10月某日

平面計画的には、八重洲的な「商店街型」と池袋的な「ワンルーム型」が隣接しているような印象。八重洲的な「商店街型」には婦人ものが多く、しかも洗練されていないのはなぜなのだろうか……。渋谷も例外ではない。また、この地下街と地下通路は新宿や池袋に比して規模は随分小さいけれど、慣れないと若干把握しづらい。地上の駅前空間が「ニンニク型」ではないためだろうか。「ニンニク型」とは勝手な命名で、駅前ターミナルとそこから伸びる大通りがそれに似た形状をしていることによる。八重洲や横浜はそうした地上の空間構成を地下街が明らかにトレースしていた。しかし、渋谷の地下通路はそのようにわかりやすい構成をとっていないために、空間の位置把握をするまでに時間がかかるのである。だが、いったん慣れてくると、地下通路と地上とが部分的に整合性をもちあわせているということにも気がつくことになる。特に、109付近の鋭角の分岐点。当然だが、面白いほどに、地上空間と同じプロポーションをもつ。まるで「影絵当てゲーム」。 断面的にはどうか。地下街から地下街的な要素をもって連続するマークシティまで含め、その敷地は横浜と同様、起伏がある。ただ横浜は海に近づくに従い、下っていく斜面だったのに対し、渋谷はその地名のとおり、「谷」。そして、地形に対しての対応、つまり断面と地形の関係は対照的といってよいかも。横浜の地下街は地形に沿うように呼応していたため、「自然」であったし、地下を歩いていても、そこが海辺であることがいくらか実感できた。逆に渋谷は、グランドフロア付近(1、2、3階辺り)の床も地表面の起伏とは対応していない。従って、地下や建物内部を歩いていても、あまり「谷」という要素を意識することはないが、ある時、唐突にその要素が私たちの目の前に出現する。たとえば、地下街ではないが、道玄坂の上で地上レベルからマークシティの「マークシティアベニュー」に足を踏み入れ、駅に向かって楽しく歩く。本当の外部こそ見えないが、街路風の床仕上げ、“ニセ・トップライト”、店内からせり出すオープンカフェの椅子を心地よく眺めながら。しばし、そこが地下か地上か、内部か外部かなどという些細な識別は忘れ、そんなことはどうでもよいと思い始めたころ、現実が露呈される。3階にいたのか、と気づく。そのとき、そういえば「マークシティアベニュー」と伴走する道玄坂は「坂」だったんだ、と。こんな風に、外部(地上?)と完全には関係を切断できずにいるのに、その内部にささやかな別世界を創ってしまう。地下的だ、マークィシティも。 あるいは、似たような驚きを、渋谷駅にしきりに出入りする銀座線も教えてくれる。「地下鉄」なのに、渋谷駅付近で、地表面を走る自動車のさらに上方をオレンジと銀のボディが走り抜ける。そうか、ここは「谷」だったんだ、と。同時に、この地下鉄の浅さ。そう、銀座線は東京で最初に開通した地下鉄だった。そんなことまで、思い起こさせてくれる。そんな地形とのイレギュラーな関係は、地下空間の開発によって、かえって視覚化されてしまうのでは。「通り抜け」という地下街の重要な機能のひとつ。それも、しっかり渋谷地下街は担っている。東急文化会館付近から、渋谷駅をまたぎ、109を越えてプライム付近まで。地上を歩けばイライラする、信号、車、人の波……。地下街を巧みに利用すれば、特に休日など、ストレスなしに高速移動。無意識にそんな選択肢を選び、行動している人こそ、本当の「都会人」と呼びたい。 多種の交通機関による混雑も、渋谷の特徴。その状況は無論、地下街へも。山手線、東横線、銀座線、井の頭線……各種の電車、バス、付近を走る高速道路、幹線道路。人間がトボトボ、地下通路や歩道橋を歩くことを余儀なくされる街。おそらく、マークシティの歩行者空間は人間が求めていたものだろう。地下街の開発にも、参照する価値があるのではないか。ぜひ、渋谷の街に人間的な地下街の開発、充実を。 次の遊歩では、交通機関、地形などと渋谷地下街の関係から渋谷という街の性格が覗ければ。(塩田)

 

 

 


10月吉日

渋谷駅から恵比寿方面に向かうとき、歩道橋を渡るという選択肢のほかに、地下通路を抜けてゆくというものもあるということをご存じでしょうか。外では人通りが多い時間であるにもかかわらず、中にはいるとほとんど人気がないということからもわかるように[写真1]、この通路は渋谷駅の中心付近にその入り口があるにもかかわらず、その存在を意外に知られていないようです。事実、今回のフィールドワークでほかのメンバーと渋谷駅を歩いたときも、そこに通路があることを知っていたのは僕だけでした。また、渋谷駅地下街が「しぶちか」と呼ばれていることはわりと知られていると思いますが、その「しぶちか」の正確な全体像を思い描くことができる人がどれだけいるでしょうか[写真2]。なんとなく、「しぶちか」はあのへんにあるのだろうということはイメージできても、しかしそこがどのような場所であるかを思い出すことはなかなかに困難なのではないかと思われます。実は、このイメージはフィールドワークを行なった後でもさほど変わっていません。フィールドワークを行なったにもかかわらず、その場所の具体的な全体像を思い浮かべることは困難である、という実感があるのです。また、例えばそれは、そこが巨大すぎて把握できないとか、複雑すぎて把握できない、といった原因を特定できるような性質のものとは違ったものであるように思うのです。そこは、いってみれば「ただなんとなく把握しづらい」という感じなのです。そこに地下街があるということは皆に知られていても、そこがどんな場所なのかは誰も知らない。中心にあるのに誰も気づかない場所。地下街は、どこか特別な場所にあるのではなく、ただふつうに僕らの隣にあったのでした。だから今回のフィールドワークのタイトルは「そこにある地下街」というものがふさわしいと思えるのです。(瀬山)

 


1──恵比寿方面に抜ける地下道


2──「しぶちか」の一部

 


10月9日

渋谷は買い物やなにやらで、比較的よく利用する街のひとつ。しかし、こと地下街に関して言うと意識的に利用したことは一度もない。そんな意味においては、おもしろいなと思ったことがいくつかある。
僕らはとりあえず、「しぶちか」に行き、そこから繋がる地下空間を探索することにした。どっちに向かっているのか、はじめはわからなかったが、地下案内図によると、どうやら109方面に向かっているらしいことはわかった。おもしろいことに、地下からそのまま109にアクセスできるにもかかわらず、ここにはほとんど人がいない[写真3]。地上のスクランブル交差点の混み具合に比べるとはるかに人が少ないのである。みんなこの道を知らないのか、地上の喧噪をあえて選んでいるのか、僕には見当もつかないが、例えば宇田川町方面や松濤方面に早く行きたいときなんかはこの道は結構有効かもしれない。
こっち方面の地下は、地上でいうともうちょっと坂をあがったあたり、シネセゾンのあたりで終わっている。たぶん地下鉄の駅などの関係上ここまでということなんだと思うが、これが例えばマークシティの出口付近と繋がってたりすると、渋谷駅と道玄坂付近で輪っかのような空間ができたりしておもしろいのではないかと思った。地下街と、マークシティのような巨大な内部空間がある大きさの回遊動線をつくりだしていると、地下では地上とまた異なる人の動きが起こるだろうし、地上との関わり合いも変わってくるのではないだろうか。(田中)


 


3──「しぶちか」109入り口付近