PHOTO ARCHIVES

127 スペイン(カサレス+バレンシア)

ヨーロッパ南西のイベリア半島に位置し、さまざまな風土と希有な歴史を辿ってきたスペイン。関係する民族や国、宗教などによって変化・蓄積されてきた風景や建築様式は見るものを飽きさせない文化の深さを感じさせる。その複雑な歴史的背景は、アントニオ・ガウディやリュイス・ドメネク・イ・モンタネールなど有名な建築家にも多大な影響を及ぼした。それらの多様な要因を背景に成り立ってきたスペインには、風土を起因とする風景も多く存在し、印象深く記憶されている。先日スペインを訪問した際に訪れた場所のうち、特に土木的なスケールで風土や景色との関わりを強く知覚させる場所がカサレスとバレンシアであった。

カサレスはアンダルシア地方マラガ県にある山間の人口3,000人あまりの小さな村で、エスタポナから20kmくらいの場所にある。ジュリアス・シーザー(Julius Caesar)が湯治をしたことにちなんでカサレス(Casares)という名になったとも言われている。カサレスへは、グラナダからエステポナへ長距離バスで5時間、そこから車で30分ほどなのだが、山々の合間からこつ然と姿を現わす白い町並みに心を奪われ、桃源郷 のように感じたことをよく記憶している。町並みは白い建物で統一されており、「Pueblos Blancos(白い村)」と呼ばれる地中海地方特有の風景を醸成している。町に入り込むと迷路のような雰囲気に魅了されるが、入り組んだ道を抜けると見晴らしの良い山頂にたどり着く。この眺望の良い山頂にはきれいに管理された墓地があり、連綿と続く山々とわずかに見えるアフリカ大陸が望め、カサレスが悠久の場所であることを思わせる。一方、眼下には昔使われていたであろう競技場のような風貌の墓地跡が見え、墓地の場所を見晴らしの良い山頂に移動させたであろうことが伺える。そういえば余生を過ごすために移り住んできた人がいるとの話も聞いた。悠久の地としての町の姿と歴史がここにも表われていると思えた。

スペイン国内で人口第3位の都市として知られるバレンシアには火祭りで有名な旧市街があるが、あわせて旧トゥリア川があった場所につくられた芸術科学都市にも訪れた。1957年の旧トゥリア川による大洪水により、川の流路が市の南側に切り換えられると、排水された旧トゥリア川跡に7kmにわたる公園がつくられ、その地に1996年、芸術科学都市が建てられた。設計は、バレンシア生まれのサンティアゴ・カラトラバ(ソフィア王妃芸術宮殿、レミスフェリック[劇場・ オペラハウス]、ルンブラクレ[植物庭園・彫刻庭園]、フェリペ王子科学博物館を設計)とマドリード生まれのフェリックス・キャンデラ(オセアノグラフィック[海洋博物館]を設計)によって行なわれ、後期ゴシック様式のラ・ロンハ・デ・ラ・セダなど伝統的な建物が密集する旧市街とは対照的に、白を基調としたダイナミックな建築が並び立つ。カラトラバの特徴である白色と構造的なフォルムはここでも健在であり、淡青のスペインの空と良く似合っていた。直線的な敷地は、劇場であるソフィア王妃芸術宮殿、シアターであるレミスフェリック、散策路であり展望台であるルンブラクレ、科学館であるフェリペ王子科学博物館、水族館であるオセアノグラフィックの5施設によって明確に構成され、彼らの近未来的建築が旧トゥリア川跡の景色とイメージを大きく変化させていた。近年、川の再開発に関しては、日本の日本橋付近、韓国の清渓川などをよく耳にするが、この芸術科学都市もまだ注目すべき部分が多々あると感じた。



[撮影者:玄田悠大(丹青社)]

→ 「公開の原則と著作権について」
このエントリーをはてなブックマークに追加

前の記事:128 英国の庭園
次の記事:126 アメリカ東海岸
Photo Archives|五十嵐太郎

INFORMATIONRSS

対談「磯崎新×浅田彰」「インポッシブル・アーキテクチャー」展(大阪府・2/15)

国立国際美術館で開催中の展覧会「インポッシブル・アーキテクチャー──建築家たちの夢」の関連企画とし...

座談会「彫刻という幸いについて」(府中市・2/23)

府中市美術館で開催中の展覧会「青木野枝 霧と鉄と山と」(3月1日まで)の関連企画として、座談会「彫...

展覧会「超看板 SIGNS & BEYOND Vol.2」(渋谷区・1/10-19)

「超看板」は、建築家、デザイナー、アーティストなど、異なる分野で活動するコラボレーターと協働し、既...

展覧会「アイノとアルヴァ 二人のアアルト 建築・デザイン・生活革命」(江東区・12/20-2/27)

世界的建築家のアルヴァ・アアルトとその妻、アイノ・アアルトが1920年から1930年にかけて追及し...

「いま」を考えるトークシリーズVol.9「観光と都市のモビリティそしてアート」(京都・1/11)

多様な角度から同時代の社会を知り、捉え直すためのトピックを挙げ、それにまつわるゲストを招く連続トー...

安藤忠雄早稲田大学特別講演会「夢かけて走る」(新宿区・1/21)

2020年1月21日に早稲田大学西早稲田キャンパスにて、 安藤忠雄氏の早稲田大学特別講演会「夢かけ...

展覧会 「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」(港区・1/11-3/22)

1928年、初の国立デザイン指導機関として仙台に商工省工芸指導所が設立され、1933年には来日中の...

対談 「岡﨑乾二郎──視覚のカイソウ」展 斎藤環+岡﨑乾二郎(愛知県・1/13)

豊田市美術館で開催中の展覧会「岡﨑乾二郎──視覚のカイソウ」の関連企画として、本展出品作家の岡﨑乾...

「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」(千代田区・-2/2)

わたしたちのくらしにとって窓はほんとうに身近なもの。それは光や風を室内に取り入れながら、寒さや暑さ...

「磯崎新─水戸芸術館縁起─」(茨城・11/16-1/26)

建築家・磯崎新による美術館設計を振り返るシリーズの一環として、当館では水戸芸術館の設計コンセプトや...
建築インフォメーション
Twitter Feed
ページTOPヘ戻る