12_東京メリーゴーラウンド
 
山の手線の楽しみ方

新宿、代々木、原宿、渋谷……29駅ある山手線。いったい何駅まで言うことができるだろう?「山手線ゲーム」という名前もつくように、東京、神奈川、埼玉、千葉辺りに住む人たちには、とても馴染みな電車だ。1周約1時間で回り、ラッシュ時には1分間隔ぐらいに、そう、まだ発車してもいないのに次の電車はもう来ている。よく事故に合わないもんだと、不思議に思うが、逆にそれが当たり前だと、たまの人身事故等にあたふたとしてしまう。この電車も子供の頃から随分と変わったものだ(というより自分の年齢を考えたほうがいい?)。ジリリリッという緊張感溢れた発車ベルは優しい音楽に、駅構内には売店・立食いソバからドトール・コーヒーも出来た。当然車窓の風景も変貌した。確か小さい頃、上野動物園に向かうため品川から乗った窓の外に、日本で一番高いビルが見えた気がする。あれはいったいどのビルだったんだろう?と、山の手線の車窓を考えてみる。遠い記憶と照らし合わせると、ん?富士山って見えなかったっけ?とか、東京タワーはもっと荘厳じゃなかった?なんか最近変わった建物多くない?など、幾つも思い起こされる。もともとグルグルと巡回する路線であり、様々な他路線への接続が可能な線なので、おそらく好き好んで1時間乗る人はまれであろう。だから連絡線がない駅や、よく乗る区間と使わない駅もあるわけで、山手線ゲームももりあがる?よほどの目的意識がなければ、えっ〜1時間も窓の外なんか眺めてらんない!と思うのが普通だろう。路上観察ならぬ線路上観察・山手線編!でもそれでも飽きちゃう、というあなたにとっておきの方法を1つ。
小学校の時、持っていたけど(おそらく)ほとんど使わなかった三角プリズム。これをそっとポケットに忍ばせ、夕暮れ時から夜の山手線、車窓を眺めましょう。どんな街がみえるかは、ここには詳しくは記しません。えっ?何?と、思ったら、ぜひ試しましょう。プリズムの変わりに偏光板もおすすめです。
榎本寿紀(美術家)
インビジブル・サークル

「マールい緑の山手線、まんなか通るは中央線、新宿西口駅の前……」駅前留学のNOVAのはるか前から刷り込まれている、量販店の草分け的な某カメラ屋のコマーシャルソング(というか、店頭呼込み的BGM?)である。多くの人も、山手線と言えば「マールい緑の」なんだと思う。路線図やちょっとした地図にも山手線は丸く正円として描かれている。確かに「緑」は、今でも銀の車体にアイコンとして残っているし、駅の案内表示にも統一して使われている。が、実際の山手線の路線形状は正円とは程遠いカタチをしている。しょぼくれた米粒みたいなカタチで南北に長く東西方向はその1/2ほどにつぶれている。中央線の方も、そのひしゃげ方に合せるように山手線内ではS字に少々苦しそうにうねっている。これに気づいたときは、ビックリする自分にビックリするくらい、ビックリした。実は、山手線はその生立ちからアヤシイのだ。“汽笛一声”の1872年から50年余をかけて現在の環状路線となるのだが、どうもこの円環は当初からの計画ではなかったらしい。だが、円環状に路線がつながったとたんに、今に続く山手線の性格を獲得する。
環状構造は独特なカタチだ。思いつく特徴を挙げていく。「完結性」。路線が延びることがない。(あたりまえだが、これ以上駅も増えない。合コンの王道コンテンツ「山手線ゲーム」のユエン。)また、生立ちはどうあれ「計画性」を想起させる。「閾空間」。都市に内外を発生させ、分節をもたらす。「等価配列の概念モデル」としてなじみがいい。故に山手線29駅は優劣無きモノサシの上で、それぞれの差異を逆に際立たせる事になった気がする。「シークエンスの非日常性」。円運動的な眺めは日ごろあまり経験がない。メリーゴーランドの夢見心地や、映画なんかのカメラがパンする手法で時間の一巡を表現したりする事などのように、プチ異次元感を与える。
だが、なによりスゴイのは多くの人々の頭の中に見えざる正円を描かせてしまう「強さ」ではないだろうか。環状であることで実際の形状が隠ぺいされて、実際、品川・池袋・田端あたりで大きく屈曲する遠心力の変化を車中の足腰に感じたとしても、頭の中の正円はユルギナイ。微地形が入り乱れ、山手線エリアで36mほどの高低差をもつ都市の上のしょぼくれた米粒は、今日も見えざる正円を描き続けるのである。
岡崎浩司(建築士)
 
■展覧会情報
--- nca gallery first exhibition Identity
会期: 2003 2.22 - 3.30 part1: the unthought known
2003 4. 1 - 25 part2: through their own eyes
会場: nca gallery
url: http://www.nca-g.com/
 
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