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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

志岐豊

●A1
"非現実的な夢想家"として

3月11日早朝、ポルトガルでも東日本大震災の一報が、東北地方を襲う津波の映像とともに流れる。畑や農家を覆って行く黒い水の固まりが不気味に映ったのをいまでも覚えている。
6月9日、村上春樹が「カタルーニャ国際賞」の授賞式(バルセロナ)でスピーチを行なった。日本の歴史や文化を踏まえた日本人独自の精神性の存在を認め、地震からの復興を修復可能なものととらえる一方、修復することがほぼ不可能なことが起きたことを危惧する。彼の言葉によれば、それは「効率」と「便宜」が追い求められた末に起きた。そしてこの危機を乗り越えるべく"非現実的な夢想家"として歩もうと彼は呼びかける。
夢想するということは、ヴィジョンを持つことである。たとえ、それが「非現実的」であると受け止められたとしても、ステレオタイプに縛られない未来を見据えたヴィジョンが求められている。
彼が日本ではなく、海外よりこのメッセージを発したことは示唆的であった。問題の外に視点を据えることで、「非現実」は「現実」になる可能性を秘めている。外から問題の中心を眺めること。海外で活動する者に与えられた視点(Viewpoint)である。

●A2
「Global Ends」展から「311 失われた街」展へ

昨年末から今年初頭にかけてギャラリー・間で開催された「Global Ends」展(2010年11月19日〜2011年2月26日)をまず最初に挙げたい。そこで注目されたのは、「中心」からは距離を置いた「世界の果て」において行なわれる建築家の活動だ。リーマンショック、EU危機に代表されるように、「中心」を「中心」たらしめてきた経済至上主義の根幹が大きく揺らぐ現在、建築の未来を切り拓く新しい価値観を探る展示であった。
そして、3.11。私たちが新しい価値観を見出す間もなく、それは突然やって来て、既成の価値観を粉々に破壊していった。さまざまな建築家が提案を試みるなか、大震災からの復興を支援する建築家たちのプラットフォーム「アーキエイド」の活動が印象的であった。彼らの活動のひとつとして、ギャラリー・間で開催された「311 失われた街」展(2011年11月2日〜12月24日)がある。津波に襲われた「失われた街」が白い模型で再現された。残念ながら私は実際に展覧会を訪れることができなかったが、それにあわせて開催されたシンポジウムをインターネットを通して視聴することができた。そこでは、建築、建築家になにが可能か、というテーマが繰り返し問われた。
ギャラリー・間において同年に開催された2つの展示(これらは奇しくも、一人の建築家についての展示を基本としている同ギャラリーとしては、異例と言える展示であるのだが)に象徴的に現われるように、建築の存在意義、建築家の職能が問われた一年であったと言える。
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左=「Global Ends」展(2010年11月19日〜2011年2月26日、ギャラリー・間)
右=「311 失われた街」展(2011年11月2日〜12月24日、ギャラリー・間)

東京の微地形模型 TOPOGRAPHY MODEL TOKYO

7月23日から8月27日にかけて南洋堂書店4階のN+ GALLERYで開催された上記展覧会では、建物と樹木を剥ぎ取った東京の地形のみが模型で表現された。東日本大震災で東北地方を襲った津波による被害は、私たちに地形を観察し、読み解くことの重要性を知らしめたのだが、この展示で示されたのは「自然が膨大な時間をかけて作り上げた」生の大地そのものである。また、展示内でもうひとつ私の目を惹いたのが、第二次世界大戦中の空襲後に米軍が空撮した東京の写真だ。大震災後、下記のポルトガル建築展にあわせて来日していたポルトガル人建築家たちが、東京、あるいは日本の置かれたコンテクストを断片的とは言え、理解するには十分な展示であった。
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東京の微地形模型 TOPOGRAPHY MODEL TOKYO(2011年7月23日〜8月27日、南洋堂書店・N+ GALLERY)

Tradition is Innovation:ポルトガルの現代建築展

東京(2011年9月29日〜10月11日、リビングデザインセンターOZONE)、京都(2011年10月15日〜16日、radlab.)、サンパウロ(2011年11月1日〜12月4日、サンパウロ建築ビエンナーレ)の3都市で開催。
建築の展覧会を通して、なにを伝えることができるか。それが私たちがこの展示の企画を通して考えたことである。結果として建築家へのインタヴューを行ない、その映像を会場で見せることにした。事務所の設立過程、仕事場の風景、設計プロセス、そして建築の立つ場所。映像のなかで、建築の背後にあるさまざまなコンテクストを見せることにした。それらは、平べったい二次元情報となりがちな建築展の、いわば被写界深度を高めていくことであり、逆にとらえれば、そうすることで「建築」というフレームをとおしてその国の社会状況をいくらか投射できるのではないかと考えた。最後にいささか愚直であることを認識しつつも、「建築家の役割とはなにか」を各建築家に問うている。しかし、このストレートな問いこそが2011年をとおして盛んに議論されてきたことも事実である。ポルトガルの建築家たちから異口同音に発せられる「経済危機」という言葉。危機のなかでこそ建築家に可能なこと、そのような視点(point of view)を提示できたことがこの展覧会の成果ではないだろうか。
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Tradition is Innovation:ポルトガルの現代建築展、東京での展示風景

●A3
第13回ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展 2012

デイビッド・チッパーフィールドが総合ディレクターを務める2012年のヴェネツィア・ビエンナーレ建築展。日本からは伊東豊雄をコミッショナーに東日本大震災とその復旧に関する企画「ここに、建築は、可能か」が展示される。私たちの国で、私たちの身に起こったこと。そしてそれを世界に伝えること。「新しい価値観」は図らずも内側から生まれようとしている。
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