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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

福住廉

●A1・A2
神話や民話、口承伝承など、つまり民俗学的な主題。多くのアーティストたちが、それらを主題として作品を制作したというより、むしろ作品を鑑賞する私たちが、そのような主題によって受容する傾向が、とりわけ2012年に強くなったように思います。
まず、鴻池朋子が企画した「東北を開く神話」展(秋田県立美術館)は、既存の民話を分解・再構成することから作品を制作したユニークなグループ展でしたが、参加したアーティストたちのたくましい想像力によって制作された作品を見ていくと、鑑賞者もまた、神話的な想像力を大いに刺激され、結果的に展示会場にはありえたかもしれないもうひとつの神話的な世界が現われていました。
志賀理江子の「螺旋海岸」展(せんだいメディアテーク)で展示されたのは、被災地の地域社会のなかで地域住民とともに撮影した写真。力強く鮮烈な写真のイメージはもちろん、そのような写真の撮り方が、新たな神話を物語ることへの意欲を感じさせる、すばらしい展覧会でした。
さらに川俣正と藤浩志といえば、ともにアートプロジェクトの先駆者として知られていますが、前者の「Expanded BankART」展(BankART Studio NYK)と後者の「セントラルかえるステーション」展(3331 Arts Chiyoda)を見ると、それぞれ民俗学的な文脈に接続していることが判明しました。輸送用パレットを組み合わせた川俣のインスタレーションは、外から見ると壮観ですが、内に入ると「かまくら」にいるような安らぎを覚えましたし、藤の代表作《かえっこ》は交換経済の観点から評価されることが多かったのですが、無数の玩具を集積して造形化する手法は、平田一式飾のような民俗芸術と明らかに通底しています。
そうすると民俗学的な要素は、なにも2012年に新たな現象として生まれたわけではなく、90年代に一般化したアートプロジェクトという表現形式のなかに、すでに内蔵されていたのかもしれない。だとすれば、アートプロジェクト以外にも、さまざまな運動や形式にそうした手がかりを見出すことも期待できます。2013年は、このあたりを糸口にして戦後美術の歴史を再編成する仕事にとりかかりたいと思っています。
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