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131 流政之の彫刻

131 流政之の彫刻

僕は、リアルタイムで映画『男はつらいよ』見たことはないが、流政之のことを知れば知るほど、渥美清演じる車寅次郎の姿が頭に浮かぶ。流は、長崎で生まれ、13歳の頃、京都の町方で父である中川小十郎のもとで教育を受け、剣法、古流武道を教え込まれた。それがきっかけで後に刀鍛冶の門を叩き、彫刻の道へとつながった。1943年には海軍飛行科予備学生としてゼロ戦パイロットとなるが、戦後は敗戦の日本の姿を確かめるため東京から下関まで倒れた墓を起こしながら放浪を続けた。アカデミズムと権力主義をことさら嫌い、日本芸術大賞さえもなかなか受け取らない。しかし、うまい飯といい女のためならどこへでも、一年の三分の一は旅に出るという、まさに劇中を飛び出した「フーテンの寅」こと流政之の向かった場所は香川県庵治町だった。
世の中をよく「狭い」と表現することがあるが、身近なことほど「意外に知らない」のも世の常だ。僕は香川で生まれ育って二十数年になるが、流が香川県で制作している世界的な彫刻家であり、家具デザイナーのジョージ・ナカシマや彫刻家のイサム・ノグチを庵治町に連れて来たのだということをいままでまったく知らなかった。また、今回巡った彫刻作品の多くは一度ならず、何度も目にしていたのだから意外ではなく、恐ろしいほどに「知らない」のだなと感じる。
そんな、流の彫刻を今回初めてじっくり見て、丁寧に触ってみると彫刻の一つひとつがそれぞれ違うのである。当たり前ではないかと思うかもしれないが、一見同じフォルムをしていてもそれらの作品はまったくの別物。ドキドキしたり、優しくなったり、見ているときの情報量を遥かに超える感覚を与えてくれるのである。
近年、瀬戸内海に浮かぶ無数の島々を使ったアートプロジェクト「瀬戸内国際芸術祭」で目を引く香川であるが、1950年から24年間、県知事を務めた金子正則の働きかけで丹下健三や谷口吉生などによる多くの建築作品がつくられ、同時に岡本太郎の言葉を借りると、近代建築に対立する芸術作品も数多くつくられた。しかし、芸術活動が盛んな県と言われているが、県立美術館がない香川。香川と言えば、「讃岐うどんでしょ」とよく言われるが、「それを言っちゃあお仕舞いよ」。芸術作品を見に、香川にまたきまい、と言っていこう。



[撮影者:北本直裕(東北大学)]

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