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  . 堀井義博

《ロス・クルベス》
メキシコ・シティ、1961-72年


《トゥラルパンの礼拝堂》
メキシコ・シティ、1953-60年


サテライト・タワー》
メキシコ・シティ、1957-58年


ロマス・ベルデスの
エル・ジグラット
メキシコ・シティ、1964年
透視図


出典=いずれも本展カタログより

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その一方で、全体的なアート・ディレクションに少し統一感が欠けている、という印象は否定できなかった。例えば上述の模型を展示したセクションには(彼女ら大学院生たちのアイデアなのだろうか?)「barragan peep show」などというような、それは確かにその通りなのだけれども、ちょっとおかしなローカル・タイトルが付されているうえに、その文字組みにもおかしなものが使われていたりして、つまりそこだけ少し浮いていた。単純に言って、展覧会の主役はバラガンの建築そのものであるわけで、だからこういう部分ではあまり主張するべきではないと感じたうえに、その仕上げのインターフェイスや統一感が欲しいと感じた。特にこの部分は、東京展のために後から付け加えられたもののはずなので、仕上げを他の部分に合わせることは可能だったはずだ。
また、本当の理由は分からないけれども、巡回展示にあわせて(?)可搬性を想定したためか、壁付けされた平面展示物のあり方も少し気になった。というのも、図面やスケッチなどが、ほとんどすべて非常に太い額縁の付いたケースに納められていたのだが、この額縁が強過ぎて、展覧会場を全体として眺めた時の印象は、額縁ばかりが目に付く、という風情であった。これはバラガンの建築の静謐性を伝えるのに少し邪魔しているように思えた。しかし、そう感ずる一方で、逆に、東京都立現代美術館の展示空間は、天井も高すぎるため、フレームの弱い壁面展示をすると、展示物が消え入ってしまいそうな印象もあり、これはなかなか難しい判断だと感じた。いずれにせよこの額縁付きの壁面展示は、そのまま海の向こうからやって来た物には違いないのだろうが(それとも東京で作ったのだろうか?)。
展示品目は非常に多い。一度ですべて見るのは大変だ。ル・コルビュジエと同時代を生きた建築家でありながら、あまり知られていない190cm以上もあった大男、ルイス・バラガンの一部に触れるにはうってつけの機会である。また、造本に少々難があるものの、カタログも読みごたえのある大変豊富な内容である。
たしかにメキシコは日本からはいかにも遠い。しかし会場入口に掲げられていたバラガン財団からのメッセージにある通り、この展覧会が、バラガンへの関心を促す一助となり、ひとりでも多くの方が現地へ足を運ばれるきっかけとなるなら、本展はその目的を果たしていると言える。展覧会場に入ってしばらくすると、筆者は、沢山のスイス人やドイツ人たちとともにバラガン自邸にいた時、どういうわけか溢れてくる涙をこらえることができない、という経験を思い出した。その日は本当にぐったりし、心拍も上がって食事がまともに咽を通らなかったほどだ。建築を見ただけでこれほどの身心的影響が生じたのは今までに2度しかない。1度目は、初めてラ・トゥーレットの修道院へ訪れた11年前、1991年の夏。そして2度目が2000年の秋、バラガン自邸を訪れた時である。いずれにしても建築の場合、展覧会はきっかけに過ぎない。