0 4 _ S T U D ( S u b T e r r a n e a n U r b a n D e v e l o p m e n t )

Report: 辻香 [TSUJI Kaori]

 



7月11日水曜日、新良太の撮影に同行し、神奈川県相模原市にある東急建設技術研究所に向かった。東京から車で約1時間ほどの、工場や研究所が建ち並ぶ一角にあるこの研究所では、つねに変化する社会や市場に対し、最新で正確な技術で社会に応えるテクノロジー実証実験、工法や材料、機器の性能実験、シミュレーションなどを行なっている。耐震や風洞実験、音響研究施設、人工気象室と、様々な実験室があるなかで、ひときわ異質な空間を極めているのが、今回の大深度地下空間実験場である。


 



いざ、大深度地下空間実験室へ……


われわれは、案内されるがままに何の説明も受けずにこの実験場へと移動した。実験場は、技術研究所からさらに車で10分ほど離れた場所に位置し、よく街中で見かける東急建設のシートで囲まれた建物の中にある。建物の中に入ると地下空間模型と、エレベーターが1基、そして換気用の太いパイプが飛び出ているのが目に入る。早速、エレベーターに乗り、地下50メートルへと移動した。エレベーターから降り地上を見上げると、外は天気がよいのに大量の地下水のせいで、天気雨が降っているかのような状態であった[写真1]。ついた正面に見えるのは、地下実験室のルームプレートだ。扉を開けると、地下における緑化実験、水質実験、気温観測等の記録が行なわれていた。

地下緑化について
[写真3, 4]にある植物は緑化実験用の緑化花壇である。植物は人間に安心感を与え、ストレスを和らげる効果があることから地下緑化実験をしているそうだ。光源は蛍光灯を使い、土は水分を充分に含む園芸用の白い人工の軽量土壌を使用している。写真では確認しづらいが、池もあり金魚が1匹泳いでいる。
花壇には観葉植物が多く、花が少し咲いていた。植物のいくつかに変わった現象が見られた。湿度が高いためか、ベンジャミンという観葉植物の枝から根が生えている。ふだんは見られない光景である。ただし、この現象は回りに壁を作り湿度を調整すれば発生はしないそうである。

二つの実験室について
この場所にはほかに外界と完全に遮断された空間があり、地下空間のもつ特性を探る小さい実験室が二つある。遮断性や、遮音性、保湿性を利用した実験や研究を可能とし、さまざまな物質や食物の貯蔵実験などを行なう場所である。
ひとつは、貯蔵実験室である[写真5, 6]。地下特性を活かし、ワインを貯蔵している。
もうひとつは、多目的実験室である[写真7]。遮断性、保湿性を活かした低温物質貯蔵の実験を行なっていたそうである(例えば、雪の貯蔵による、夏の冷房のエネルギー利用の研究など)。現在は、実験が終了しており、見ての通りの状態である。この室の岩盤の表面にパイライトという発光成分がにじみ出ており、岩盤が光って見えた。掘った当時はかなり幻想的な空間で、近隣の中学生が見学に来たとき、大変喜んでいたそうである。

50メートルという深さにあるこの大深度地下実験室では、現在も地下緑化実験が行なわれている。音楽会の開催という事例もあるなかで、何かほかにもイベントなどに活用ができないかと考えながら地上に出た。そこで知ったのが、「ジオトラポリス構想」であった。



ジオトラポリス構想とは……


ジオトラポリス構想とは、東急建設が首都圏西部地区の大深度地下に、地下都市空間を創造する構想のことである。
具体的には地下50メートル以深に、1基30万平方メートルの大空洞を3基建設し、ひとつを〈文化・商業・オフィス空間〉に、二つを、郊外と都心を結ぶ高速地下鉄の〈地下ステーション〉として機能させ、その上に〈サブターミナル〉と〈採光ビル〉を建設するというものである。2020年の実現を目指して構想を描き、実証実験として実際に地下50メートルの場所に実験空間を作ったのが、今回訪れたこの施設である。いままで地下空間というと、漫画の世界の様に感じていたのだが、実現へと向けて進んでいるこの状況をまのあたりにして、私たちはただただ驚きながらこの場所を後にした。

 
 
 

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