アルゴリズム、方法論の多様性と対立性
松川昌平+田中浩也+藤村龍至+柄沢祐輔+松田達
2009年6月 9日 慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC) MP3 16.2MB 23'34''
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柄沢──僕も今の田中さんと松川さんの話に同感ですが、もう少し分けて考えられることもあるかと思います。今のお話は、「初期値と演算」というように分けることができるし、たとえば「種と花」というように分けることができます。最初に、種や初期値を設定し、その後で演算結果が計算などを介して立ち上がるというのがアルゴリズムの検証の2つのプロセスです。しかし、最初の種や初期値自体を生み出す時にもアルゴリズムが使えるというのが僕自身の考えです。人が無意識に考えている幾何学にアルゴリズム的な思考を加えていくと、種としての幾何学自体、全く異なるものが立ち上がってしまう。それがアルゴリズムのダイナミズムだと思うのです。種自体も新しく作ることができる。それは、ギリシャ哲学やギリシャ数学をやっていくとよくわかります。......
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柄沢──南後さんの水平垂直の話に繋げると、僕がコールハースについて思うのは、きわめて垂直のデザインがヘタクソだという印象です......水平の美学、垂直の美学というのがそれぞれ言葉として存在するんじゃないかと思っていて......これは強引な図式化なんですが、ロシア・アヴァンギャルドの空間は水平美学で、とにかく徹底的な水平性が強調されたデザインがつねに展開している。......水平美学は共産主義の美学としてある。一方で、マンハッタンの《ロックフェラーセンター》のような、垂直なラインを強調する美学のように、資本主義の空間における美学はつねに垂直になる傾向がある。......だとしたら、そのふたつがある種転倒されたかたちであるというのは、まさにその通りだなと思っていて、僕がさっき言った話に関連させると、垂直に存在しているものに、なんとか強引に水平のものを入れていこうとするパッションが、レム・コールハースにはつねに存在している......
卒計展のイメージ
吉村靖孝+山崎亮+藤村龍至+五十嵐太郎+山田幸司
2009年3月23日 名古屋市立大学北千種キャンパス MP3 13.1MB 19'01''
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山崎──フリースペースというかオープンスペースというか、ユニバーサルスペースとまでは言わないのだけれども、若干の癖付けだけしておいて、あとはどうとでも使えますよ、みたいな建築の計画が多いなと思っていたのがここ数年のイメージです。......建築でなんとなく空間みたいなのを作ってきたのが、10年 20年たつと、「やっぱり、あのままではだめだったんじゃないか」となるのか、ならないのか興味があるところです。......
出演者プロフィール
吉村靖孝
1972年愛知県生まれ。1997年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、2002年同大学大学院理工学研究科博士後期課程満期退学。吉村靖孝建築設計事務所代表取締役、関東学院大学・早稲田大学芸術学校非常勤講師。
http://www.ysmr.com/
山崎亮
1973年生まれ。1999年大阪府立大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2006年より東京大学大学院工学系研究科博士課程都市工学専攻在籍。京都造形芸術大学、京都市立芸術大学、近畿大学、大阪工業技術専門学校講師。studio-L代表。共著に『震災のためにデザインは何が可能か』『マゾヒスティックランドスケープ』『都市環境デザインの仕事』など。
http://www.studio-l.org/
藤村龍至
1976年生まれ。建築家。東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。現在、藤村龍至建築設計事務所主宰。東京理科大学、首都大学東京、日本女子大学非常勤講師。PROJECT ROUNDABOUT共同主宰。作品=《BUILDING K》《UTSUWA》など。編著=『1995年以後──次世代建築家の語る現代の都市と建築』など。
http://www.ryujifujimura.jp/
http://www.round-about.org/
アルゴリズミック・デザインとは何か?
松川昌平+田中浩也+藤村龍至+柄沢祐輔+松田達
2009年6月 6日 慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC) MP3 17.2MB 24'59''
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松川──この授業では設計プロセスに他者性を持ち込もうとしているのです。つまり、自然のように設計者がいなくても、建築が自律的に生成していくようなことが本当にあり得るのかということがテーマの極北にあります。その過程として、合理的な判断を持ち込むために設計者も介在している。一方で、コンペとアルゴリズムによって自律的に生成するようなシステムもある。それらのせめぎ合いだと思います。統合が必要だという意見もありますが、自分がやりたいことを 100%設計に導入しようとすると、自分の頭のなかで描いている以上のものはできないと僕は思う。そこで、他者性を設計プロセスに導入することによって、ノイズが発生し、自分が当初思い描いている以上の物ができるのではないかと考えているのです。
藤村──別の言い方をすると、アルゴリズムのパターンが生み出しているかたちのイメージはグリッドとキューブとサークルとボロノイ図。だいたいこれなのです。これをそろそろ超えないと、「多様性」の限界を乗りこえられない。......
*今回は、SFC松川昌平氏の授業「アルゴリズミックスペース」の中間講評会が終わった直後に、ゲストの藤村龍至氏、田中浩也氏、柄沢祐輔氏、松田達の五人でアルゴリズミックデザインについて議論を行ないました。
出演者プロフィール
松川昌平
1974年生まれ。建築家。000studio一級建築士事務所主宰。慶応義塾大学SFC、東京理科大学工学部非常勤講師。作品=《AlgorithmicSpace[Hair_Salon]》《AlgorithmicSpace[BeachHouse]》など。
http://www.000studio.com/
田中浩也
1975年生まれ。工学博士。専門は空間情報科学、空間認知科学、システム開発。京都大学総合人間学部卒。東京大学大学院工学研究科博士課程修了。現在、慶應義塾大学准教授。作品=《PhotoWalker》(共作、GIS学会賞ソフトウェア部門最優秀賞ほか多数受賞)《GeoWalker》など。
藤村龍至
1976年生まれ。建築家。東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。現在、藤村龍至建築設計事務所主宰。東京理科大学、首都大学東京、日本女子大学非常勤講師。PROJECT ROUNDABOUT共同主宰。作品=《BUILDING K》《UTSUWA》など。編著=『1995年以後──次世代建築家の語る現代の都市と建築』など。
http://www.ryujifujimura.jp/
http://www.round-about.org/
柄沢祐輔
1976年生まれ。建築家。慶応義塾大学大学院建築・都市デザインコース修了。文化庁派遣芸術家在外研修制度派遣員としてMVRDV(蘭)に在籍を経て、2006年柄沢祐輔建築設計事務所設立。情報論的,あるいはアルゴリズム的な思考を軸とした建築・都市空間を探求している。
http://yuusukekarasawa.com/
関連項目
テーマ討議
アルゴリズミック・デザインをめぐって
1──
アルゴリズミック・デザインとは何か?
2──アルゴリズム、方法論の多様性と対立性(6/29予定)
3──アルゴリズミック・デザイン教育の可能性(7/6予定)
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南後──なぜ僕のような社会学者にとってレム・コールハースが魅力的にうつるのかというと、もちろんAMOのリサーチというのもあるのですが、建築家の職能自体を建築的思考によって建築している、とでもいいましょうか、建築家の社会的位置みたいなものを考えるうえで、コールハースというのはすごくスリリングなわけですね。先ほど堀井さんが「なぜ彼は建築家を辞めないのか」と言っていましたが、1972年のプロジェクト《エクソダス》のサブタイトルは「自発的な建築の囚人」だったわけです。......それを文字って言うと、コールハース自身が囚われの建築家、自発的な囚人として建築に関わっているというアイロニカルな見方もできる。......
出演者プロフィール
南後由和
1979年生まれ。社会学、都市・建築論。東京大学大学院情報学環助教。桑沢デザイン研究所、駒澤大学、法政大学非常勤講師。
建築の基本図書
村上心+五十嵐太郎+南泰裕+山田幸司+松田達
2009年5月 9日 椙山女学園大学 MP3 13.5MB 19'36''
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五十嵐──建築系の学生にどれか1冊と言われたら、ル・コルビュジエ『建築をめざして』がいいと思います。理由はシンプルで、読んだら元気になる。ポジティヴで前向きになれます。実際この本はものすごい感化力があって......例えばイタリアだとテラーニがこれを読んで覚醒して、アメリカではバックミンスター・フラーが感動して、南アメリカではオスカー・ニーマイヤーが影響を受けている。日本人でもこれを読んでフランスに行ったりと、いろんな人に影響を与えている。実際に建築を見ることがなくても、考え方をあざやかに示している。......
推薦図書
村上心
・『Readings:1 建築の書物/都市の書物』
INAX出版、1999
・ケネス・フランプトン『テクトニック・カルチャー』
TOTO出版、2002
・『建築家──職能の歴史』
日経マグロウヒル社、1981
五十嵐太郎
・ル・コルビュジエ『建築をめざして』
鹿島出版会、1967
・R・ヴェンチューリ『建築の多様性と対立性』
鹿島出版会、1982
・ケネス・フランプトン『現代建築史』
青土社、2003
南泰裕
・原広司『空間〈機能から様相へ〉』
岩波書店、1987
・レム・コールハース『錯乱のニューヨーク』
鈴木圭介訳、筑摩書房、1995
・ルイス・カーン『ルイス・カーン建築論集』
前田忠直編訳、鹿島出版会、2008
>> 南泰裕 推薦図書 30冊 >>
山田幸司
・アレクサンドラ・ティン
『ビギニングス──ルイス・カーンの人と建築』
丸善、1986
・瀬尾文彰『意味の環境論──人間活性化の舞台としての都市へ』
彰国社、1981
・ブルーノ・ゼヴィ『空間としての建築』
鹿島出版会、1977
松田達
・スタニスラウス・フォン・モース『ル・コルビュジエの生涯』
彰国社、1981
・アルド・ロッシ『都市の建築』
大龍堂書店、1991
・『新建築臨時増刊 建築20世紀 4人の建築家が問う1990年代』
新建築社、2001
出演者プロフィール
村上心
1960年生まれ。椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科教授。博士(工学)。1985年東京大学工学部建築学科卒業。1992年同大学工学系研究科博士課程満了。1997年蘭・デルフト工科大学OBOM研究所客員研究員。
批評からスクリプトへ│勝矢武之
勝矢武之+柄沢祐輔+南後由和+坂牛卓+堀井義博+コアメンバー
2009年6月 1日 南洋堂書店 MP3 20.2MB 29'23''
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勝矢──長い間建築をやっている人は往々にして、その変節をたたかれることがあるように思います。コールハースについてはどうなのかということを簡単に問題提起してみたいと思います。70年代から90年代くらいまでのコールハースは、デコンの旗手と言われていたと思うんですね。デコンというのは、すでにある枠組みを解体して、ずらして別のものをつくっていくことです。このことは、コールハースがヨーロッパを中心に活動していたことと無縁ではないと思っています。つまり、ヨーロッパの社会規制というか、共同体というかたいものに対して、それをずらしていくというアプローチ......この点において、コールハースの建築はデコンであったし、ある種の批評を持たされていた。ずらすものがあるがゆえのデコンだったわけですよね。......
出演者プロフィール
勝矢武之
1976年生まれ。1998年京都大学建築学科卒業。2000年同大学院修士課程修了。現在、日建設計勤務。
地方都市と卒業設計
岩佐明彦+松田達+学生の皆さん
2009年2月28日 新潟市某所 MP3 13.9MB 20'11''
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松田──先ほど、日本一決定戦に対して、日本海一決定戦を開きたいと言ってましたが、それは結構おもしろいかなと思います。日本海側と太平洋側は環境も違うし、もしかしたら考え方も違うかもしれないし、情報の行き来も違うという気がします。......
出演者プロフィール
岩佐明彦
1970年生まれ。1994年東京大学工学部建築卒業。2000年同工学系研究科建築学専攻博士修了。2003年より新潟大学工学部建設学科准教授。
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佐藤──『ユリイカ』は批評の雑誌ですので、これまで、ガウディ、コルビュジエ、リベスキンド、藤森照信くらいしか、建築家の名前を銘打ってつくったものはありません。......磯崎新さんと浅田彰さんの対談では、磯崎さんが大きな器で、レム・コールハースという後輩をあたたかく見守っているさまがよくわかり、読み物的にもおもしろいものになっていると思います。......東浩紀さんがやっている『思想地図』でもアーキテクチャの特集をやっていたので、そことリンクするようなかたちで、コールハースの仕事が今後どう意味を持ち得るのかということを、濱野智史さんと藤村龍至さんに、広い視野から書いていただいています。......
出演者プロフィール
佐藤洋輔
1980年東京都生まれ。国際基督教大学教養学部語学科卒業。一橋大学大学院言語社会研究科修了。青土社『ユリイカ』編集部所属。
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柄沢──私はMVRDVに在籍して、さまざまな建築プロジェクトに関わりました。MVRDVというのはレム・コールハースの弟子で、一見似たようなことをやっているように見えるんですけれども、明確に違うところがあります。ひとつには、タイポロジーをパターンとして打ち出しているところです。そのタイポロジーのパターンは本にも掲載されています。そのパターンにプログラムの容積を肉付けしていくというかたちで、すべての建築をつくっています。これは創作方法としてはかなり明確なんですけれども、レム・コールハースというのは一見そういうものがまったく見えない......
出演者プロフィール
柄沢祐輔
1976年生まれ。建築家。慶応義塾大学大学院建築・都市デザインコース修了。文化庁派遣芸術家在外研修制度派遣員としてMVRDV(蘭)に在籍を経て、2006年柄沢祐輔建築設計事務所設立。情報論的,あるいはアルゴリズム的な思考を軸とした建築・都市空間を探求している。
http://yuusukekarasawa.com/