¥6,290)とマーク・ウィグリーの『White Walls, Designer Dresses The Fashioning of ModernArchitecture』(¥6,290)が有り難い。

少し気になるのが、今期(2001年のFall)初めてAAスクール(http://www.aaschool.ac.uk/publications/)の新刊書のうち代表的な2冊(『Approximations: The Work of Peter Markli』と『Structure as Space: Architecture and Engineering in the Work of Jurg Conzett』 いずれも¥7,200)がここから配給されることで、最近はさすがのMITでも冒頭に記したような鮮やかな新機軸にはお目にかかったことがなく、両校の出版部門が相補的な協力提携をテストしてみたわけだろう。しかもその内容はいづれも(イギリスではなく)スイスの建築家と構造技師の作品集----とくに後者は注目すべき内容だと思う----である。最近はどこでも新鮮なソースが底をついてきたのだなーと思い知らされる。

[おおしま てつぞう・建築批評家]


200112

連載 海外出版書評|大島哲蔵

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