シン・ケンチク

青木淳(建築家)

4 モノの民主主義

設計を手続的幾何学を運用するだけに限定するということは、その運用される対象が作者に発しない、ということを意味する。対象は、作者の恣意でなく、所与として、そこにすでにある。

その土地の自然植生を使うということも、その集落にある色を採取するということも、ありきたりの建築形を用いるということも、そこに補助線としてのグリッドがあることも、「私」に先立ってすでにそこに「世界」がある、という感覚から発する。
世界は、現実から、つまりいまここに私が生きているという意識から切り離されては、構想されず、計画されず、投企されない。

そのような場合、人にとって、すべてのモノは等距離にある。すべてのモノは、「私」の存在とは関わりなく、それが認識されてしまっているという点において、あるいは見えてしまっているという点において、消し去さることのできないものであると同時に、それが操作対象になっているという点で、揺りうごかし、また変形することができうる対象でもある。
「私」とモノとの距離は、モノの種類にかかわらず、そのようにして、同等である。

そうであることのひとつの表れに、モノの順序のなさがある。
建物であれば、それは、骨格や殻としてのインフラと実や内臓としてのインフィルという切り分けに抗う。メタボリズム建築(幹と枝葉)は当然、嫌われる。あるいは、構造体と仕上げという切り分けを否定する。なぜなら、そこにあるすべてのモノは、不動であるとともに揺らぐものであることにおいて、同等だからだ。

この方法でつくられる建築には、ひとつの共通した特徴が刻印される。
モノの民主制である。

たとえば、構造体である木の梁と仕上げであるシナ合板が、同じステインで塗られる。
たとえば、空調室外機が、中庭の上空に堂々と設置される。
たとえば、斜面には、地形の変化に合わせて曲げられた白ガス管の手摺が設けられる。


figs.11, 12──ブリッジ上の空調室外機と白ガス管の手摺[撮影=筆者]

こうして、その建物は、それが建つ環境に違和感なく嵌まりながらも、その環境全体を新しい相に変える。


201908

特集 乾久美子『Inui Architects』刊行記念特集


建築のそれからにまつわるArchitects
シン・ケンチク
なぜそこにプーさんがいるのか──『Inui Architects──乾久美子建築設計事務所の仕事』書評
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