「東京グラウンド」

東京は日本一広くなだらかな関東平野に位置しており、一般に平面的な巨大都市と呼ばれています。しかし実際東京で生活していると、ここがなだらかな場所であるとは到底思えず、むしろ複雑な、全体を見通せない環境であると誰もが実感するのではないでしょうか。なぜこのように現実と実感とでズレが生じているのでしょう?

東京を平面ではなく断面から見てみましょう。そこには地上の構築物のほか、さまざまな地下空間が広がっています。そして地上と地下を隔てるように、東京の地表面が横たわっている。この地表面は社会的・文化的に定義されており、また地上や地下の位置からも捉えられるでしょう。
しかし生活者はこの定義された地表面と地上・地下について、ほとんど意識することがないのではないか? なぜなら、移動して気がつくと現在地がいつの間にか地上もしくは地下であったり、さらにこの地上と地下に対する実感が、定義されたそれらと異なっていることすらよくあるからです。東京を断面より眺めてから、私たちはますます現実と実感とのギャップについて意識するようになったのです。

「東京グラウンド」は実際の地表面と異なる、イメージでとらえられた地表面をヴィジュアル化したものです。つまり「心理的・認知的ジオグラフィ」。この認知地図を制作するにあたり、まず私たちは地上みたいな地下「地上的地下」、地下みたいな地上「地下的地上」を調査しました。そしてそれぞれから再抽出[fig.1]された新しいグラウンド・レベルをつなぐことで、東京における別の地表面を編んでいったのです。

東京でのフィールドワークは骨が折れます。繰り返すなら、全体像がなかなか見えてこないからです。しかしにもかかわらず、複数の視点から実感として各々とらえられているのも確かなことではないでしょうか。
「東京グラウンド」では総数55の視点をマッピングしました。かつてイタリアの文学者イタロ・カルヴィーノが、彼の著書『見えない都市』で都市の諸断面を想像力豊かに55個記したのを思い出してください。つまり私たちは、東京という謎めいた環境をつぶさに見聞する旅行者となったのです。

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やがて「東京グラウンド」を介して、私たちは東京が全く平坦ではないことに気づきました。つまり、日本一広くなだらかな関東平野に位置する東京は、実のところ日本一起伏の激しい地平だったのです。

野村俊一