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118 南極建築(東南極・リュッツホルム湾)

第50次日本南極地域観測隊の越冬隊員の一員として、2009年1月に南極を訪れた。われわれ観測隊の生活の拠点となるのは昭和基地とよばれる観測施設であり、任期の終了する2010年の2月までこの基地で暮らした。
誤認識されていることが多いと思うが、昭和基地は南極大陸の上には建っていない。南緯69°00"東経39°35"に位置する、東南極のリュツオ・ホルム湾内にある東オングル島という島の上に建っている。また昭和基地は1棟からなる建築物ではなく、60棟近くの建物による集合体である。1957年に初めて日本の観測隊がこの地にやってきて以来、毎年少しずつ用途やニーズに合わせて規模を拡大してきた結果である。そして驚くことに昭和基地には明確なグランド・デザインというものが存在していない。そのため昭和基地の印象は、多くの建築物が無秩序に乱立している感が拭えない。しかしそれぞれの建物を注意深く見ていると、あるひとつのパターンがあることに気づく。それは、ときには平均風速50m/sにも達するブリザードがやってくる北東側にその正面を向けていることである。ひとたびブリザードがやってくると建物風下には驚くべき量のスノウドリフト(吹きだまり)が堆積する。その量は高床式2階建ての建物が簡単に埋まって見えなくなってしまうほどだ。それでも少しでも自然の力に逆らい耐え抜こうとする姿は、皇帝ペンギンが身を寄せあってブリザードを乗り切ろうとする姿を連想させた。
建築に携わる者として南極で13カ月を過ごしながら感じたことは「建築が建築であるためには、人間が必要不可欠である」ことである。例えば、昭和基地から約270km離れた地点にみずほ基地がある。みずほ基地は27次隊以降、無人観測基地となり、その後積雪により年々氷の下に埋没しつつある。いまやそこに基地があったことを示すものといえば、高い鉄塔と「みずほ基地」と記された看板のみだ。昭和基地においても、僕らが越冬した50次隊で過去最悪の積雪を記録した。ブリザードがやって来るたびに、後に残されたドリフトを眺め僕らは途方に暮れた。無力感を抱きつつも、それでも除雪作業から背を向けることはできなかった。除雪を止めることは、基地の崩壊を意味し、その先には自分たちの死が待っているからだ。氷の下に埋もれたみずほ基地は、もはや遺跡であって建築ではない。20余年前の、人間が関わることから背を向けたその瞬間から遺跡となったのだ。南極に生きる人間は力強い。その人間が居る限り、南極観測が続く限り、昭和基地は建築で在り続ける。



[撮影者:村上祐資(東京大学大学院)]

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