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196 インド

196 インド

街は事件に溢れていた。駅をひとたび出れば、瞬く間に大勢のタクシー運転手が集まり、熱烈な歓迎のおかげでまっすぐ歩くことすらままならない。クラクションが鳴るほうを見れば、牛が数頭で道路を横切り、細い路地に入れば、傷だらけで毛が抜け落ちた犬がたむろし、こちらを睨んでくる。人々は、ごみを道端に捨て、野良犬や野良ブタや野良ヤギがそれを食べている。公共の場所にもかかわらず「入場料を払え!」と詐欺師に怒鳴られ、"からくない"からと店員に勧められたオムライスすらも辛い。インドで起こるすべての出来事が日本人の私たちにとっては常識の範囲外で、私たちの脳みそと肉体をこれでもかというほど刺激した。

2016年3月末から約2週間かけて、デリー、ジャイサルメール、ジョードプル、アーメダバード、コルカタの5都市を訪れた。一口にインドと言っても、その国土は広く、土地ごとの気候や歴史によって、さまざまな風景が現われている。デリーの中心部は、有名企業のオフィスや高級ショップ、チェーンの飲食店が立ち並び都市化が進んでいる一方、すぐ近くには、ムガル帝国の城や巨大なモスクが残されており、現代的な都市と歴史の厚みを一度に味わえる場所だ。
砂漠にほど近いジャイサルメールは、街自体が城壁に囲まれ、土でつくられた家々が日差しを浴びて金色に輝く城塞都市である。城内の迷路のような道と城の過剰なほどに細やかな装飾は、12世紀にこの土地を治めたバッティ家の力を現代まで知らしめている。
岩山の上に建つ巨大な砦が存在感を放つジョードプル。日差しが強いこの都市の街路は、日陰を伝って移動できるよう道幅がとてもせまい。建物の外壁は、日差しを反射するとともに、視覚的な冷涼作用を狙っているためなのか青く着色されており、それを砦から見下ろした風景は、「ブルーシティ」と呼ばれ、圧巻である。
インド西部、グジャラート州に位置するアーメダバードには、約300年前の王朝時代に建設された旧市街が存在する一方、経済発展に伴い多くの高層ビルが建設の真っ只中にある。そんなさまざまな風景がせめぎ合う都市のなかで、ずっしりとした佇まいで輝きを放ち続けるのは、ル・コルビュジエやカーン、ドーシらモダニズムの巨匠たちによって設計された建築群である。繊細な空間操作とインドの風土が織りなす建築群は半世紀経った今でも色褪せることのない魅力を備えている。
イギリス統治時代に首都が置かれたコルカタは、近年人口が急激に増加しているメガシティである。それまで巡った都市とは比べものにならないほどに街中は人で溢れ、交通渋滞を免れることは不可能だ。

今回は、インド国内の観光名所や名建築に加え、経済発展により目まぐるしく変化する都市のなかで生きる人々の日常もいくつか紹介したい。私たちは、インド人の自由奔放な人柄と彼らが生きる空間に思いを馳せ、今でも時々無性にインドが恋しくなるのである。



[撮影者:吉川尚哉(東北大学大学院)+川崎光克(東京大学大学院)]

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