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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

小林恵吾

2012年はマヤ暦上世界の終わりとも言われていた年である。もしこの文章を読むことができている方がいらっしゃるとすれば、世界が無事存続しているということがこの年一番の重要な出来事だったのかもしれない。しかし、世界は終わらなくとも、それは確実に変化を遂げており、この一年間というのは特にそのなかにおける世界の国や領域といった概念についていろいろと考えさせられた一年になった。

尖閣諸島問題とロシア極東地開発

4月の石原慎太郎氏による尖閣諸島購入発言を発端に、中国や韓国とのあいだに領土を巡っての大きな亀裂が生じてしまった。中国側による領有権の主張は対日本のみならず、東シナ海を囲ういくつかの国々を巻き込み、東南アジア圏全域の問題へと広がりを見せている。また5月には大統領に返り咲いたプーチンが、ロシア極東地での開発に力を注ぐ計画を打ち出しており、日本との北方領土問題の全面解決や大規模な共同開発を提案している。最南端や最北端といったこれまであまり意識していなかった場所が、今年に入ってから唐突に領地や領域という言葉との結び付きのなかであらためて認識させられたように感じている。

BIG《AIR + PORT》

8月には第13回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展が行なわれた。前回の妹島和世氏や石上純也氏による活躍に続き、今回の伊東豊雄氏率いる日本館の金獅子賞受賞は世界の建築界における日本建築の存在の大きさをあらためてアピールできたと思う。しかし、個人的に印象深かった作品はデンマーク・パヴィリオンに展示されていたBIGによる《AIR + PORT》★1。温暖化によって北極海の氷が溶けてゆく現実に建築家としていち早く反応し、これまで注目されなかった広大なグリーンランドという地に、北極圏経由の流通や移動のための新たなハブを計画している。これまでスエズ運河やパナマ運河を通っていたアジア圏とアメリカやヨーロッパを結ぶ航路は、近い将来北極海を通過することにより3〜4割ほどの時間短縮となるらしく、前述した日本の最北端という地も新しい可能性を見いだせるのではないだろうか。ちなみにアジア圏での領地争いと同様、この北極海を囲う各国はすでにその航路の権利や海底に眠るあらゆる資源を巡って、数年前から緊迫した領地争いを繰り広げている。

BIG《AIR + PORT》(2012)

★1──ウェブサイト「designboom」の記事。URL=http://www.designboom.com

『2050年の世界』

『2050年の世界』という英国『エコノミスト』編集部による本がある。2050年に向けて世界がどのように変化していくのかということをあらゆる側面から分析しているのだが、そこではアジア圏がいずれ世界のGDPの半数を占めることや、世界人口の70%が都市部に住まうということなどを予想していてとても興味深い。なかでも面白かったのは、「距離は死に、位置が重要になる」という章で、情報社会という現代において距離の概念は今後さらにその意味を縮小していくが、対比的に位置の概念はその重要性を増していく。国の位置というのは、気候や経済の変動、もしくは各地域での役割といったことのなかで、その将来を大きく左右する要素となり、また同時にそれは情報化社会以降、久しく注目されていなかった領域や場所というものが、新しい価値を持ちうることを示唆していて面白かった。

『2050年の世界──英「エコノミスト」誌は予測する』(文藝春秋、2012)

都市(City)/国家(Nation)

最後に、今年4月、ベルラーヘ・インスティテュートにてOMAパートナー兼AMO代表であるレニエ・デ・グラーフによるレクチャーがあった。タイトルは「Megalopoli(tic)s」。韓国や中東などの各国によるアフリカの土地購入などによって領地拡大が起きている現状から、国という領域の曖昧性を指摘しており、また同時に世界の大都市のGDPと各国のGDPを比較することにより、都市という単位が持つ今後の可能性や、現在の国や国境という概念の危うさを指摘している。例えば「メキシコシティのGDPがオーストラリアのGDPを大きく上回る」といった状況が世界中で起きており、都市という単位が国という単位と同等、もしくはそれに替わって存在しうる世界像の指摘はおりたいへん印象に残っている。今後、都市部に集中する人口が増え続けるなかで、都市という単位がただ物理的な側面以上に、その領域を超えた経済的・政治的な影響力を世界レベルで主張し始めるのかもしれない。

都市(City)と国家(Nation)の影響力の変化(横軸が時間、縦軸が影響力)
引用出典=http://metalocus.es/content/en/blog/megalopolitics

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