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67 デンマーク[3]

切り妻屋根にレンガの壁という典型的な住宅が広がるデンマークの住宅街の中で、郊外に行くとフラットな屋根の住宅も少なからず目に付く。調べてみると1950年代にその新しい型の源泉があり、その変化のきっかけを与えたもののひとつが日本の建築であることがわかる。頑なに伝統を継承するデンマークにあって、50年代というある一時期に意匠上の変化が集中しているのは、 第二次大戦や社会的な影響ももちろんあるが、衝撃的に現われた日本の建築で あったというのは興味深い。なぜ衝撃的かというと、30年代に発刊されたブル ーノ・タウトの『日本の家屋と生活』や吉田鉄郎の『日本の住宅』によって日本に対して海外からの注目が集まるなかで、50年代に「The Japan Architect」が創刊されたことによって、欧米諸国においてもダイレクトに日本の情報が手に入るようになったからである。しかもそこに見られる建築は、スカンジナヴィアの国々と同様に木造の伝統を持ちなが ら、フレキシブルな開閉機構や縁側によって内外が接続された開放的なもので、恒久的な壁を前提としてきた彼らにとってまったく新しいものだったから、なおさら強い印象を与えたようだ。戦後ということもあって、ローコストかつ繊細なデザインでまとめられた日本の住宅は、デンマーク人の求めるもの にも合致し、良い参照源ともなった。オーフス建築大学の書架にも創刊号から の「The Japan Architect」が並んでおり、少々くたびれてはいるが、いまで もリファレンスとしての機能を果たしている。
そのような時代に設計された建築家の自邸に示されているのは、まさしく日本建築をデンマークの文脈に翻訳し直したものであり、訪れた数だけのバリエー ションはあるが、フラットな屋根と開放的な一室空間、そして煙突がセットに なった共通の要素が備わっている。東西を海と庭に大きく開く《グロングソン自邸》を訪れた際には老夫人が「この家では私は太陽と共に移動するのよ」と 言って亡き夫の作品を嬉しそうに説明してくれた。間仕切りともなっている書棚には「日本の家屋」全集が恐らくグロングソン氏の生前のままの状態で横積みになっており、夫人は氏が日本に高い関心を持っていたことを話してくれた。
この時代に試みられた日本建築に対するアプローチの最高点がヴィルヘルム・ ヴォーラート設計の《ルイジアナ美術館》とされており、住宅以外で唯一加えた。幾度もの増築を繰り返してきた棟が地形をなぞるように細長く延びる中 で、柱梁による開放的な架構が内外の連続的な風景を創出している。



[撮影者:脇坂圭一(デンマーク・オーフス建築大学、東北大学大学院 都市・建築デザイン学講座)]

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pic  カーン・アンド・エッベ・クレメンセン《カーン・アンド・エッベ・クレメンセン自邸》[1] [2] [3]

pic  エリック・クリスチャン・ソーレンセン《エリック・クリスチャン・ソーレンセン自邸》[1] [2] [3]

pic  ハラルド・プロム《ハラルド・プロム自邸》[1] [2]

pic  ヴィルヘルム・ヴォリャト《ニルス・ボーアのサマーハウス別棟》[1] [2]

pic  フィン・モニース《フィン・モニース自邸》[1] [2]

pic  ハルドー・グンログソン《ハルドー・グンログソン自邸》[1] [2] [3] [4] [5]

pic  クラウス・エルマン《クラウス・エルマン自邸》[1] [2] [3]

pic  クヌド・フリス《クヌド・フリス自邸》[1] [2] [3]

pic  エルマー・モルケ・ニールセン《エルマー・モルケ・ニールセン自邸》[1] [2] [3] [4]

pic  ヴィルヘルム・ヴォリャト《ルイジアナ美術館(増築)》[1] [2] [3]

pic  クヌド・ピーター・ハーボー《クヌド・ピーター・ハーボー自邸》[1] [2] [3] [4]

pic  ハンナ・アンド・ポール・ケアホルム《ハンナ・アンド・ポール・ケアホルム自邸》[1] [2]


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